第332話:後始末と外交


 俺とシンディーの飲み比べ。


 12本目のボトルを空けた直後。シンディーは豪快にぶっ倒れた。


「おい、シンディー。大丈夫……じゃないな」


 ケイナが肩を貸して、立ち上がらせると。


「ウゲェ……※※※※※」


「おい、シンディ。冗談じゃねえぞ! 店の中で豪快にぶちまけやがって!」


 いや、それよりも。ケイナがゲ〇まみれなんだけど。


 ケイナが『浄化ピュリファイ』を発動して。自分と床を奇麗にする。


「オルドさん、済まなかったな。これで良いだろう? おい、シンディー。帰るぞ。アリウスの方は、本当に大丈夫そうだな」


 ケイナがシンディーを引き摺るようにして、ハンターズギルドを出て行く。


 それにしてもケイナは面倒見が良いな。シンディーとそういう関係・・・・・・って雰囲気でもないし。シンディーが仕出かしたことを、ケイナが毎回後始末している。腐れ縁って感じか。


「何だよ、アリウス。ケイナとシンディーのことに興味があるのか?」


 巨漢の狩人ハンターギジェットが言う。シンディー、ケイナ、ギジェットの三人は特級ハンターとして組んで仕事をしているけど。


 ギジェットはあくまでもプロの仕事仲間って感じで。仕事に支障がなければ、余計なことに口を挟まないし。今回の俺とシンディーの飲み比べも、完全に他人事だ。


「いや。俺は他人を詮索する趣味はないよ」


「それは良い心掛けだな。関係ねえ奴が余計な口を挟んでも、ロクなことにならないぜ」


 俺とギジェットが、こんな話をしていると。隣りで静かに飲んでいたヨハンが。


「シンディーは態度が少しは改まりましたが。アリウスさんに対する口の利き方は、相変わらずなっていないですね。それに比べてギジェットは、良く解っているようじゃないですか」


 ギジェットが他人を詮索しないことを言っているんだろうけど。ヨハンの方から俺以外の奴に話し掛けるなんて、めずらしいな。


「アリウスの国に連れて行かれたから。アリウスがどういう奴か、少しは解った気がするが。ヨハン。あんたのことは、全然解らねえな。俺たちとは勿論違うが、アリウスとも全然雰囲気が違うだろう」


「何ですか、ギジェット。私のことを詮索するつもりですか?」


「いや、止めておくぜ。あんたはヤバい奴だって、俺の勘が言っている。ある意味で、アリウス以上にな」


 ギジェットは人を見る目があるようで。ヨハンが暗殺者だってことにも、薄々気づいている感じだ。


「私がアリウスさんより危険? そんな筈がありませんよ。ですが余計な詮索をしないのは、正しい判断だと思いますよ」


 他の狩人たちは、まだ飲み食いしているけど。俺はそろそろ帰る時間で。


 今日は全員に奢る約束だから。俺はヨハンに金を預けて、ハンターズギルドを後にした。


※ ※ ※ ※


 それから数日は、他に色々とやることがあって。俺がギルモア大陸に行くことはなかった。


「アリウス・ジルベルト陛下。お会いできて、光栄です」


 この日。『自由の国フリーランド』の城塞に来客があって。俺にしてはめずらしく、広間で来客を迎える。


 灰色の髪を短く切った20代後半の男。身長は180cmくらいで、鍛えらた身体は服の上からでも解る。


「ギュンター王国第一王子ディルト・ギュンターと申します」


 ギュンター王国は大陸中東部の小国で。先代勇者のアベルの国イシュトバル王国と隣接している。


 アベルが魔族の領域に侵攻したとき。ギュンター王国は、隣国でありながら勇者同盟軍に加わらなかった。


「ディルト。俺は堅苦しいのが嫌いだら、敬称も敬語も要らない。普通に喋ってくれ」


「そう言って貰えると、ありがたいぜ。では改めて。アリウス、よろしく頼む」


 ディルトは何となく、雰囲気がバーンに似ている。バーンほど暑苦しくないけど。


「それで。今日の用件は、ギュンター王国が魔族との取引に加わりたいってことだったな」


「ああ。図々しい頼みだってことは、良く解っているが。勿論、金儲けのためでもあるが。それじゃなくて。俺たちギュンター王国は魔族と交流したいんだ」


 大陸東部は東方教会の影響が強いし。ブリスデン聖王国やフランチェスカ皇国など、反魔族の大国の勢力下にある。


 中東部にあるギュンター王国は、そこまで反魔族勢力の影響を受けていないが。反魔族を謳いながら、裏で魔族と取引をしている連中に妨害されて。ギュンター王国では魔族との取引が上手く進んでいないらしい。


「ロレック商会の手を借りることも考えたが。俺たちの目的は金儲けだけじゃないから。できれば直接、魔族と取引がしたいんだ」


 ロレック商会は港市国家モルガンに本部がある世界一の大商会で。ロレック商会の会長ガルシアと奥さんのミランダは、俺たちと友人と言える関係で。魔族との取引でも協力し合っている。


 ディルトも今回の件をガルシアに相談して。だったら一度俺と会った方が良いと、ガルシアが間に入って。俺とディルトが会うことになった。


「金儲けのためでもあるって。ディルト、おまえは正直に言うんだな」


「ああ。魔族との交流ただけが目的だなんて。上辺だけのことを言っても直ぐに見抜かれるだろう。それに利益がなければ、交流を続けるのは難しいからな」


 ディルトは本当に正直な奴みたいだな。ガルシアの紹介だし。信用して問題ないだろう。


「魔族と直接取引するってことは、魔族の領域に行くってことだよな。護衛はどうするつもりなんだ?」


「護衛は自前で用意するから『自由の国』を通過する許可を貰いたい。後はできれば、道案内ができる者を紹介して貰えないか。勿論、正当な対価は払う」


 なるほどね。外交が絡んでいるし。他の国の勢力を『自由の国』に入れることもあって。アリサはこの話を俺に回したのか。


「魔族との取引については、俺の妻の一人。マリアーノ商会会長のエリスに任せているから、相談する必要があるけど。たぶん問題ないと思うよ。他の国が魔族と交流するのは、俺たちも歓迎だからな」


「アリウス。そう言って貰えるとありがたいぜ。アリウスの期待を裏切らないように、全力でやらせて貰う」


 ディルトが白い歯を見せて笑う。こう言うところも、バーンに似ているな。


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