第326話:特級狩人の実力
イメルダ・ブリリアントとの一件があった日の夜。俺がいつも通りに『
「ねえ、アリウス。ギルモア大陸はどう? 冒険を楽しめている?」
エリスが悪戯っぽく笑う。
「そうよね。せっかく別の大陸に行ったんだから、思いきり冒険を楽しまないと」
ミリアも楽しそうだ。
「アリウス君は……私たちに遠慮したらダメだからね」
ノエルがじっと俺を見つめる。
「ノエル。アリウスのことだから、その心配は要らないと思うわ」
ソフィアがクスクスと笑う。
「そうね。だけど……私も一緒に行きたかったわ!」
ジェシカは本気で一緒に来たそうだ。
「まあ、ちょっと面倒なことになったけど。解決策はあるからな。ギルモア大陸で今日会った領主は強欲だけど、そこまで話が解らない奴じゃないし。一緒に行動することになった
イメルダは俺たちとシンディーたちを天秤に掛けるのは諦めたし。シンディーたちだって、一応納得していたからな。
「別にアリウスのことを心配している訳じゃないわ。アリウスなら、どんな状況でも上手くやるでしょう?」
「そうよね。心配なのは別のことで……」
「そうだよね。アリウス君はモテるから……」
「だから私も一緒に行きたかったのに……」
「だけど。みんなも本気で言っている訳じゃないわよ」
みんなの視線が俺に集まる。みんなが信頼してくれることは解っているけど。言葉にして言う必要があるよな。
「エリス、ミリア、ノエル、ジェシカ、ソフィア……みんな、ありがとう。俺はみんなのことが世界で何よりも、誰よりも一番大切だからな」
誰の前だろうと――父親のダリウスや母親のレイア。師匠のグレイやセレナ。双子の弟と妹のシリウスとアリシア。魔王アラニスや、この世界の魔神や神、他の『神たち』の前でも。俺は同じことが言えるからな。
※ ※ ※ ※
そして次の日。俺とヨハンは、シンディーたちと一緒に
「アリウス。てめえは……絶対に出過ぎた真似をするんじゃねえぞ」
殺意全開のシンディーに釘を刺される。まあ、こいつにとって。俺とヨハンは依頼を取り合うライバルだからな。
「シンディー。一応、言っておくけど。俺は依頼を横取りするつもりはないからな。
イメルダ・ブリリアントは俺に、シンディーたちの露払いをしろと言ったけど。それは方便で。シンディーたちが失敗したら、俺たちが地龍を倒せってことだからな。
だけど俺は心配していない。シンディーたち3人なら、地龍くらい倒せるだろう。そう思っていたんだけど――
「シ、シンディー……逃げろ……」
血まみれの筋肉の塊のような巨漢。ギジェットが地面に這いつくばりながら、必死に叫ぶ。
何故、こんなことになっているかと言うと。理由は単純で、地龍が想定していたよりも強いからだ。
地龍は『龍』という名前だけど。所謂、ドラゴンじゃなくて。巨大なだけで、魔法を使うこともドラゴンブレスを放つこともない爬虫類系の魔物のことだけど。
今回、討伐依頼を請けた相手は翼がないだけで正真正銘のドラゴンで。体長15mクラスだから、余裕で
シンディー、ギジェット、ケイナの3人は特級ハンターと呼ばれていて。500レベルを超えているけど。
3人だけで相手にするには、1,000レベル超えのドラゴンじゃ厳しいだろう。
「ギジェット。うるせえよ……地龍はあたしが狩るんだ!」
「そうだよね……シンディーなら殺れる筈だ。僕は確信しているよ」
ギジェットの言葉を無視して。右からシンディーが。左からケイナが地龍に迫る。
「てめえは……あたしが殺してやる!」
シンディーは魔物の骨で造った2本の剣で戦う二刀流で。遠隔から魔力の斬撃を飛ばしながら、物凄いスピードで地龍に迫る。
「僕もシンディーに敗けられないよ」
ケイナは弓使いだ。巨大な魔物の骨で出来た弓で。同じように魔物の素材で造った糸に、矢を引き絞って。狙うのは地龍の眼球。
狙い違わずに。ケイナが放った矢は高速で、地龍の目に命中する。
だけど地龍が瞼を閉じただけで。鋼鉄のような分厚い鱗に、ケイナの矢は弾かれる。
「そ、そんな馬鹿な……」
「ケイナ……狼狽えるんじゃねえ。相手は所詮、蜥蜴野郎じゃねえか!」
シンディーは高い跳躍力を活かして、空中に高く飛び上がって。重力を利用して、地龍の頭に渾身の一撃を叩き込むけど。
「うっ……」
「シンディー!」
地龍の力に弾き飛ばされて。意識を失ったシンディーの身体は、自分が飛んだときよりも2倍以上の高さを舞う。
意識を失っているし。このまま地面に落ちれば、シンディーの身体は落下ダメージに耐えられないだろう。だけど――
「なあ、ケイナ。シンディーの意識がないから。おまえに訊いても構わないだろう。俺が手出ししても構わないか?」
「ああ……後でシンディーに怒られると思うけど。頼むよ」
ケイナも地龍の攻撃を食らったのか。頭から血を流しているけど。そんなことはお構いなしで。ポケットから出した煙草に火をつけて、美味そうに吸い込む。
まあ、ケイナの言質は取ったからな。
俺は地龍との距離を一瞬で詰めると。巨大な首を切って、地龍の頭を狩り取る。
地龍が噴き上げる噴水のような血飛沫。だけど、こんなモノを浴びるほど。俺は間抜けじゃないし。
そんことよりも、地龍に弾き飛ばされたシンディーを回収する必要がある。
『
別に感謝されたいとか。そんなことは思っていないから。俺はシンディーが生きていることを確認すると。地面に置いて、立ち去ることにした。
「おまえたちは、アリウスさんの偉大さの一片すら――」
ヨハンが良い掛けた言葉を遮って。
「シンディーのことを頼むよ。俺たちは帰るからさ」
俺は地龍の死体を放置したままま。『
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