第323話:邂逅


 100体以上の魔物の素材は、買取価格を査定するだけで。ハンターズギルドの職員総掛かりでも一週間以上は掛かるらしい。


「全部買い取りできる予算はねえし。それに一番の問題は肉だな……これだけ肉が大量にあると、解体するまでに腐らせてしまうだろう」


 ハンターズギルドマスターのオルドが難しい顔をする。魔物の素材を買い取れば利益になるから、ハンターズギルドとしては買取れるだけ買い取りたいけど。マンパワー的に難しいから、悩みどころって感じか。


「だったら捌ける分だけ適当に選んで、解体と買取を頼むよ。あとは俺の『収納庫ストレージ)』に入れておくから」


 大量の魔物の死体を持ち運んでいても意味がないから。この機会に全部売ってしまおうと思ったけど。

 『収納庫ストレージ)』に入れたモノは時間が経過しないから、肉が腐ることはない。


「これだけの魔物が入る『収納庫ストレージ)』って……おまえたちは、いったい何者なんだ?」


 オルドが呆れた顔をする。


 『収納庫ストレージ)』は空間属性の第10界層魔法で。A級冒険者以上なら、使える奴はそれなりにいるけど。

 普通は入れられるモノの大きさと重量に制限があって。100体近い巨大な魔物なんて、とても入らないからな。


 ヨハンの『収納庫ストレージ)』も、それなりに大きいけど。さすがにヨハンが倒した魔物の死体全部は入らないから。俺の『収納庫ストレージ)』に半分以上を入れている。


「俺とヨハンは別の大陸から来た冒険者だけど。これだけ大量に運べる奴は、俺たちの大陸にも滅多にいないよ」


 別に自慢する訳じゃないけど。事実だからな。


「他の大陸から来ただと……確かに、この辺りの奴には見えねえが……」


 ギルモア大陸と他の大陸は、ほとんど交流がないし。俺とヨハンは大量の魔物を倒して素材を持ち込んだんだから。オルドが考えそうなことは解っている。


「俺たちのことを、ロワイヤの街の有力者に話すのは構わないけど。もし挨拶に来いとか、面倒なことを言うなら。俺たちはこの街を出て行くからな」


 オルドとしては当然の務めだろうし。これだけ目立つことをすれば、仕方ないとは思う。だけど、できれば面倒なことに関わりたくないから。先手を打って、釘を刺しておく。


「解った。善処しよう……だが俺も上が言うことには、逆らえないからな。そのときは相談させてくれ」


「ああ。オルドが話が解る奴で助かるよ」


 この日は買い取って貰う分の魔物の死体を預けて。俺とヨハンはハンターズギルドを後にした。


※ ※ ※ ※


 次の日。俺とヨハンは再び、ロワイヤの街のハンターズギルドにやって来た。ギルドの依頼を適当に見繕うためだ。


 ハンターズギルドは魔物の素材の買取りの他に。特定の魔物の討伐や素材の回収。隊商の護衛などの仕事の依頼を、狩人にしている。ギルモア大陸で兵士以外の戦力と言えば、狩人だからだ。


 狩人と冒険者は、ほとんど同じような仕事のようだけど。狩人はあくまでも、魔物を狩ることが仕事で。素材の回収や護衛は、アルバイトのようなモノらしい。


 俺とヨハンがハンターズギルドに入ると。周りの狩人たちが、俺たちを見ながらヒソヒソと話をしている。

 理由なら想像がつく。昨日、俺たちがハンターズギルドに大量の魔物の死体を持ち込んだことを、知っているんだろう。


「アリウスさん。ギルモア大陸の狩人も、大したことないようですね。たかだか100体程度の魔物の死体を持ち込んだだけで、これほど噂になるのですから」


 ヨハンがこれ見よがしに言う。なあ、ヨハン。余計なことを言うなよ。


「狩人が大したことねえだと……」


「そいつは聞き捨てならねえな!」


 10人ほどの狩人たちが血相を変えて、俺たちを取り込む。他の狩人たちは遠巻きに見て。とりあえず、様子見を決め込んでいるようだな。


「いや、悪かったよ。こいつを黙らせるから、勘弁してやってくれないか」


 俺がフォローしようとすると。


「アリウスさん。私はコソコソと人の噂話をする輩が嫌いなんですよ。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えば良いじゃないですか」


 ヨハンはお構い無しに、狩人たちを煽る。こいつは、そういう奴だったな。


「何だと、てめえ……好き勝手に言いやがって!」


「この人数相手に、勝てると思っているのか?」


 頭に血が上った狩人たちが詰め寄って来る。


「ええ、当然ですよ。人数がいれば勝てると思っている愚か者に、生きている資格はありません。死にたいのなら、掛かって来なさい」


 ヨハンは完全に上から目線で。武器を構えることもなく、狩人たちを挑発する。

 まあ、ここにいる狩人たちが相手なら。何人いようと、ヨハンの敵じゃないけど。


「おい、ヨハン。良い加減にしろよ。おまえを雇ったのは、安い喧嘩をらせるためじゃない。これ以上、勝手なことをするなら――」


 そう言い掛けたとき。ハンターズギルドの扉が、バタンと音を立てて開いて。


「よう、てめえら。邪魔するぜ」


 3人組が入って来る。肩に刺青がある女子。筋骨隆々の巨漢の男。場違いな感じの派手な服を着たイケメン。

 3人が現われた瞬間、狩人たちの空気が変わった。

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