第330話:『自由の国』の連中


「よう、アリウスさん。知らねえ奴らを連れているけど、新しい移住者か?」


 ここがギルモア大陸とは別の大陸だと証明するために。


 シンディーたち狩人ハンターを連れて、俺たちが『自由の国フリーランド』の街を歩いていると。行き交う奴らが気楽に声を掛けて来る。


「移住者って訳じゃないけど。こいつらは俺の客だよ」


 一応、俺は『自由の国』の国王だけど。ここに住んでいる奴らは、みんな仲間だと思っている。


「あいつら……魔族か?」


 シンディーが顔をしかめる。街中に普通に魔族がいることに違和感を感じているんだろう。

 だけどシンディーは、いきなり攻撃したりしない。ギルモア大陸では、人間と魔族は居住権が離れているから。敵対している訳じゃないからな。


「アリウス……この者たちは魔物の素材で出来た装備を纏っているな。おまえたち、何者だ?」


 次に声を掛けて来たのは、魔族の『流浪者はぐれもの』バトリオ・イエガー。バトリオたちが『自由の国』に移住して来たのは4年前で。『自由の国』の住人の中では、古株の方だ。


 バトリオの登場に、シンディーに警戒が走る。バトリオは力を隠したりしないからな。

「バトリオ。こいつらは、ちょっと事情があって。俺が他の大陸から連れて来たんだ」


「他の大陸だと……まあ、アリウスのやることだからな。今さら驚くことはないが」


「バトリオも解っているやないか。ホンマ、アリウスはんは何をするか解らんからな。いきなり客を連れて来られて、うちはこき使われとるところや」


 アリサが意地の悪い笑みを浮かべる。


 それからも『クスノキ商会』のメンバーたちや。ヒュウガにセイヤ、シンも次々とやって来て。挨拶がてら、シンディーたち狩人を見定めて去って行く。


 みんな、そこまで警戒している感じじゃないけど。俺が知らない奴らを大勢連れて歩いているから、興味半分で。残りの半分は一応相手の実力を、確かめておこうってところだろう。


 アリサの指示もあるけど。『自由の国』に集まって来た連中は、みんな意識が高いからな。俺が何もしなくても。油断して敵に懐に入り込まれることはないだろう。


「アリウス、てめえ……何なんだ、ここは? 化物だからけじゃねえか」


 シンディーが憮然としている。さっきからやって来る連中が、みんな明らかにシンディーたちよりもレベルが高いからだろう。


 勿論、力を隠していない奴の方が少ないけど。シンディーが『鑑定アプレイズ』してもレベルが解らない奴ばかりだからな。

 巨漢の狩人ギジェットも完全に警戒しているし。どんな状況でも面白がっていたケイナが冷や汗を掻いている。


「シンディー、貴方はそんなことを言っているけど。誰が一番強いのか。まだ解っていないみたいね」


 ジェシカが呆れた顔をする。


「そうやな。うちらを化物とか……アリウスはんに比べたら、うちらなんて可愛いもんやで」


 アリサが揶揄からかうように笑う。


「何なんだよ、てめえらは……あたしだって、アリウスが強いことぐらい気づいているぜ」


「いや、シンディー。アリウスの強さは、そういうレベルじゃないってことだろう」


 ケイナが探るように俺を見る。俺の力を見定めようとするように。


「まあ。そんなことは、どうでも良いだろう。俺はおまえたちが疑うから、ここがギルモア大陸じゃないって解るように、この街に連れて来ただけだよ。さすがに、おまえたちも理解しただろう?」


「ああ。こんな場所がギルモア大陸にあるなんて、聞いたことがねえし。人間と魔族が同じ街に住んでいるとか、街にいる奴らの雰囲気とか。ここは、あたしらの知っている場所じゃねえな」


 それを認めてしまえば、この人数を大陸間で転移させた俺の実力を認めることになるから。シンディーは認めたくないって感じだけど。認めるしかないみたいだし。

 ヨハンもシンディーの態度を見て、満足したみたいだな。


「じゃあ、用が済んだことだし。他に何もないなら、ロワイヤの街に戻るか」


「おい、アリウス。てめえ……この人数をまた『転移魔法テレポート』で運ぶなんて。さすがに、てめえでも――」


 シンディーが言い終わる前に。俺たちはロワイヤの街のハンターズギルドに戻って来た。


「シンディーは何か言いたかったみたいだけど。アリウスなら、これくらいは余裕よ。私が自慢することじゃないけどね」


 ジェシカがシンディーを煽る。


「私としては。シンディーがアリウスのことを、少しでも理解してくれたら満足よ。ねえ、シンディー。これから私たちとお喋りをしない?」


 ミリアが笑顔でシンディーの懐にグイグイと入って行く。


「チッ……てめえは、変な奴だな」


 シンディーは憮然とした顔で。グラスに酒を注いで、一気に飲み干す。だけどもう喧嘩を売ろうって態度じゃなかった。


「おい、おまえたち……突然姿を消したと思ったら、また現われやがって。いったい、何が起きたんだ?」


 ハンターズギルドマスターのオルドが唖然としている。


「オルド、驚かせて悪かったな。まあ、大したことじゃないよ。おまえたちも付き合わせて悪かったな。今日は俺が奢るから、好きに飲み食いしてくれよ」


 他の狩人たちも強制的に付き合わせることになったから。奢るくらいはしないと。


 だけど狩人たちは、イマイチ盛り上がらないで。恐る恐るという感じで、俺の方を窺っているから。さすがにやり過ぎたみたいだな。


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