第320話:世界の外側


 ヨハンと組んで、傀儡くぐつと入れ替わることで。俺は意外と冒険を楽しめることに気づいた。


 夜はみんなと一緒に過ごす約束だから。未知に挑むって意味の本当の冒険をするのは、難しいと思っていた。


 だけどヨハンが協力してくれるなら、数週間から1ヶ月以上掛かる冒険でも。傀儡と入れ替わることで、毎日みんなと一緒に夜を過ごすことができる。


『ヨハン。ちょっと、相談があるんだけど。近いうちに、会えないか?』


 俺は『伝言メッセージ』を送って。ヨハンに会うことにした。


 とある街の酒場に、ヨハンを呼び出す。


「アリウス陛下。今度は私に何をお望みですか? 死ねと言っても構いませんよ」


 ヨハンは俺のファンだって言っていたけど。目がマジだ。


「いや、そんな重い話じゃないって。ヨハン、また冒険に付き合ってくれないか? 今度は1ヶ月以上掛かるかも知れないけど。俺が傀儡と入れ替わるときに、サポートを依頼したいんだ」


「はい、お安い御用です。『奈落ならく』は安くない報酬を要求すると思いますが。私はガルド総帥が何と言おうと、アリウス陛下に同行させて頂きます」


 ヨハンは恭しく頭を下げる。ガルドには事前に話をしてあるから、文句を言われることはないけど。『奈落』という組織的には、ヨハンの言動は問題だろう。


「ヨハンは俺の目的も、行く場所も訊かないんだな? 今回、俺はギルモア大陸に行くつもりだよ」


 この世界には、俺たちがいる大陸の他に。2つの大陸が存在する。

 だけどそれぞれの大陸は、ほとんど交流がない。


 大海に隔てられて、距離が離れているのも理由の1つだけど。1番の理由は2つの大陸の大半が、人や魔族がほとんど住まない未開の地だからだ。


 俺はダンジョンの神の力を手に入れて、神たちの領域に行ったときに。他の神がギルモア大陸を支配していることを知った。

 支配すると言っても、神たちはこの世界に直接干渉できないから。『神たちのルール』に基づいて、影響力を及ぼしているだけの話だけど。


 『RPGの神』が、俺たちがいる大陸の大半を。『乙女ゲームの神』が『恋学コイガク』の舞台であるロナウディア王国の王都周辺の地域を。『ダンジョンの神』が全てのダンジョンを支配しているように。


 ギルモア大陸を支配しているのは、『モンスターハントの神』だ。


 完全に未開の地を冒険するのも楽しいと思うけど。ギルモア大陸には『モンスターハントの神』の影響で、幾つかの街や村があって。強大な魔物も生息しているみたいだから。今回、俺はギルモア大陸を選んだ。


 一応、『モンスターハントの神』の許可も貰っている。あまり派手に荒らすなという条件付きだけど。


 ギルモア大陸に行くに当たって。俺は事前に、高速移動でギルモア大陸に向かった。

 今の俺の速度は、音速の10倍を余裕で超えているから。ギルモア大陸に辿り着くのに、そんなに時間は掛からなかった。


 一度、ギルモア大陸に行けば。転移ポイントを登録して、いつでも『転移魔法テレポート』で行くことができる。


「と言うことで。ギルモア大陸に行くこと自体は、何の問題もない。だけどギルモア大陸の住人が、どんな奴らかって情報はないからな。ヨハン、トラブルがあることは覚悟しておけよ」


「トラブルがなければ、アリウス陛下のお役に立てませんので。私としては、むしろトラブルを歓迎します」


 ヨハンが不敵に笑う。こいつも冒険を楽しみにしている――訳じゃなくて。言葉通りの意味だろう。


 この日はヨハンと別れて。俺はガルドと報酬の話と、日程の調整をした。


※ ※ ※ ※


 そして一週間後。正式に依頼をしたヨハンと再会する。


「じゃあ、ヨハン。今回もフォローを頼むからな」


「はい。アリウス陛下のお役に立てるのでしたら、私は何でも・・・します。それでは参りましょうか」


 俺とヨハンは『転移魔法』で、ギルモア大陸に向かった。


 俺が転移ポイントとして設定したのは、鬱蒼うっそうと茂るジャングルの中。

 探索は後の楽しみとして残したから、場所は適当だ。


「アリウス陛下。なかなか凄い場所に転移しましたね」


 今回、俺はA冒険者のアルじゃなくて。普通にアリウスと名乗ることにした。ギルモア大陸の連中は、俺のことを知らないだろうからな。


「ヨハン、陛下と呼ぶのは止めろよ。俺のことは呼び捨てにしてくれ」


「解りました……アリウスさん!」


 突然、ヨハンが『収納庫ストレージ』から、禍々しい巨大な戦斧を取り出す。


「ああ。解っているよ」


 俺は『索敵サーチ』を常時発動しているから。そいつ・・・の存在には、とうに気づいていた。


 突然、周りの木々が潰れるようにひしゃげる。そいつは周囲と同化するように身体の色を変化させているけど。俺は魔力を捉えているから、奴の輪郭が見えている。


 俺たちが遭遇したのは体長10mクラスの巨大なカメレオンのような魔物だ。


 厚ぼったい瞼に覆われた大きな目。ずんぐりした体形。ぐるっと巻き込んだ尻尾。そこまでは、まんまカメレオンだ。


 だけど4本の足は異様に発達して、鉤爪がついているし。長い舌を突き出す口には、剣のように鋭い牙が生えている。顎はワニのように頑丈そう。ワニが半分入ってる感じか。

 巨体なカメレオンが舌を伸ばして、俺を捕らえようとする。

 『モンスターハントの神』には、あまり派手に荒らすなと言われているけど。多少、魔物を狩るくらいは問題ないだろう。


 俺は舌を躱しながら、『収納庫ストレージ』から剣を取り出すと。魔力の刃を伸ばして、カメレオンの首を切り飛ばす。


 生命活動を停止したカメレオンの巨体の色が戻って。首から血を噴き出す巨大な死骸が地面に転がる。


「さすがはアリウスさん。お見事です」


「いや、そういうのは良いから。ギルモア大陸では、魔物の素材を加工して。武器や防具を作るらしいからな。とりあえず、回収しておくか」


 俺はカメレオンをそのまま『収納庫ストレージ』に放り込む。


 俺たちは魔物を狩りながら。人がいる場所を目指して、先に進むことにした。


 高速移動で空中を飛び回れば、人がいる場所を探すのは簡単だけど。そこまで急ぐ訳じゃないし。魔物を狩りながら移動するのは、如何にも冒険って感じだからな。


 熊に、カマキリに、猪と、色んな種類の魔物と遭遇したけど。小さい奴でも10m超と、やたらとサイズがデカい。


「なかなか手ごたえがある魔物ですね」


 だけど図体がデカい分、動きは素早くない。

 ヨハンは禍々しい巨大な戦斧を片手に、立体的に動きながら。巨大な魔物を確実に仕留めていく。


 ヨハンの実力なら、この辺りの魔物に苦戦することはないだろう。


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