第331話:理不尽な要求


「アリウス、シンディーたちから報告は受けている。結局、地龍アースドラゴンを討伐したのは貴様らしいな」


 俺とヨハンは、ロワイヤの街の領主であるブリリアント子爵の邸宅に来ている。


 貴族の邸宅に呼ばれるとか、面倒なことは御免だけど。ハンターズギルドのオルドが、どうしてもと言うから。顔を立てることにした。


「ハンターズギルド経由で、報酬は貰っているから。話は済んでいるよな。俺たちにまだ用があるのか?」


 前回会ったときは、ハンターズギルドだったから。場を荒らさないために、一応敬語を使ったけど。ギルドに圧力を掛けて、俺たちを呼びつけた奴に。敬意を払うつもりはないし。


 ヨハンが思いきりブリリアントを睨んでいるけど。止めるつもりはない。


「貴様……ブリリアント閣下に、何という口の利き方を! 無礼であろう!」


 騎士たちが怒気を放っているけど。だから何だと言う感じで無視する。


「良い。構わぬ……この前も言ったが、こやつらはハードレイク王国の民でも、ましてや私の領民でもないからな」


 ブリリアントの方は、話が解る領主を装っているけど。笑顔に強欲さが滲み出ている。


「無論、用があるから貴様たちを呼んだのだ。貴様が倒した地龍は推定レベル1,000を超える変異種だったようだな。それほどの魔物を屠るとは」


 地龍の死体はシンディーたちが解体して、『収納庫ストレージ』に入れて運んで。施しは受けないと、全部俺に渡して来た。

 俺はハンターズギルドに買い取って貰ったから。地龍の素材を査定して、変異種だということが解ったんだろう。


「アリウス。私は貴様を買っているのだ。どうだ、私の騎士にならぬか? 望むだけの報酬を払ってやる。貴様にとっても悪い話ではなかろう?」


 ブリリアントが自信たっぷりに言う。こいつは、これまで全部自分の思い通りになっていたんだろう。


 ヨハンがあからさまな殺意を、ブリリアントに向ける。ヨハンなら本当に殺しかねないし。さすがに殺すのは不味いだろう。


 俺は視線でヨハンを止めて、ブリリアントに向き直る。


「なあ、ブリリアント。おまえは何か勘違いしているみたいだけど。俺は金で動くつもりはないし。おまえに従う理由はないからな。話がそれだけなら、俺たちは帰るよ」


 俺とヨハンが立ち去ろうとすると。騎士たちが行く手を阻む。


「こちらが下手に出ていれば……つけ上がるな! 貴様が幾ら力を持っていようと。領主である私には、貴様などどうにでもできる。貴様が反抗するなら、罪人として捕らえて。一生牢獄に入れてやろうか?」


 ホント。どこの国でも、こう言う馬鹿はいるんだな。


「おまえは、もう少し頭が回る奴だと思ったけど。随分と簡単に尻尾を出すんだな。おまえたちがやったことは、全部記録・・したからな」


「……貴様は何を言っている?」


 訝しそうな顔をするブリリアントの前で。俺は空中にフォログラムのような映像を展開する。


『……領主である私には、貴様などどうにでもできる。貴様が反抗するなら、罪人として捕らえて。一生牢獄に入れてやろうか?』


 これは師匠のセレナが創った動画を記録する魔法だ。俺たちがブリリアントの邸宅に来てからのことは、全部録画してある。


「これを街の連中や、この国の王族や他の貴族に見せたら、どんな反応をするだろうな?」


「こんなモノを……誰が信じるものか! 魔法で作った幻影だと言えば、それまでの話であろう!」


「そう思うなら好きにしろよ。あと、言い忘れていたけど。今も記録を続けているから、言動には注意しろよ」


 ブリリアントの顔色が変わる。ここまでの会話の流れを全部見せれば。ブリリアントが幻影だと言い張っても、誰も信じないだろう。


 ブリリアントの目配せで騎士たちが一斉に剣を抜く。力づくで止めるつもりみたいだけど。

 次の瞬間。騎士全員が意識を失って床に倒れる。


「き、貴様……何をした?」


「さあな。おまえの騎士たちは、全員寝不足だったんじゃないか?」


 勿論、嘘で。こいつに見えない速度で、騎士たちの意識を狩り取ったんだけど。

 記録した映像を見ても、大抵の奴は俺が動いたことに気づかないだろう。


「なあ、ブリリアント。これ以上やるなら、俺も反撃するからな」


 俺はブリリアントを正面から見据える。ブリリアントは冷や汗を垂らして、凍りついた。


「俺の要求は二つだ。一つは、もう俺たちに関わらないこと。もう一つは、俺たちのことでハンターズギルドや狩人ハンターに、理不尽な意趣返しをしないこと。俺の要求を飲めば、今日のことは忘れてやるよ」


 俺とヨハンはブリリアントを放置して、邸宅の外に出る。


「アリウスさん。ブリリアントを殺さなくて宜しいのですか?」


「いや、だから。簡単に殺そうとするなよ。これでもブリリアントが手を引かないなら、本当に映像をバラ撒くだけの話だし。この街に来れなくなっても、特に困らないからな」


 ギルモア大陸で冒険するには、『自由の国フリーランド』から直接『転移魔法テレポート』で来れば良いだけの話で。

 ブリリアンと交渉したのは、俺のことで八つ当たりして。ハンターズギルドや狩人たちに無茶な要求をしないように釘を刺すためだ。


 俺とヨハンがハンターズギルドに行くと。


「アリウス、てめえ……ブリリアントの奴に呼び出されたらしいな。あの腹黒領主様の飼い犬でも、なるつもりじゃねえだろうな?」


 シンディーの口が悪いのは相変わらずだけど。『自由の国』に連れて行ってから、明らかに態度が変わった。

 いちいち絡んで来るのも相変わらずだけど。あからさまな敵意は感じない。


「騎士にならないかって誘われたけど、断ったよ」


「アリウスを雇える筈がないってことくらい、解りそうなものだけど。ブリリアント閣下は所詮、貴族ってことか」


 ケイナが咥え煙草でうそぶく。こいつはブリリアントの本性に、気づいていそうだな。その上で上手く立ち回っているんだろう。


「まあ、断ったんなら同じ事じゃねえか。なあ、アリウス。今夜もてめえは嫁たちが待っている家に帰るんだろうが。それまで酒に付き合えよ。飲み比べと行こうぜ!」


 シンディーたちを『転移魔法テレポート』で『自由の国』に連れて行ったからな。毎晩『自由の国』に帰っていることを、俺は隠していない。


「シンディー、それは構わないけど。俺は幾ら飲んでも酔わないからな」


「アリウス、てめえ……デカい口を叩くじゃねえか。あたしは飲み比べじゃ、誰にも負けたことがねえからな。てめえを酔い潰してやるぜ!」


 シンディーは勘違いしてるけど。俺は本当に一切酒に酔わないからな。


 俺と飲み比べなんてしたら、どうなるか。まあ、後始末はケイナにでもさせるか。

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