第329話:証明


「はあー……アリウス。てめえらを見ていると、怒るのが馬鹿らしくなって来たぜ。マスター、ギルダークをボトルで出してくれ!」


 シンディーは溜息をつきながら。ハンターズギルドに併設された酒場のカウンターに行くと。出された瓶から琥珀色の蒸留酒をグラスに注いで、一気に飲み干す。


「ハンターズギルドで、イチャつくとか。アリウスの頭がイカれているのは解ったが。そもそも、てめえは別の大陸から来たって話だったな。だったら嫁さんたちも、そこから連れて来たって言うのか?」


「ああ、そうだよ。今日はジェシカとミリアが休みだから。『転移魔法テレポート』で連れて来たんだ」


 別に隠すようなことじゃないし。俺が素直に答えると。


「おいおい、アリウス。てめえは、何を言ってやがる。別の大陸から『転移魔法テレポート』で来た? そんなこと、あり得ねえだろう!」


 シンディーは馬鹿にするように言う。『転移魔法テレポート』は移動する距離が長くなるほど、消費するMPが増えるから。大陸間を『転移魔法テレポート』で移動するなんて、不可能だと思っているようだな。


 周りの狩人ハンターたちも、同じように考えているようで。皆が苦笑している。


「ねえ、アリウス。これって、良い機会じゃない?」


「そうよ。アリウスの実力を、一端でも見せてあげたら?」


 ジェシカとミリアが期待するような目をする。


 俺の力を隠す理由はないけど。見せつけるような真似は好きじゃない。

 だけどジェシカとミリアが、俺を馬鹿にするような視線が気に食わないなら。


 俺はアリサに『伝言メッセージ』を送って。これから『自由の国フリーランド』に狩人たちを連れて行って、問題ないか確認する。

 返事は直ぐに来て。俺の好きにして構わないらしい。


「おまえたちは、ちょっと付き合って貰うからな」


 俺はギルドにいる狩人全員を連れて、

転移魔法テレポート』する。


 俺が転移したのは、『自由の国』の街の郊外。お互い知らない者同士の奴らを、いきなり街中に連れて行くのは、どうかと思ったからだ。


 『自由の国』の街の郊外は開けていて。外壁に囲まれた城塞都市が全貌出来る。


「おい……アリウス、てめえ! いきなり、何をしやがった?」


 シンディーだけじゃなくて。他の狩人たちも警戒心全開で、周りを見回す。


「どうやら、本当に転移したみたいだな。少なくとも、こんな場所がギルモア大陸にあるなんて。僕は聞いたことがないな」


 ケイナ一人が冷静で。煙草を吹かしながら、この状況を楽しんでいるようだな。


「何って。『転移魔法テレポート』で、俺たちの大陸に移動しただけだよ。ケイナが言ったけど。ここがギルモア大陸だって思うか?」


「あたしらが知らないだけで。ギルモア大陸のどこかなんだろう。『転移魔法テレポート』で大陸を渡るなんて、あり得ねえだろう」


「仮にここがギルモア大陸のどこかだとしても。アリウスはこの人数を転移させたのは事実だからね」


 俺が連れてきた狩人は20人を超えている。多人数を転移させるには、その分MPが必要だし。そもそも20人を同時に転移させられる『転移魔法テレポート』を発動できる奴は限られるからな。


「ホンマ。アリウスはんは、人使いが荒いで。いきなり人を仰山連れてくるとか。客をもてなすのは、うちの仕事やからな」


「アリサさんが大変なのは、良く解りますよ。アリウスさんって、結構強引なところがありますよね」


 突然現れたのは、アリサとヴァンパイアのリーシャだ。

 アリサのことだから俺たちが戻ったことに気づいて。タイミングを計って現れたんだろう。


 アリサとリーシャは、2人とも1,000レベルを余裕で超えているけど。魔力を完璧に隠しているアリサに対して。リーシャはこの世界に転生したばかりで。魔力の隠し方が、まだ良く解っていないから。


「アリウス、てめえ……どういうつもりだ?」


「さすがに……冗談じゃ済まないだろ」


「チッ……俺はまだ死にたくねえぜ!」


 溢れ出すリーシャの膨大な魔力に。シンディー、ケイナ、ギジェットが身構える。

 アリサ、おまえはこうなることが解っていて。わざとリーシャを連れて来ただろう。


「え? 私は貴方たちに敵意はありませんよ!」


 リーシャが戸惑っている。


「おい。おまえら、落ち着けって。リーシャに敵意がないのは本当だから。こいつは魔力の隠し方が下手なんだよ」


「ああ、そういうことですか。すみません、私はまだ自覚が足りなくって」


「つまりアリウスは、魔力の隠し方が上手いってことだよな?」


 ケイナが面白がるように言う。こいつは状況を理解しても、全然動じない。ホント、度胸が座っているな。


「魔力を隠すのは冒険者なら当然だよ。手の内を晒したら、自分が不利になるからな」


「それで……アリウス。てめえは、あたしらをここに連れ来て。どうするつもりだ?」


「アリウスは、どうこうするつもりなんてないわよ。貴方たちがアリウスを疑うから。本当に『転移魔法テレポート』で来たことを証明しただけだわ」


 俺の代わりにミリアが応える。


「まだ疑うなら。街の中に行ってみるか? ここがギルモア大陸じゃないって、直ぐに解るからさ」


 文化の違いもあるけど。『自由の国』でには人間と魔族が共存しているからな。そんな街がギルモア大陸にあれば、噂になる筈だし。少なくとも知らないなんてことはないだろう。


 ちなみにギルモア大陸にも魔族はいるけど。居住圏が離れているから。人間と関わることは、ほとんどないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る