第334話:魔神


 俺は久しぶりに、魔界にある魔神エリザベートの居城に来ている。


「魔神エリザベート陛下。本当に俺と戦うのか?」


 血のように赤い髪と金色の瞳の巨大な美女。褐色の肌に赤銅色の甲冑を纏う魔神エリザベートの姿は、魔神というよりも闘神という感じだ。


「無論だ。アリウス、私は今のおまえの力が知りたい。おまえも随分と薄情なものだな。RPGの神を倒せば、魔界にはもう用がないということか?」


 エリザベートは巨大な剣を構えて、揶揄からかうように笑う。


「いや、『RPGの神』を倒した後。直ぐに報告に来ただろう」


 魔神エリザベートには、魔界に初めて来た頃から色々と世話になったし。エリザベートと敵対していたら、あの頃の俺は死んでいたかも知れない。だからエリザベートが味方してくれたことには、感謝している。


「時間があるのなら、もっと頻繁に顔を出せと言っているのだ。それにアリウス、おまえは『ダンジョンの神』の力を手に入れたのだろう? 神の力を持つ者が『陛下』などと呼ぶな。私のことはエリザベートと呼び捨てにしろ」


 俺が『ダンジョンの神の力』を手に入れたことも、魔神エリザベートには話している。『RPGの神』との戦いの結末を説明するために、話す必要があったし。別に隠す理由がないからだ。


「ああ。解ったよ、エリザベート。じゃあ、最初から本気で行くからな」


 戦闘開始と同時に。俺は魔力を収束させた剣を、魔神エリザベートの喉元に突きつける。


「なるほど……これがアリウスの本気の力か。私の敗けだ」


 剣に収束させた魔力を俺が解き放てば、エリザベートを一瞬で飲み込んで消滅せてしまう。それがエリザーベートには解ったようだな。


 別に自慢するつもりも、奢っているつもりもないけど。レベル6桁・・の俺が本気で戦えば、勝てない奴はそうはいないだろう。


「エリザベートは本当に物好きだね。僕は今のアリウスと戦いたいだなんて、全然思わないよ」


 両目を包帯で覆った白い髪の女子が悪戯いたずらっぽく笑う。

 身長は170cmくらいで、顔立ちは整っているけど。蝋のように白い肌と痩せた身体は、まるで人形のようだ。


 こいつはニルヴァナ・ハンティエルド。エリザベートと同じ魔界に4人いる魔神の1人だ。

 ニルヴァナは何故か俺が来ることを知っていて。勝手にやって来たそうだ。


 ニルヴァナは何を考えているか解らないところがあるけど。結局、こいつも俺たちの味方をしてくれたから、今の俺があると言える。


「アリウス。これからは僕のことも呼び捨てで構わないからね」


「ああ。ニルヴァナ、そうさせて貰うよ」


 その後。俺たちは3人で食事をする。

 魔界の竜の肉を焼いたステーキなど、肉中心の様々な料理に極上の酒。魔神エリザベートが用意してくれる食事は量もあって俺好みだ。


「ところでアリウス。おまえは自分が不老となったことを、妻たちに話しているのか?」


 まだ実感はないけど。『ダンジョンの神』の力を手に入れたことで、俺は年を取らなくなったらしい。


「ああ。別に隠すようなことじゃないし。どうせ、そのうちに解ることだからな」


 父親のダリウスと母親のレイアは、俺が子供の頃から全然見た目が変わらないから。黙っていれば、しばらくは解らないだろうけど。

 何十年も経てば、何れは解ることだ。それまで黙っているのは、みんなを騙すようなモノだから。俺はしたくない。


「私がとやかく言う話ではないが。不老の意味・・・・・を、アリウスは解っているようだな」


 いつか、みんなが年を取って死んでも。俺だけはずっと生き続けるってことだろう。


「まだずっと先のことだし。そのとき・・・・は受止めるしかないけど。今からそんなことを考えても、始まらないだろう。俺はみんなとの時間を大切にするよ」


「なるほど。おまえらしいな。アリウス、おまえはこれからも強くなるのだろう? ならば、どこまでも強くなって見せろ。そしてたまには私のところに来て、戦いの相手をしろ」


「アリウス。僕の話し相手も頼むよ。君と話していると、退屈しないからね」


 魔神であるエリザベートやニルヴァナは、俺と同じように年を取らないし。魔王アラニスも、俺とは別の方法で不老になったらしい。


「ああ。そうさせて貰うよ」


 だから。こいつらとは、これからも長い付き合いになりそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る