第322話:ハンターズギルド


 俺とヨハンは、ウルガから街の場所を聞いて。そこを目指して移動することにする。


 道中で遭遇した魔物は、相変わらずデカい奴ばかりだったけど。俺はデカい魔物と戦うことには慣れているし。


 ヨハンは暗殺のプロだからな。どうやって殺せば一番効率が良いか理解して。巨大な魔物を仕留めるのも、すっかりお手の物だ。


 俺は途中で別件が入って。昼間、移動している最中に傀儡くぐつと入れ替わったけど。ヨハンは問題なく魔物を倒していた。


 今回、俺はギルモア大陸の巨大な魔物と戦うことを想定して。『傀儡師』ヴィラル・スカールに傀儡の強化を依頼した。


 傀儡を強化にするには、魔力の出力を上げるのが手っ取り早い。だからヴィラルに動力の部分のパーツを交換して貰って。必要な魔力は最難関トップクラスダンジョン産の魔石で補うことにした。


 出力を上げると、他のパーツの耐久性に問題が出るけど。何かあれば、俺が来れば良いだけの話だから。継続戦闘能力が低くても問題ないだろう。


 俺は『世界迷宮ワールドダンジョン』の魔物の魔石や。神たちの領域に俺が創ったダンジョンの魔物の魔石を大量に持っているけど。そのレベルの魔石を使える傀儡を、ヴィラルは造ることができないらしい。


「アリウス、憶えていろよ……いつか、必ず。おまえが見せた魔石に相応しい傀儡を造ってやるからな……」


 ヴィラルは捨て台詞のように言ったけど。ヴィラルに見せたのは、『世界迷宮ワールドダンジョン』の最初の階層に出現する魔物の魔石で。もっと魔力が強い魔石は幾らでもあるんだけど。


 まあ、それは置いておいて。俺とヨハンは巨大な魔物たちを殲滅しながら。ジャングルを踏破して、街に辿り着いた。


 ロワイヤの街は、ギルモア大陸の一番西にある街で。

 人口は1万人くらいだけど。巨大な魔物が徘徊する場所に造られた街としては、相当な規模だろう。

 魔族の領域に点在する魔族の氏族だって。1万人規模なんて滅多にないからな。


 ロワイヤの街に入るのは簡単だった。アーク村で宿代わりに魔物を渡したとき。それでは多過ぎると、ウルガにギルモア大陸の貨幣を結構貰ったからだ。

 それでも魔物の素材を全部買い取るには金が足りないと。肉以外の大部分の素材は返されたけど。


 ロワイヤの街を一言で言えば、辺境地帯にありそうな雑多な街だ。分厚い外壁に囲まれた街の面積は、人口の割に狭くて。入り組んだ路地と、立体的に造られた街並み。


「とりあえず、宿を探すか」


 俺とヨハンがギルモア大陸に来てから、今日で1週間だ。まあ、事前に情報を集めた訳じゃないのに。1週間で未知の大陸で街に辿り着けたなら、御の字だろう。


 宿を決めると、俺とヨハンは街に繰り出す。遊ぶためじゃなくて。ギルモア大陸の魔物の素材から造る武器や防具を見に行くためだ。


 アーク村でも魔物素材から装備を自作していたけど。ロワイヤの街にいる職人が作る装備は、文字通りにレベルが違うらしい。

 俺たちがロワイヤの街に到着したのは、午後の早い時間だから。時間的には余裕がある。


「なるほどね。金属や布を、全然使っていないんだな」


 俺たちが住んでいる大陸では、魔物の素材を使った装備でもベースは金属や布で。魔物の素材と組み合わせて造る。


 だけどギルモア大陸の装備は違う。ベースから骨や革などの魔物の素材で。金属や布を使っていても、金属の鱗とか魔物から作る繊維とか。全部、魔物の素材でできているらしい。


「とりあえず、1つ買ってみるか」


 俺は武器屋で適当な剣を手にして、会計をしに行く。だけど値段を訊いたら、とても手持ちのギルモア大陸の金じゃ足りない。


「じゃあ、金を作って来るよ」


 俺たちが向かったのは、ハンターズギルド。

 ハンターズギルドはロワイヤの街の支配階級が運営していて。狩人ハンターから魔物の素材を一括で買い取っている。


 狩人は登録制で。ハンターズギルドを通さないで、魔物の素材を売るのはルール違反だ。商人に直接売ったことがバレると、狩人としての登録を取り消されて。二度と登録できないらしい。


 商人の方も街の支配階級が運営するハンターズギルドを敵に回したくないから。直接素材を売りに来た狩人の大半は密告されて、資格を失うそうだ。


「先ずは狩人として登録して。魔物の素材を売りたいんだけど」


 狩人に登録するには、紙に名前を書いて。登録料を払って、登録証を貰うだけだ。冒険者と同じくらい簡単だった。


 次は魔物の素材を買い取って貰う。とりあえず、俺とヨハンはウルガから返して貰った魔物の素材を『収納庫ストレージ)』から取り出す。


見えない殺戮者インビジブルマーダー』に『食らい尽くすヒュージバキューム巨猪イーター』ですか……これをお二人で?」


 ハンターズギルドの職員の女子が、ウルガたちと同じような反応をする。ギルモア大陸ではレイド規模の人数で巨大な魔物を倒すから、当然の反応だろう。


「他にも魔物の死体が大量にあるんだけど。どれくらい買取って貰えるんだ?」


「大量にって……ちょっと、お待ちください!」


 職員の女子は慌てて奥の部屋に駆け込んで。40代の男を連れて来る。


「俺はギルドマスターのオルドだ。おまえたちが大量の魔物を仕留めたってのは本当の話か?」


 オルドは疑わしそうな顔をする。


「証拠が見たいなら、『収納庫ストレージ)』から魔物の死体を出すけど。ここじゃ、狭過ぎるからな」


「だったら奥に通してやる。ギルドの裏口から入れ」


 オルドに案内されて、裏口から入る。

 ハンターズギルドの敷地は壁に囲まれた大きな邸宅くらいの広さで。受付をする建物の他に、魔物を解体する場所と大きな倉庫がある。


 オルドは俺とヨハンを魔物の解体場の前に案内すると。


「じゃあ、本当に大量の魔物を仕留めたのなら。ここで出して見せろ」


 半信半疑って感じだっけど。俺とヨハンが『収納庫ストレージ)』から魔物の死体を取り出すと。


「お、おい……こいつは……いったい、どういうことだ?」


 大量に積み上がる魔物の死体を山を見上げながら、オルドが固まる。

 俺とヨハンが取り出した魔物の死体は、100体を余裕で超えていた。


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