第319話:転生者の事情
翌日の日曜日。俺はリーシャと『
せっかくの機会だからと、みんなにリーシャを案内したらと言われたからだ。
「ねえ。アリウスに奥さんが5人いることは解ったけど……その……こ、子供はどうするつもりなの?」
この手の質問をされるのは慣れている。一番質問される機会が多いのは、俺の母親のレイアで。
「まあ、自然に任せるつもりだよ」
俺は最近まで、色々と忙しかったから。子供のことは計画的に考えていたけど。
今の俺に時間的な制約はそこまでないから。子供が生まれたら、俺は子育てに協力するつもりだ。
「そ、そうなんだ……アリウスは大人なんだね」
前世の年齢を考えなくても。俺はこの世界に転生してから25年経つからな。
リーシャは滅亡した魔導王国エストラーデの王女だから。
年齢的には700歳を余裕で超えているけど。この世界に転生したのは、ついこの前だし。感覚的には、前世で死んだ年齢ってところだろう。
「俺は前世で死んだときは、25歳だったし。この世界に転生してから25年経つから、精神的には50年生きていることになる。リーシャから見たら、オッサンって感じだよな」
俺は素直な感想を言う。
「そ、そんなことはないよ! アリウスはカッコ良いし、優しいし……私のことを心配してくれているのは解るよ。だから年齢とか関係なし……その……」
リーシャが何を言おうとしているのか。何となく解る。
だからこそ、言わせない方が良いと思う。
「俺とリーシャは同じ転生者だからな。リーシャを助けるのは当然だけど。俺にとって一番大切なのは、奥さんたちと。
まだ子供ができたか、解っている訳じゃないけど。
「そ、そうなんだ……だったら……」
リーシャがちょっと寂しそうな顔をする。だけど、ここで俺が慰めるのは違うと思う。
「この世界は広いから。行こうと思えば、どこまでも行ける――俺はどこまでも行きたいから、これからも忙しくなるよ。だけどリーシャも、俺に用があるときは遠慮なく『
裏を返せば、俺に何か用があるなら『
「それは解ったけど……アリウスと初めて会ったとき。私は棺の中だったし……まさか普通の冒険者じゃなくて、国王だとは思わなかったわよ」
「いや、俺は『
「そんなことはないわ。アリウスはアリサさんのことを信用しているから任せているだけで。相手が信用できないなら、任せたりしないでしょう?」
「まあ、その通りだけど。俺って、そんなに解り易いか?」
「いいえ。そう意味じゃなくて……」
リーシャは何か言いたそうだったけど、言わなかった。
「ねえ、アリウス。私たちはリーシャさんと話したいから。少し席を外して貰っても構わないかしら?」
城塞に戻るなり、エリスに言われる。他のみんなも俺をじっと見ているし。断るって選択肢はないだろう。
みんながリーシャと何を話しているのか。詳しいことは解らないけど、何となく解る気がする。
ダンジョンを攻略するために、みんなと離れていた時期もあるけど。そうは言っても、この世界で。俺はみんなとずっと一緒に過ごして来たからな。
そして1時間ほど経つと。俺はみんなに呼ばれた。
何を話したのか、訊くつもりはない。話す必要があるなら、みんなの方から言うだろうし。何も言わなくても、何となく解るからな。
それでも言葉にする必要があることもあるけど。今回のことは違うと思う。言葉にしない方が良い場合もあるだろう。
「じゃあ、リーシャ。おまえがこの世界に転生したことを、改めて歓迎するよ」
俺たちは乾杯して。みんなが作った料理を食べる。
リーシャが楽しそうだし。みんなも満足そうだから、問題ないだろう。
※ ※ ※ ※
「新しい転生者か……ちょっと面白いことになるかと思うとったけど。エリスたちに先手を打たれたな」
アリサは夜空を眺めながら、
アリウスと取引して。『
「うちがアリウスさんを裏切ったら、どうなるか……まあ、うちはそんな馬鹿な真似はせんけど」
アリウスから十分過ぎるほどの報酬は貰っているし。仕事にやりがいはある。
けどな……自分も転生者であるアリサは考える。
「うちって……アリウスはんにとって、何なんや?」
アリサはアリウスに対する恋愛感情はない。あくまでも2人の関係は、利害で結ばれている。
それでも……ふと、思うことがある。フレッドと良い、今回のリーシャと良い。
アリサ以外の転生者のために。アリウスは自分がリスクを負うことを平然とする。
だけどアリサのためにアリウスがしたことは……どこまで行っても、利害関係の上のことでしかない。
「それがアリサの望みじゃないのか?」
突然の声に振り向くと、そこにアリウスがいた。
「いや、悪いな……アリサのことを詮索するつもりはないけど。なんとなく、こうする必要があると思ったんだ」
これもダンジョンの神の力を継承した影響なのか。
「良く解らんが……アリウスはんは、うちに何をさせたいんや?」
アリサが
「俺はアリサがしたいようにすれば良いと思うよ。おまえのやり方でやれば、全部上手く行くだろう? 俺はアリサに任せているからな」
信用しているとか、信頼しているとか。そんな上辺の言葉じゃなくて。アリウスは『
「そんなことを言って……うちが裏切ったら、アリウスはんはどうするつもりや?」
「そのときは、おまえを止めるけど。おまえに任せたのは俺の責任だからな。おまえを責めるつもりはないよ」
アリサが裏切ったとしても。全部の責任を負った上で、アリサを止めるだけ。
「そんなことが言えるのは……ホンマ、アリウスはんくらいやな」
アリサは楽しそうに笑う。
あくまでもアリサとアリウスは利害関係だが。アリウスほど興味深くて、自分に利益をもたらす上司は、アリウス以外に考えられない。
「うちを本気にさせたことを。いつかアリウスはんに後悔させたるわ」
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