第317話:冒険者の実力
「てめえ……『蜃気楼の巨人』の足を切り落とす力があるからって。所詮はA級冒険者だろうが!」
S級冒険者パーティー『黒鷲団』のサブリーダー、ケイン・ザウエルが大剣を手にしてイキり立つ。
「ケイン、止せ! 私はアルと話がしたいだけだ。余計なことをするなら……解っているだろうな?」
「ケ、ケリー……俺だって、こいつに文句があるだけだぜ!」
ケリーが睨まれて、ケインが震える。いや、俺は何を見せられているんだよ?
「アルさんは貴方たちの戯言に付き合うほど暇じゃないんですよ」
ヨハンが『
こいつは、もう自分の実力を隠すつもりはないな。
他の冒険者たちは、そんな俺たちを遠巻きに見ながら。さらに距離を空ける。俺たちに関わりたくないのが見え見えだな。
「それで、ケリー。おまえは俺に何の用があるんだよ?」
「アル……うちのケインが失礼した」
ケリーが深々と頭を下げると、他の冒険者たちが騒めく。S級冒険者が格下に頭を下げることなんて、滅多にないからな。
「私はおまえの力の理由が知りたいだけだ。おまえの動きは、とてもA級冒険者レベルじゃない……おまえは、いったい何者なんだ?」
「この前も言った筈だけど。俺は詮索されるのが嫌いなんだよ。それに、冒険者が自分の手の内を晒すと、本気で思っているのか?」
「いや、そういうつもりではない。私の言い方が悪かったな……」
ケリーは真っ直ぐに俺を見て。鞘から2本のエストックを引き抜く。
「アル……おまえの本当の実力を、私に見せてくれないか?」
理由は解ったけど。結局は、力づくってことか。
「おい、ケリー。だったら俺も――」
「ケイン、黙れ!」
ケリーの一喝に、ケインの顔が真っ青になる。
「おい……次はないぞ」
本気の殺意。ケリーも戦闘狂ってところか。
「『黒鷲団』が二度と俺たちに関わらないこと。この条件を呑むなら、一度だけ戦ってやるよ」
「ああ、解った。良いだろう……それで構わない!」
俺とケリーは他の冒険者たちが眺める中で対峙する。
ケリーは2本のエストックを抜いているけど。俺は剣をベルトに差したままだ。
「ケリー。いつでも来いよ」
俺が舐めているとは思っていないのか。それとも、そんなことは関係ないのか。ケリーは意識を集中して、一気に加速する。
的を絞らせない不規則な動き。ケリーは物凄いスピードで近づいて来る。
そして一切の躊躇なく。俺の顔と心臓を狙って突きを入れる。
エストックの切っ先が届く寸前。俺は一瞬で剣を抜くと、2本纏めて粉砕する。
「何だと……」
ケリーが唖然としているのは、エストックを粉砕したからだけじゃない。ケリーが反応できない速度で、喉元に剣を突きつけたからだ。
「これくらいできる冒険者なんて、幾らでもいるからな」
ケリーはS級冒険者の中で、決して弱い方じゃない。
だけど、あくまでもS級冒険者の中ではって話で。もっと強い冒険者はたくさんいる。
俺はケリーの反応を見て、こいつが視認できる程度に速度を落とした。つまりケリーの反応速度は、俺の想定以下だってことだ。
「待ってくれ……せめて、もう一度だけ……」
ケリーが負け惜しみじゃなくて。俺の動きを見極めたいから、言っていることは解っている。
「おい。一度だって約束だろう」
だけど戦いにやり直しはない。そんな甘いことを言っているから、こいつは
俺はケリーを放置して、その場を立ち去った。
※ ※ ※ ※
※ケリー視点※
「おい、ケリー! 大丈夫か?」
アルが立ち去ると、ケインが駆け寄って来る。
「アルの野郎……ケリーがあんな奴に敗ける筈がねえ! 絶対に卑怯な手段を使ったに決まっているぜ!」
「……」
私が憮然としていると、ケインは何か勘違いしたのか。
「なあ、ケリーだってそう思うだろう? あんな奴は『黒鷲団』全員で袋に――」
下卑た笑いを浮かべるから、思わず手が出てしまった。私の拳は顎を砕いて、ケインの身体が宙を舞う。
「アルが私のエストックを砕いたことに感謝するんだな……そうでなければ、私はおまえを殺していた」
ケインは背中から地面に落ちて、意識を失う。私は『黒鷲団』の他のメンバーたちと、他の周り冒険者を睨みつける。
「おまえたちも勘違いするな……私はA級冒険者のアルに実力で敗けた。それも圧倒的な力の差を見せつけられて。冒険者ランクだけでは、強さは測れなようだな」
アルが『蜃気楼の巨人』の足を切り落とす姿を見て以来。私はずっと、アルの本当の強さを知りたいと思っていた。
アルを観察していると。普段の何気ない動きの中にも、不意に強者を感じた。
だけど、いつもアルの強さを感じていた訳ではない。油断していることを装っているのか、A級冒険相応の実力しか感じないときもある。まるで
だから私はアルの実力を確かめたかった。
そして実際にアルと戦ってみて、本当の実力が解った……いや、まだアルは全然本気じゃない。実力を隠している筈だ。
それが知りたくて。最後はみっともなく、縋るような真似をしてしまったが。私はアルの実力を疑っているのではなくて……
遥か高みにあるアルの強さに、憧れを覚える。アル……私は甘かった。アルに比べれば、少しは才能があると己惚れていた自分が恥ずかしい。
アルの強さに少しでも近づきたい……アルのように強くなりたい!
そう思えば思うほど……身体が熱くなって。アルの顔が真面に見れないのは、何故なんだ?
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