第328話:激突


「アリウス。てめえは、15m級の地龍アースドラゴンをアッサリ仕留めやがった上に。魔物の素材なんて、どうでも良いって顔をしていやがる……てめえは、いったい何様のつもりだ?」


 激昂したシンディーの声が、ギジェットとケイナの声を掻き消す。

 馬鹿にしていた俺に助けられて、シンディーのブライドが傷ついたんだろう。


 だけど俺が手を出さなかったら、シンディーたちは死んでいたからな。


「ねえ、貴方。それくらいにしたら? みっともないわよ」


 ため息をついて口を挟んだのは、ジェシカだ。


「あん? てめえには関係ねえだろう。黙ってろ!」


「あら、関係あるわよ。私はアリウスの妻だもの。アリウスに言い掛かりをするのを見過ごすほど、私は大人しくないわ!」


 周りのハンターたちが驚いている。


「アリウスの妻だって……だから何だよ? あたしは、こいつに話しているんだ!」


「だったら私は貴方に話しているわよ。アリウスのことをどうこう言う前に、先に言うことがあるわよね。貴方たちはアリウスに助けられたんでしょう?」


 みんなには昨日のことを全部話している。


「あたしは助けてくれなんて、頼んでねえ!」


「何を子供みたいなこと言っているの。助けて貰ったら、お礼を言う。そんな当たり前のこともできないなんて、本当にどうしようもないわね」


「何だと、てめえ! 誰に向かってモノを言ってやがる!」


 シンディーがジェシカに殴り掛かる。だけどジェシカは片手で拳を掴んで止める。


「舐めるんじゃねえ!」


 シンディーは逆の手で殴ろうとするけど。ジェシカはシンディーの足を蹴り上げて、床に引き倒すと。立ち上がる間を与えずに組み伏せる。


「クソ……放しやがれ!」


 シンディーは暴れようとするけど。関節を完全に極められているから、動けない。


「あのねえ。犬みたいにキャンキャン騒がないでよ。何か勘違いしているみたいだけど。貴方の実力はアリウスどころか、私の足元にも及ばないわ。悔しいなら、もっと鍛練しなさいよ」


 特級ハンターのシンディーは500レベルを超えているけど。今のジェシカはSS級冒険者の中でも、SSS級冒険者に挑戦することが視野に入るレベルの実力者だからな。


「弱い者いじめをする趣味はないけど。貴方が納得できないなら、ボコボコにしてあげるわよ」


 ジェシカは容赦なく、シンディーを締め上げる。ギシギシと骨が軋む音。シンディーの顔が苦痛に歪む。


「おい、シンディー。もう諦めろよ。おまえの負けだ」


「ケ、ケイナ……うるせえ! あたしはまだ負けて……」


 シンディーの言葉が途切れたのは、ジェシカがさらに締め付て。呻き声が出るのを耐えているからだろう。


「アリウス。奥さんを止めてくれないか? このままだとシンディーが壊れるから」


 ケイナが煙草を咥えながら、冷静に言う。シンディーが痛め付けらても、自業自得だと思っているのか。まあ、殺される訳じゃないからな。


「ジェシカ。それくらいにしておけよ。幾ら痛め付けても、シンディーは謝らないだろう」


「だったら、下らない意地を張ったら、どうなるか。教えてあげるべきだと思うけど。アリウスがそう言うなら、止めておくわよ」


 ジェシカが解放しても。シンディーはぐったりして、動かない。


「ほら、シンディー。肩を貸してやるよ」


 ケイナがシンディーを抱えるようにして、立ち上がらせる。


「てめえ……憶えておけよ。次はこっちが痛めつけてやるからな」


 シンディーがジェシカを睨む。


「まだそれだけ元気があるなら、大丈夫みたいね。良いわよ。いつでも掛かって来なさい。だけど次は私も本気を出すからね」


 ジェシカは強がりで言っているんじゃなくて。本当に全然本気じゃなかったからな。


「ねえ、シンディー。貴方の気持ちも解らなくはないけど。さすがにその態度は見過ごせないわ」


 ここまで黙っていたミリアが口を挟む。


「私はミリア。ジェシカと同じくアリウスの奥さんよ。貴方がアリウスに喧嘩を売るなら、私も相手になるわ」


 ミリアの言葉にハンターたちが騒めく。2人も妻がいるなんて、どういうことだと。


「この際だから言っておくけど。俺には奥さんが5人いるんだよ」


「ケッ! 側室を抱えているとか。てめえは貴族様かよ!」


「いや、側室じゃなくて。細かい説明をするつもりはないけど。俺にとってジェシカもミリアも5人全員が、誰よりも何よりも大切なんだ。だから――」


 俺は真っ直ぐにシンディーを見る。


「俺に絡むのは構わないけど。ジェシカやミリアに手を出すなら。シンディー、おまえを徹底的に潰すからな」


 別に脅すつもりはないけど。殺意が漏れ出したのか、シンディーが唖然として。周りのハンターたちも静まり返る。


「アリウス、ありがとう。ちょっと過保護な気もするけど、嬉しいわ」


「そうね。アリウスは私たちのことになると、やり過ぎるけど。アリウスに想われているって実感できて嬉しいわ」


 ジェシカとミリアが左右の腕に抱きついて、幸せそうな顔をすると。さっきとは別の意味でハンターたちが唖然としている。


「アリウス。君たちは、いつもこんな感じなのか?」


 ケイナが煙草を咥えながら苦笑する。


「まあ。みんなと一緒にいるときは、大体こんな感じだな」


 堂々と宣言する俺に、ハンターたちが引いているけど。


 俺はみんなが大切で。手を出す奴は許さない。これだけは譲らないからな。

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