第335話:計略

書籍版2巻10月30日発売! https://gcnovels.jp/book/1743

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※三人称視点※


 ロワイヤの街にあるブリリアント子爵の邸宅。


「おのれ、アリウスの奴め! どうしてくれようか……」


 イメルダ・ブリリアント子爵は、アリウスに魔法で映像を取られて。もう関わるなと言われて以来、怒りに打ち震える毎日を過ごしていた。


 しかしアリウスに見据えられたとき。冷徹な光を帯びた氷青色アイスブルーの瞳を思い出す度に。背筋に冷たいものを感じるのも事実で。


 アリウスに会うまで。ブリリアントには、これまで一度も自分の思い通りにならないことはなかった。

 格上の貴族や王族と対峙したときも。いつでも上手く立ち回ることができたというのに。アリウスに対しては、何一つ自分の思い通りにならない。


 他の大陸から来たと言う冒険者如きに、自分が脅威を感じるなど。絶対にあってはならないことだった。


 しかしブリリアントは認めたくないが。彼女が格上の貴族や王族を相手にしたときは、相手が格上だと解った上で対処したから。万全の準備をして臨み、一瞬たりとも気を抜くことはなかった。


 それに対してアリウスを相手にしたときは、アリウスが特級狩人ハンター以上の実力者であることは解っていたが。所詮、相手は平民に過ぎず。たった2人だから、数で押せばどうにでもなるという驕りがあった。


(あのとき。アリウスは魔法を使ったのか?)


 アリウスを捕らえようと、ブリリアントの騎士たちが一斉に剣を抜いたとき。その直後、騎士たち全員が意識を失った。


 相手は特級狩人以上の実力者とは言え、ブリリアントの騎士たちは精鋭揃いで。一番レベルが低い者でも50レベルを超えている。そんな騎士たちを一瞬で眠らせる魔法など。


(そうか……アリウスは魔法で地龍アースドラゴンを倒した大魔術士なのだな。ならば騎士たちを一瞬で眠らせる魔法を使ったとしても頷ける!)


 などという見当違いな結論を、ブリリアントは出したのだが。


 ギルモア大陸には、個として強大な力を持つ存在は少ない。狩人たちはレイド規模の大人数で巨大な魔物を狩っているし。王や貴族に仕える騎士や兵士たちも集団戦を前提に訓練をしているから、個としての強者が生まれる要員が少ないのだ。


 だからブリリアントがアリウスの力を見誤ったのは、ある意味で仕方がないだろう。

 仮にブリリアントがアリウスの力を侮らなかったとしても。アリウスの本当の力を推し量ることなど、できる筈もないのだが。


 相手が魔術にならばと。ブリリアントは一つ手を打つことにした。


 アリウスを刺激することになるが、倒してしまえば問題ないだろう。すでに当初のアリウスを自分の騎士にするという目的を、完全に見失っているのだが。ブリリアントは自分のプライドを守ることを優先させた。


※ ※ ※ ※


 俺は再び、ロワイヤの街のハンターズギルドに来ている。


 『自由の国フリーランド』から毎日『転移魔法テレポート』で来ていたこを、バラしてしまったから。もう傀儡くぐつを身代わりにする必要はないし。この街には気楽に来れる。


 夕方のハンターズギルド。この時間になると、シンディーたち特級ハンターの3人組は決まってギルドで酒を飲んでいる。


 別に仕事もしないで、飲んだくれている訳じゃなくて。この時間には仕事を終えて、戻って来ているからだ。


 500レベルを超えているシンディーたちは、狩場まで高速で移動して。巨大な魔物を狩って、その場で解体してから『転移魔法テレポート』でロワイヤの街に戻って来る。


 たまに依頼で遠征に出ることもあるけど。ほとんどの日は、このサイクルで活動しているらしい。


「なあ、シンディー。おまえたちは特級狩人ハンターって話だけど。おまえたちよりも強い狩人はいないのか?」


「何だよ? アリウス、てめえは藪から棒に。あたしが最強の狩人に決まっているだろう」


 シンディーなら、そう言うと思ったけど。


「おい、シンディー。気持ちは解るけど、適当なことを言うなよ」


 ケイナが咥え煙草で苦笑する。


「僕もギルモア大陸中の狩人を知っている訳じゃないが。巨大クランのリーダーをしている狩人は、別格だろうね。特に3大クランのリーダーは、アリウスみたいに変異種の巨大な魔物を倒せる実力だよ」


 地龍アースドラゴンの変異種は1,000レベル超えだったから。それくらいの魔物を倒せる狩人はいるってことか。


「ケッ……クランの連中は群れているだけで。あたしらみたいに、3人で魔物を狩る度胸がない連中ばかりだが。3大クランのリーダーだけは、さすがに認めるしかねえな」


 シンディーが認めるってことは、それなりの実力ってことだろう。


「なあ、アリウス。てめえが強いってことは解ったが。どれだけ強いかってことに、あたしは興味があるんだよ」


 シンディーが犬歯を剥き出しにして、獰猛な笑みを浮かべる。だけど敵意は感じない。


「例えば、ここにいる狩人全員を相手にしたとしても。アリウス、てめえは勝つ自信があるんだろう?」


 突然話を振られて、周りの狩人たちが嫌そうな顔をするけど。シンディーが睨んで黙らせる。


「シンディー。そういう話は、素面しらふのときにしろよ。周りの奴らに迷惑だろう」


「あたしは、これくらいの酒じゃ酔わねえぜ。あたしはマジで。アリウス、てめえの本当の実力を知りたいんだよ」


 なんか面倒臭い話になって来たな。


「シンディー、貴方という人は……解りました。私が相手をしましょう」


 ヨハンが殺気を撒き散らすけど。


「いや、ヨハン。そういう話じゃないだろう。シンディーは俺の実力を知りたいだけだ」


 俺はヨハンを止めて、シンディーに向き直ると。


「なあ、シンディー。俺の本当の実力を知りたいと言われても難しいけど。こういうのは・・・・・・どうだ?」


 一瞬後。俺とヨハンのテーブルの上に、大量の武器が一瞬で積み上がる。シンディーたち特級狩人3人を含めて。今、ハンターズギルドにいる狩人全員が持っていた武器だ。


「え……チッ! そういう・・・・ことかよ!」


 自分の双剣を奪われたことに気づいたシンディーは、ガシガシと頭を掻く。


 ケイナは咥えていた煙草を思わず落として。ギジェットは苦笑いして、冷や汗を掻きながら酒を飲み干す。


「アリウスさんの実力を知りたいとか……シンディー、貴方は身のほどを弁えるべきですよ」


 ヨハンが何故か自慢げに胸を張る。そのときに――そいつはハンターズギルドにやって来た。


「おい……邪魔するぜ」


 たてがみのように伸ばした金色の髪。眼光の鋭い褐色の瞳。


 年齢は30代半ばってところか。身長は180cmくらいだけど。無駄な肉を削ぎ落すように鍛え上げられて身体は、全身傷跡だらけで。使い古した鎧のようだ。


 そいつが入って来た瞬間。ハンターズギルドの空気が変わる。

 シンディーが敵意を剥き出しにして。ケイナは面白がるように、ギジェットは警戒心全開で、そいつを見ている。


 そいつの後から、たくさんの狩人がハンターズギルドに入って来たから。これがどういう状況なのか、俺にも簡単に想像がつく。


「ここにアリウスって奴がいるだろう? そいつがどんな奴か、面を拝みに来たぜ」


 傷跡だらけの男はそう言うと。俺とヨハンのテーブルに、真っ直ぐ向かって来た。


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