第327話:休日


 地龍アースドラゴンの討伐が終わったから。次の日は休むことにした。


 勿論、『神たちの領域』に創ったダンジョンには行くけど。時間が経過しないから、ノーカウントだ。


「明日は、アリウスも休みなんだ……て言うか。私とジェシカが休みだから、アリウスも休みにしたんでしょう? だったらジェシカと3人で一緒に出掛けない?」


 ミリアは、お見通しみたいだな。


 みんなの中でキッチリ土日休みなのは、魔法省に勤めているノエルくらいで。ミリアがいる諜報部に土日は関係ないから。交代で休んでいる。


 エリスは公爵と商会の仕事を掛け持ちしているし。ソフィアも公爵の仕事をしながら、ロナウディア王国の公共工事に関わっているから多忙だ。


 冒険者のジェシカは自由に時間を使えると思うかも知れないけど。ダンジョンを攻略するのに、何日も泊まり掛けってこともあるし。

 ジェシカたちSS級冒険者パーティー『白銀の翼』は上を目指しているから。攻略優先で、休みは不定期になりがちだ。


 今、俺は時間が自由に使えるから。みんなが休みのときは俺も休みを取って、一緒に過ごすことにしている。

 ヨハンと傀儡くぐつのおかげで、依頼を請けている最中でも抜け出すことができるからな。


 ということで。俺はミリアとジェシカと、3人で一緒に出掛けることになったんだけど。


「本当に、こんなところで良いのか? 観光するには向かないと思うけど」


 俺たちが向かったのは、ギルモア大陸のロワイヤの街。俺とヨハンが滞在している街だ。


 ロワイヤの街は巨大な魔物が徘徊する地域にあるから、防衛拠点という色合いが濃い。

 街並みは雑多で入り組んでいて。観光して回るような場所は物はないだろう。


「別に構わないわ。私はアリウスがどんなところで冒険者しているのか、見てみたかったから。それにしても……面白い街並みね!」


 立体的に造られたロワイヤの街を、ミリアは物めずらしそうに見ている。


「私はこういう街は好きよ。如何にも城塞都市って感じで。それにアリウスがいるときじゃないと、この街に来る機会なんてないわよね」


 ジェシカも街並みを眺めながら、嬉しそうな顔をする。


「2人が楽しめるなら、俺は構わないけど。とりあえず、街を見て回るか」


 ロワイヤの街では1万人が生活しているから。雑貨屋や服屋、食料品店など。普通に色々な店がある。


 だけど俺たちの大陸と違うのは、大半の物が魔物の素材で出来ているところだ。


 革や骨や角は勿論、普通に加工して使っているし。ロワイヤの街では魔物の素材から取れる繊維を使って、服も作っている。


「これも魔物の素材で出来ているのね……全然、そんな風には見えないわ」


 店で売っている服を見ながら、ミリアが楽しそうだ。めずらしい素材で作るモノを見るだけでも、楽しいんだろう。実用性が高い服だけど。デザインも意外と凝っているからな。


「この剣は全部魔物の素材で出来ているのね。金属を使ってなくても、丈夫そうだわ」


 ジェシカは武器屋で、魔物の骨で出来た剣を物色しながら。興味津々という感じだ。


 その後。俺たちは屋台で買い食いしながら、色々と店を見て回る。

 ミリアとジェシカは、それぞれ気に入った物があったから。俺は2人にプレゼントした。


 ちなみにロワイヤの街の屋台で串焼きを買うと。大抵は魔物の肉だ。


「魔物の肉でも、そんなに獣臭くないのね。シンプルな味付けだけど、美味しいわ」


「私はこの肉饅頭が気に入ったわ。ハーブが効いていて、癖になる味よ」


 3人でシェアしながら、色々な物を食べる。こうして一緒に街を歩くも悪くないな。


「ねえ、アリウス。せっかくロワイヤの街に来たんだから、ハンターズギルドに行ってみたいんだけど」


「私も狩人ハンターに興味があるわ。アリウスから色々と・・・聞いているし」


 シンディーたちとの件は、全部みんなに話してあるからな。2人も思うところがあるんだろう。


「連れて行くのは構わないけど。できれば、喧嘩するなよ」


「アリウス、それは相手の出方次第よ」


 ミリアが悪戯っぽく笑うけど。物騒な雰囲気を醸し出している。


「そうね。アリウスのことを馬鹿にするなら……容赦するつもりはないからね」


 さらにジェシカの方は、容赦なんて一切しない感じで。目が怖いんだけど。


※ ※ ※ ※


「アリウスさん、皆さんも。お待ちしておりました」


 俺たちがハンターズギルドの扉を潜ると。待ち構えていたヨハンが、恭しく頭を下げる。


 ヨハンには俺がミリアとジェシカを連れて行くことを、『伝言メッセージ)』で伝えていたからな。


「アリウス、てめえ……ようやく来たか」


 ヨハンからも『伝言』の返信を貰っていて。ハンターズギルドに、シンディーたちがいることは解っていた。


 俺が地龍アースドラゴンを倒した後。目を覚ましたシンディーは、散々文句を言っていたらしいけど。


 結局のところ、依頼は完了した訳だから。シンディーたちはギジェットの『転移魔法『|転移魔法(テレポート)』』で。ロワイヤの街に戻って来たらしい。


 シンディーたちは『収納庫ストレージ』から、解体済みの地龍を取り出す。


「こいつを仕留めたのはアリウス、てめえだろう。あたしは、施しを受けるつもりはねえからな!」


 シンディーの『収納庫ストレージ』じゃ、地龍は丸ごと入らないから。解体してから、ギジェットとケイナにも運ばせたそうだ。


 正直なところ。俺は地龍の素材とか、どうでも良いけど。シンディーは俺が倒したのに、地龍をそのまま放置したのが気に食わないらしい。


「シンディー。わざわざ、運んで貰って悪いな。じゃあ、遠慮なく貰うことにするよ」


 ここで要らないとか言うと、もっと面倒なことになりそうだから。俺が素直に受け取ろうとすると。


「チッ……だからアリウス、てめえは気に食わねえんだよ!」


 シンディーが殺意を向けて来る。


「おい、シンディー……」


「それくらいにして……」


 ギジェットとケイナが止めようとするけど。


「てめえら、うるせえんだよ!」


 シンディーの激昂が、2人の声を掻き消す。


「アリウス。てめえは、15m級の地龍をアッサリ仕留めやがった上に。魔物の素材なんて、どうでも良いって顔をしていやがる……てめえは、いったい何様のつもりだ?」

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