第357話:カサンドラの思惑


 翌日。俺はバーンとメイアを拡張工事をしている『自由の国フリーランド』の街の現場と、『自由迷宮フリーダンジョン』と『無限廻廊エターナルコリドー』に案内する。


 次々と建てられる建物と、拡張した広大な敷地。メイアもいるから、さすがにダンジョンの中までは案内しなかったけど。


「アリウスの国は本当に活気があるし、だいぶ発展して来たな。それに新しいダンジョンが近くに2つも発見・・されるなんて、運も味方しているぜ」


 一応、『自由迷宮』と『無限廻廊』は俺が創ったんじゃなくて。発見したことになっているからな。


「そうですね。アリウス・・・・強運・・は恐ろしいです」


 俺が構わないと言ったから、メイアは俺を呼び捨てにするようになった。ちょっと無理している感じだけど。

 それと当然だけど、メイアは『自由迷宮』と『無限廻廊』が突然発見されたことを、何か裏があるんじゃないかと疑っている。さすがに俺が創ったとは思っていないだろうけど。


 カサンドラとフランチェスカ皇国の貴族のことは新しい情報が入り次第、『|伝言(メッセージ)』で伝えることにして。2人が帰った後、俺はロナウディア王国の王都に向かう。勿論、エリクと話をするためだ。


 王宮に行くと、エリクの私室に案内される。会いに行くことを事前に『伝言』で伝えたから。エリクは部屋の中で待っていた。


「エリク、単刀直入に言うけど。カサンドラさんのことを俺に隠していた・・・・・のは、バーンのためだろう」


 俺はエリクを疑うつもりはないけど。エリクは理由があるなら、隠し事をすることもある。


「さすがはアリウス、全部お見通しって訳だね。バーンが自分で気づいて、自分の意志で動くことが重要だから。バーンが動かなかったら、僕はアリウスに全部話をするつもりだったよ」


 カサンドラはフランチェスカ皇国の方から、グランブレイド帝国に戦争を仕掛けるように画策している。


 だけど用意周到で抜け目のないカサンドラが、事前に情報が洩れるような行動をする筈がない。バーンがカサンドラの動きを掴むことができたのは、メイアの功績じゃなくて。カサンドラ自身が、わざと情報が伝わるように仕向けたからだ。


「バーンが本当にグランブレイド帝国の皇帝になるつもりなら、自分を止めて見せろと。これはカサンドラなりのバーンに対する手向けだよ」


 カサンドラのことだから。バーンが動かなければ、フランチェスカ皇国と普通に・・・戦争を始めるだろう。そんなことは俺がさせないけど。


「グランブレイド帝国とフランチェスカ皇国が戦争するように仕向けるのは、さすがに見過ごせないな。バーンにはカサンドラさんの意図以外は、情報を全部伝えて構わないよな?」


「ああ。それは勿論だよ。あとはバーンがどう動くかだね」


「とりあえず、俺はバーンに任せるつもりだけど。バーンがカサンドラさんを止められなかったら。そのときは手段を選ばないで、俺がカサンドラさんを止めるからな」


「この件に関しては、僕もカサンドラの好きにさせるつもりはないよ。カサンドラの実力なら、フランチェスカ皇国を全て手に入れることもできると思いうけど。カサンドラは血を流すことに躊躇ちゅうちょしないからね」


 エリクとカサンドラが本気になれば、世界の半分以上を手に入れることも可能だろう。だけどカサンドラと違って、エリクは血の代償を払うつもりはないし。俺と魔王アラニスがいるから、『魔族の領域』と『自由の国』には手出しさせないけど。


 俺はエリクからカサンドラの計画の詳細を聞く。


 カサンドラが接触したフランチェスカ皇国のストラダー伯爵は、皇国の私掠船と繋がりがある。私掠船とは国が認めた海賊のことで。フランチェスカ皇国は私掠船に、皇国に対して敵対的な国の船を襲うことを認めている。


 ストラダー伯爵は私掠船に別の国の船だと偽情報を流して、グランブレイド帝国の交易船を襲わせる。その船には偶然・・、お忍び旅行に来ていたカサンドラが乗り合わせている。


 カサンドラがお忍び旅行に来ていることと船名は、事前にフランチェスカ皇国に伝えておいて。念のために、その情報が私掠船に伝わらないように工作。カサンドラは私掠船を撃退した後、これは皇国がカサンドラの命を狙った卑劣な行為だと宣言して、フランチェスカ皇国に宣戦布告する筋書きだ。


 その時点でストラダー伯爵と家族は別人として、グランブレイド帝国に亡命済み。相応の地位と報酬と身の安全は約束している。

 もしストラダー伯爵が裏切ったとしても、すでに伯爵の元にはカサンドラの手の者がいるから。全部筒抜けで、口封じをするのも容易だ。


「カサンドラさんらしいと思うけど。そこまでやるかって感じだな」


「これはあくまでも、現時点で僕が把握している情報だよ。カサンドラのことだから、もっと何重にも仕掛けを施しているだろう。

 5年前ほどからルブナス公国の飛空艇と軍船の増強を進めているし。宣戦布告したら、直ぐに電撃作戦でフランチェスカ皇国を攻撃して。戦争回避の機会を奪うと思うよ」


 カサンドラが考えていることは、俺が想像している以上ってことか。


「これはバーンに頑張って貰うしかないな。俺もカサンドラさんと戦いたくないから」


「そうだね。僕もアリウスとは戦いたくないよ」


 エリクは俺の実力を知った上で。俺の力を恐れているんじゃなくて、本心から戦いたくないと思っているんだろう。


 正直なところ。カサンドラがやろうとしていることは、俺とエリクにとっても迷惑極まりないけど。

 エリクはカサンドラがそういう奴・・・・・だと解った上で、結婚したんだからな。


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