第325話:面倒なことは終わらない


「それじゃ、仕事の話が決まったことだし。あとは心置きなく飲めるな。オルド、あんたなら。こいつらが何者か知っているんだろう?」


 シンディーが顎をしゃくって、俺たちの方を指す。


「ああ、そいつらのことか……シンディー。知りたいなら、自分で訊け」


 オルドには話を通しているからな。俺たちに気を遣ったんだろう。


「自己紹介がまだだったな。俺はアリウス。こいつはヨハン。どうせ俺たちが別の大陸から来た冒険者だって話は、聞いているんだろう?」


 最初の絡み方とか、反応とか。俺たちがいることが解っていた感じだったからな。


「ああ。そんなふざけたこと言う奴がいるってことを聞いたから。面を拝んでやろうと思って、こんな時間に来てやったんたぜ」


 シンディーは隠そうともしない。


「僕たちは君たちに興味がある。2人で魔物を100体以上、仕留めたって話だからね」


 派手な服のイケメン、ケイナが酒のグラスを片手に俺の正面に座る。


「僕はケイナだ。よろしく頼むよ。勘違いして欲しくないんだけど。僕はシンディーみたいに、君たちに喧嘩を売るつもりはないからね。君たちの方から面倒事を起こすつもりがないなら、余計な干渉をするつもりはないよ」


「だったら問題ないな。俺の目的は魔物狩りと観光ってところだ。ヨハンが余計なことをしないように、しっかり言い聞かせておくよ」


「アリウス。君も仲間に手を焼いているようだね。気持ちは良く解るよ」


「なんだよ、ケイナ。その言い方じゃ、あたしが迷惑を掛けているみたいじゃねえか?」


「いや、僕はもう諦めているから。シンディーに文句を言うつもりはないよ」


 そうかよと、シンディーが舌打ちする。


「それでアリウス。魔物を100体以上倒したって話は、どこまで本当なんだ?」


 巨漢の男ギジェットが割って入る。


「別に自慢したい訳じゃないし。そこは想像に任せるよ」


 100体の魔物を倒すくらい、そんなに大したことじゃないと思っていたけど。ギルドマスターのオルドや職員たちの反応を見た後だから。適当に言って誤魔化すことにした。


「やっぱり、眉唾じゃねえか。そもそも100体の魔物の死体をどうやって運ぶんだよ? ハンターズギルドの連中に確かめたが。こいつらが査定のためにギルドに預けた魔物の死体は10体だ」


 査定している間に肉が腐るからと言われて。預けたのは10体だからな。


「それでも2人で倒したにしては、結構な数だ。アリウスとヨハンには、それだけの実力があるってことだろう」


 ギジェットの言葉に反応しそうだったヨハンを、視線で黙らせる。これ以上余計なことを言って、面倒なことになるのは御免だからな。


「俺たちの話はそれくらいで良いだろう? 俺たちがハンターズギルドに来たのは、依頼を見繕うためだから。そろそろ、行かせて貰うからな。酒代の方は約束通りに全部俺が持つから。好きなだけ飲んで構わないよ」


 そう言って、俺とヨハンが席を立って。壁に張り出された依頼が書かれた紙を眺めていると。


「どうやら。僕たち以外に、君たちに用があるが到着したようだね」


 ハンターズギルドの入口から。如何にも貴族って感じの豪華なドレス姿の女が、騎士たちを引き連れて入って来る。

 勿論、こいつらが近づて来ることには、気づいていたけど。


「ブ、ブリリアント閣下……どうして、このようなところに?」


 オルドは驚いているから、こいつらが来ることを知らなかったみたいだけど。


「貴様から、面白い報告を受けたからな。他の大陸から来た冒険者というのは……貴様たちか?」


 年齢は30代半ばってところか。縦ロールにした金色の髪。客観的に見れば、それなりに美人で。痩せているのに、出るところは出ている。

 だけど強欲さが滲み出ている顔つきから、近づきたくないタイプだな。


「はい。ブリリアント閣下。俺はアリウス。隣りにいるのはヨハン。俺たちが閣下が仰った冒険者です」


 だけどこの状況で無視したら、喧嘩を売るようなモノだし。一国の王として考えれば、街の領主に敬語を使う必要はないけど。俺は只の冒険者として、ギルモア大陸に来たからな。


「ほう……私の名前を知っておるとは。蛮族の大陸・・・・・から来た者としては、感心なものだな」


 ヨハンが眼鏡越しにブリリアントを睨みつけるけど。無理矢理頭を下げさせて誤魔化す。

 それにしても俺たちの大陸を『蛮族の大陸』と言うとか。『モンスターハントの神』の影響なら、今度キッチリ話をする必要があるな。


「ならば、こちらも名乗ってやろう。私は国王陛下より、ロワイヤ子爵領を賜ったイメルダ・ブリリアントだ」


 ここがどこかの王国で、ロワイヤの街が子爵領にあるって話は初めて聞いたけど。ギルモア大陸でも国や爵位の考え方は、変わらないみたいだな。


「それで。ブリリアント閣下は、冒険者である俺たちに何か用でも?」


「なに。貴様たちが2人で大量の魔物を討伐した強者だと、オルドから報告を受けたからな。貴様たちにもブエルダ地方に出没する地龍アースドラゴンの討伐に参加する権利を与えてやろう・・・・・・・・と思ってな」


 イメルダの言葉にヨハンが再び反応するけど。力づくで押さえつける。


「あん? ブリリアント閣下。そりゃ、どういうつもりだ?」


 だけど反応したのはヨハンだけじゃなかった。シンディーは貴族に向けたら絶対に面倒臭いことになりそうな目で、イメルダを見る。

 俺たちと天秤に掛けるようなやり方が、気に食わないんだろう。


「貴様……ブリリアント閣下に、どういうつもりだ!」


 騎士たちが殺意を込めて、怒声を浴びせると。


「何だよ、てめえら? あたしと殺り合うつもりか……上等じゃねえか!」


 シンディーの目から瞳孔が消える。こいつは後先を考えずに、暴れるタイプだな。


「おい、シンディー。止せ!」


 巨漢の男ギジェットが止めようとするけど。


「ギジェット、無駄だよ。こうなったら、シンディーを誰も止められない」


 派手な格好のイケメン、ケイナは妙に落ち着いていて。まるでこの状況を楽しんでいるように笑っている。

 ケイナはブリリアントが来ることを知っていたようだし。こいつの思惑通りに、事が進んでいるってことか?


「なあ、シンディー。待てって」


 俺はシンディーと騎士たちの間に立つ。


「ブリリアント閣下。俺たちは閣下の依頼を請けるつもりはないですよ。俺たちは別の大陸の冒険者ですから。貴方に敬意は払いますが、従う義務はありませんので」


 これも喧嘩を売ったと言われたら、その通りで。言い逃れは出来ないけど。ケイナに踊らされるつもりはない。


「貴様……閣下に対して、嘗めた口を!」


 イメルダの騎士たちが激昂するけど。


「良い……こやつの言うことは正しい。こやつらはハードレイク王国の民でも、ましてや私の領民でもない」


 イメルダは騎士たちを止めて、強欲そうに笑う。


「むしろ、私は貴様が気に入った。だから改めて依頼しよう……貴様たちには特級狩人ハンターであるこの者たちの露払いをして貰おう」


 結局のところ、やることは同じだけど。シンディーたちと俺たちを天秤に掛けるんじゃなくて。あくまでも地龍討伐の依頼を請けるのは、シンディーたちってことだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る