第333話:意外なこと


 ギュンター王国のディルト王子から話があった魔族との取引の件は、その日の夜にエリスに相談して。エリスのマリアーノ商会が協力してくれることになった。


 マリアーノ商会なら、魔族の領域の地理にも詳しいし。幾つもの魔族の氏族と交流があるし。道案内の方も最初のうちはギュンター王国の連中が、マリアーノ商会の隊商に同行することになった。


「アリウス、エリスさん。本当にありがとう。そこまで協力してくれて助かるぜ」


 最終合意のときは、エリスも同席してディルトと話をした。


「ディルト王子。私のこともエリスで構いませんよ。私もディルトと呼ばせて貰いますから」


「ああ、エリス。これからも、よろしく頼む」


 細かい打合せはこれからで。ディルトを信用していない訳じゃないけど。魔族とトラブルを起こすと、色々と影響が大きいから。ギュンター王国の連中と同行する隊商メンバーは、何かあっても対応できる人選をする必要があるな。


「さすがはアリウスね。解っているじゃない。人を信用するのと、用心を怠るのは別の話よ。魔族との共存を邪魔をしたいと思っている人は、今でもたくさんいるから」


 ギュンター王国が魔族と取引することを、面白くないと思っている奴らもいるだろうし。ギュンター王国の連中の中に、魔族とトラブルを起こす奴を潜り込ませる可能性も考えられる。


「アリサさんにも協力して貰って。東方教会のテロリストや他の国の工作員が潜り込まないように注意しましょう」


 この辺のことは、ディルトにも話してある。人選の段階で怪しい奴を除外するためと。何か問題が起きれば容赦なく対処すると、事前に伝えておくためだ。


 俺たちは魔族と共存したいと思っているけど。同じ人間の中に、敵がいることも事実だからな。現実を冷静に受けて物事を進めないと、足元を掬われる。


※ ※ ※ ※


「僕も少しは強くなったと思っていたけど。アリウス兄さんと模擬戦をすると、自分がまだまだだって思い知らされるよ」


「そうよね。アリウスお兄ちゃんに勝てるとか、そういう次元じゃなくて。お兄ちゃんに一撃を入れられるイメージも、全然浮かばないわ」


 今日。俺はカーネルの街の冒険者ギルドの地下にある修練場で。双子の弟と妹のシリウスとアリシアの相手をしている。


 RPGの神の件が一応、解決してから。シリウスとアリシアと会う機会も増えた。


 早いもので、二人も今年で18歳になる。普通に学院に入学していたら三年生だけど。二人とも飛び級で入学したから、三年前に学院を卒業している。


「おまえたちも順調に強くなっていると思うよ。ギュネイの大迷宮を完全攻略するのは、まだ先になると思うけど。もっと攻略難易度が低い高難易度ハイクラスダンジョンなら、そろそろ完全攻略を目指しても良いんじゃないか」


 高難易度ハイクラスダンジョンを完全攻略すれば、S級冒険者になる資格を得る。今のシリウスとアリシアは200レベル代後半だから。焦る必要はないけど、そろそろ目指しても良い頃だろう。


「アリウスさんがそう言ってくれると、俺も自身が持てるぜ」


 シリウスたちのパーティーの魔法系アタッカー、グレイスが嬉しそうに言う。


「ですが油断は禁物ですよ。グレイスは少し調子に乗るところがありますから、気をつけてくださいね」


 マルシアの妹で。シリウスたちのバーティーの斥候兼司令塔のミーシャが口を挟む。


「ああ、解ってるぜ。俺もそこまで馬鹿じゃないさ」


「そうよ、ミーシャ。私はグレイスのことを頼りにしているから」


「僕もそう思うけど。ミーシャが言うように、慎重に行動することも重要だよね」


 シリウスとミーシャと4人で組んでいるパーティーは、息がぴったりで。お互いをフォローし合う良いパーティーになったと思う。


 それから俺はミーシャとグレイスの模擬戦の相手もして。それが終わったら、みんなで一緒にメシを食べることにした。


 今日はカーネルの街の冒険者ギルドに来て、ゲイルたちもいるから。たまには外で飲んで来たらと、みんなに言われている。


「シリウスたちのパーティーも、すっかり一人前と言うか。俺たちも、ウカウカしていられねえな」


「そうだぜ、ゲイル。ダンジョン攻略をサボっていると、直ぐにこいつらに追い抜かれちまうからな」


 ゲイルと、ツインテール女子ヘルガたちのパーティーも、レベル的には余裕でS級冒険者クラスだけど。S級冒険者に認定されるために、わざわざ別の高難易度ハイクラスダンジョンを攻略するつもりはないと。A級冒険者のままで、ギュネイの大迷宮の攻略を続けている。


「シリウスとアリシアは、週末はロナウディア王国に戻っているみたいだけど。ジルベルト家を継ぐ継がないは別にして。まだしばらくは冒険者を続けるつもりなんだろう?」


 二人がロナウディア王国に戻っているのは、社交界に顔を出すためだ。まだ決めた訳じゃないけど。将来は二人のどちらかがジルベルト家を継ぐ予定だ。


「うん。お父さんもお母さんも、まだまだ元気と言うか。全然若いから、僕かアリシアがジルベルト家を継ぐにしても、まだずっと先のことになると思うよ」


「お父さんとお母さんは、私たちが子供の頃と全然変わっていないと思うんだけど。アリウスお兄ちゃんも、そう思うわよね?」


「そうだな。俺の子供の頃から変わっていないと思うよ」


 俺たちの父親のダリウスと母親のレイアは、40代半ばの筈だけど。今でも20代と言っても十分通用する見た目だ。

 グレイとセレナもそうだけど。あの4人は本当に年を取らないよな。


「おまえたちは俺と違って、社交界にも真面目に出ているんだから。誰も文句を言う奴はいないだろう?」


「そうでもないわよ。私たちの年だと、とっくに婚約者がいる子が多いから」


「そうだよね。お父さんとお母さんは何も言わないけど。社交界で会った人たちが、いつ婚約するかってうるさくってね。正直、辟易しているよ」


「シリウスとアリシアはまだ17歳なのに、そういうモノなのか。貴族も大変なんだな」


 グレイスが正直な感想という感じで言うと。


「ねえ。グレイスは私が婚約したらどう思う?」


 アリシアが悪戯いたずらっぽく笑う。


「いや、アリシアが婚約するなんて……俺には想像もできないぜ」


「ふーん……」


 今度は不満そうな顔。そう言えば、アリシアはさっきもグレイスを庇っていたし。もしかして――


 いや、まだそう・・だと決まった訳じゃないし。そういうのは本人たちの問題だからな。余計な口を挟むモノじゃないだろう。


 そもそも俺は、みんなを好きになるまで。恋愛に興味がなかったから。真面なアドバイスができる訳がないし。俺は兄として、温かく見守って行こうと思う。


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