第324話:三人組のハンター


 ハンターズギルドに入って来た3人組。

 肩に刺青がある女子。筋骨隆々の巨漢の男。場違いな感じの貴族のような服を着たイケメン。

 3人が現われた瞬間、空気が変わる。


「アリウスさん。どうやら、この大陸にも少しは歯ごたえのある輩がいるようですね」


 黒縁眼鏡越しに、ヨハンが不敵に笑う。


「ヨハン。これ以上、勝手なことをするなら。契約を解除するからな」


「それは困りますね。でしたら、私は大人しくしていますよ」


 そんなことを俺たちが話していると。


「なあ……今、少しは歯ごたえがある奴がいるとか。言っていたよな?」


 刺青女子が、こっちにやって来る。


 黒髪に琥珀色の瞳。年齢は20代後半ってところか。客観的に言えば、結構な美人だけど。

 胸しか隠れていない短いシャツと、ショートパンツという格好。鍛え上げられた身体と、獰猛な笑みの方がインパクトが強い。


「シンディー、聞いてくれよ! こいつら、俺たち狩人のことを馬鹿にしやがって。徹底的に痛めつけてやってくれ!」


 俺たちを取り囲む狩人の1人が言う。俺は別に何も言っていないけどな。


「あん? うるせえよ。てめえらのために、喧嘩するつもりはねえが……デカい口を叩くなら、腕に自信があるってことだよな?」


 刺青女子のシンディーが、面白がるように笑う。


「おい、シンディ。金にならない喧嘩は、ほどほどにしとておけ。明日、使い物にならなくなったら。俺たちが困るからな」


 次にやって来たのは、筋骨隆々の巨漢の男だ。

 禿げ頭で厳つい顔。年齢は30代半ば。身長は2mくらいで、俺より少しデカい程度だけど。筋肉の塊のような身体つきで、横幅は俺の倍以上ある。


「ギジェット、解っているって。こんな奴らに、あたしが敗ける筈がねえだろう?」


「まあ、止めても無駄なのは解っていから。僕は止めないけど。相手はシンディが思っているよりも、ずっと強いからね」


 最後にやって来たのは、派手な服を着たイケメン。


 年齢はシンディーと同じくらい。赤いアロハシャツのような服と、白いズボンにブーツ。格好は派手だけど、落ち着いた感じで。3人の中では一番、真面そうに見える。


「ケイナ、てめえ……まさか、こいつの方が、あたしよりも強いとか言わねえよな?」


「そこまでは僕にも解らないけど。この人は魔力を隠しているし。『鑑定アプレイズ』で見えるレベル通りだと思わない方が良い」


 俺は『能力偽装フェイクアビリティ』で、レベルとステータスを誤魔化している。


 『能力偽装フェイクアビリティ』は相手が『鑑定アプレイズ』したときに偽の情報の情報を伝えるスキルだ。

 勿論、自分よりもレベルが低い相手が『鑑定アプレイズ』しても。設定したレベル以上の相手なら、きちんと・・・・鑑定できる。


「こいつが『能力偽装フェイクアビリティ』を使っているだと……ケイナ、マジで言っているのか?」


「僕が適当なことを言わないのは、シンディーも知っているだろう?」


 シンディーが俺を睨みつける。面倒な奴に絡まれたな。


「俺の連れがあんたたちを、馬鹿にするような発言をしたことは謝るよ。詫びとして、今夜。ここにいる全員に酒を好きなだけ奢るから。それで勘弁してくれないか?」


 ハンターズギルドも、冒険者ギルドと同じで。酒場が併設されている。


 狩人たちは現金なもので。酒を奢ると言ったら歓声を上げる。


「随分と太っ腹だな……だが、あたしの喧嘩を買う度胸はねえってことか?」


 シンディーが挑発するけど。


「こっちに非があるのは明らかだからな。俺はやたらと喧嘩を売るような真似はしないよ」


「なんだよ、詰まらねえ奴だな。まあ、良いさ……好きなだけ飲んで、構わないんだよな? マスター、ギルダークを瓶で。あるだけ持って来いよ!」


 シンディーは意地の悪い笑みを浮かべると。カウンターに出された酒瓶から、グラスに琥珀色の蒸留酒を並々と注いで。一気に飲み干す。

 奢るとは言ったけど。まだ午前中なのに、この時間から飲むのか。


 まあ、とりあえず。話が収まったみたいだし。俺は口だけじゃない証拠に先払いとして、それなりの金額をハンターズギルドの職員に預ける。


 ギルドの受付の奥から、ギルドマスターのオルドが出て来る。


「なんだ? 騒がしいと思ったら……シンディー、おまえたちか」


「よう、オルド。邪魔しているぜ」


 シンディーは悪びれることもなく、酒を飲み続ける。


「おまえたちが約束の時間よりも早く来るなんて、めずらしいな。雨でも降るんじゃねえか? それにしても昼間から酒とは、随分と良い身分だな


「今日は打合せだけだろう? 別に構わねえじゃねえか」


 オルドとの話を聞いていると。シンディーたち3人は、ハンターズギルドの指名依頼を請けるために来たらしい。


 ブエルダ地方の街道沿いに出没する地龍アースドラゴンを討伐すること。それがシンディーたちが名指しされた依頼だそうだ。


「地龍が出没するせいで、隊商が通ることもままならないらしい。今回の依頼主は、この領主のロワイヤの街の領主ブリリアント閣下だ。条件も悪くないし、当然請けるだろう?」


「報酬とは別に。討伐した地龍は当然、あたしらの物だろう?」


「無論だ。ブリリアント閣下は気前が良いからな」


「領主様の依頼じゃ、断れねえしな」


 巨漢の男ギジェットが応える。


「じゃあ、決まりだ。オルドさん、出発は明日で構わないよね?」


 派手な格好のイケメン、ケイナが話を纏める。こいつが三人の纏め役ってところか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る