第354話:テストプレイ


 ロドニア・バジェスタ伯爵との再会というか。ロドニアの親馬鹿ぶりを見せられてから、1ヶ月ほどが経った。

 まあ、俺がアリウスだと気づいてから、態度変わったけど。


 あれから冒険者アルについて、何か噂が流れることはなかった。

 ロドニアは冒険者アルの正体が俺だと、他の奴に話すほど馬鹿じゃないだろう。アルが俺だという証拠はないし。そんなことをしても、ロドニアには何の得もないからな。

 

 仮に俺がアルだとバレたら、二重に冒険者登録することは冒険者ギルドの規約違反だから。アルとして活動できなくなる可能性がある。だけど『変化の指輪シェイプリング』で別の姿になって、また新しく冒険者として登録すれば良いだけの話だ。


 あとは別れ際に『これからも・・・・・ルシアのことをよろしく頼む』と言ったことが気になるけど。実は、あれからもルシアから食事に誘う『伝言メッセージ』が何度も来ている。


 俺は妻帯者だと言ったのに。ルシアがどういうつもりか、知らないけど。ロドニアの差し金って可能性もある。

 もし今度一緒に食事行くとしたら。ルシアたちにアルの正体が俺だとバレるのを覚悟して。みんなをを一緒に連れて行くか。


※ ※ ※ ※


「ダンジョンの構築は、順調に行っているようだな」


「はい、アリウス様。『グリューダの地下城塞』の管理をしていたときは、特に何も感じませんでしたが。今思えば、本当に退屈な日々でした。私を新しいダンジョンに誘ってくれて、ありがとうございます」


 今日、俺は『自由の国フリーランド』街の近くに創った『自由迷宮フリーダンジョン』とは別に、もう1つ新しく創ったダンジョンに来ている。


 場所は『自由の国』の街から5kmほど『魔族の領域』を北上したところ。

 『グリューダの地下城塞』の『迷宮の主ダンジョンマスター』だったグリューダを、このダンジョンの構築と管理のためにスカウトした。


 これだけ近くに新しいダンジョンがまた発見されたとなると、疑う奴もいるだろう。だけど俺がダンジョンを創ったなんて、思う奴はそうはいないだろう。


 グリューダにはダンジョンを構築した後も、定期的にダンジョンの構造を変えて貰うことにしている。

 その方が『迷宮の主』のグリューダとしては、やることができて。楽しめる筈だし。ダンジョンに挑む冒険者としても、ダンジョンを新鮮に感じるだろう。


 それでもダンジョンの構造が変われば、冒険者としてはデメリットがある。

 マッピングしたことが無駄になるし。構造だけじゃなくて、配置する魔物や罠も変えるつもりだから。このダンジョンについて、冒険者が習得した知識が無駄になる。


 だから、それなりのメリットを用意する必要がある。モノで釣るような真似は良くないと思うが。アイテムドロップ率を通常のダンジョンの2倍に設定する。


 このダンジョンのダンジョンコアなら。もっと強い魔物を配備できるけど。魔物の強さを少し弱くして、その分のリソースでアイテムドロップ率を上げた。


 攻略難易度的には高難易度ハイクラスダンジョン中位。だけど草薙渉くさなぎわたるにデザインして貰った『自由迷宮フリーダンジョン』と同じように。浅い階層は低難易度ロークラスダンジョン並みの攻略難易度にする。


「このダンジョン名前は『無限廻廊エターナルコリドー』だ。各階層の構造を変える頻度はグリューダに任せるけど。余り頻繁に構造を変えると、冒険者が混乱して。挑む奴が減るからな」


「はい、解っています。挑む者がいなければ、ダンジョンは只の箱ですから。冒険者が魅力的に思うように、このダンジョンを運営します」


 グリューダも良く解っているようだな。


「じゃあ、早速。俺がテストプレイしてみるよ」


「テストプレイ……ですか? つまりアリウス様が、試しに攻略してみるということでしょうか?」


「ああ。そんなに時間は掛からないと思うから」


 俺は音速の数倍の速度で。1階層からダンジョンを攻略して行く。俺の反応速度なら、この速度で移動しても。扉を壊さずに玄室に入ることができる。


 そして10分後。俺は最下層でラスボスを倒して。『無限廻廊』を完全攻略した。 俺の『収納庫ストレージ』には大量の魔石とドロップアイテムが入っている。


「映像で見ていましたが……私の目では、アリウス様の姿を追えませんでした」


 グリューダが唖然としているけど。重要なのは、これから話すことだ。


「アイテムドロップ率がこれだけ高いと、冒険者としては挑戦し甲斐があるんじゃないか。魔物も最初の階層からバランス良く配備しているし。罠の数や難易度も問題ないと思う。あとは、ちょっと気になるところがあるんだけど」


 俺は『無限廻廊』を攻略して、気づいたことを伝える。各階層ごとに詳細に。


「なるほど……確かに、そこはバランス調整が必要ですね。勉強になります。言い方は悪いですが。冒険者は生かさず殺さずという感じの難易度に設定することが、重要ってことですね」


「まあ、そんな感じだな。そこまでシビアに難易度を調整する必要はないよ。冒険者の中には無謀に挑む奴も、慎重派もいるから。階層ごとに攻略難易度を上げて行くことが基本だけど。同じ階層でもエリアによって難易度を変えても問題ないだろう」


 俺ほどダンジョンを攻略したことがある冒険者は、そうはいないだろう。攻略したダンジョンの数では、グレイとセレナには勝てないと思うけど。


「ということで。1週間後に、この『無限廻廊』を発見したと発表するから。グリューダはダンジョンの調整を進めてくれ」


「はい。解りました」


 『無限廻廊』の存在も『自由の国』に移住者を募るときに、良い材料になるだろう。


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