第315話:災厄の魔女
魔導王国エストラーデの第二王女だったリーシャは、兄や姉よりも魔法の才能があったために、王位継承争いで殺されそうになって。生き残るためにヴァンパイアになるという選択をした。
ヴァンパイアやリッチなどの上級アンデッドになる魔法が、この世界には存在する。蘇生魔法がないこの世界で、死を回避する方法の一つだ。
「ヴァンパイアになってからも、今度は魔物として国中から命を狙われるようになって。全てを憎んだリーシャは、魔導王国エストラーデを滅ぼしたんです」
リーシャは他人事のように淡々と言う。まあ、リーシャとしての過去の記憶があるだけで、実感がないからだろう。
こいつは封印されていたリーシャに転生したと言うか。こいつの人格がリーシャに憑依したって感じみたいだからな。
魔導王国エストラーデを滅ぼしたリーシャは、後になってから自分がしたことを悔いて。誰もいなくなった国で、自分を封印するという選択をしたそうだ。
「まあ、おまえが忘れているだけで。魔導王国エストラーデを滅ぼしたリーシャも、おまえだって可能性もあるけど。リーシャには魔導王国エストラーデを滅ぼす理由があったみたいだし。そんな昔のことを、どうこう言うつもりはないよ」
問題はリーシャがヴァンパイアだってことだ。魔物としての殺戮衝動や、吸血衝動があると面倒なことになるからな。
俺は上級アンデッドになる魔法の存在は知っているけど。その魔法自体に詳しい訳じゃない。自分がアンデッドになるつもりはなかったからな。
こういうときは、俺の師匠の1人であるセレナに訊くのが一番だ。セレナ以上に魔法に詳しい奴なんていないからな。
セレナに『
魔法で上級アンデッドになっても、特に殺戮衝動はないそうだ。だけどヴァンパイアには吸血衝動があって。定期的に血を飲まないと、吸血衝動に支配されるらしい。
だけど解決方法はある。血を飲めば良いだけの話で、人ではなくて動物の血でも構わないらしい。
『他にも色々と訊きたいことと、教えたいことがあるから。その子を私のところに連れて来なさい』
セレナがそう言ってくれるなら、甘えさせて貰うか。
俺はリーシャに事情を説明して。『
ちなみにリーシャはヴァンパイアだけど。日の光を浴びても問題ないらしい。
「本当に転移したの? 凄い……これが本物の魔法なのね……」
過去の記憶があっても、転移を始めて体験したリーシャは驚いている。こいつが覚醒してから、突然リーシャとしての記憶を思い出したのは本当のようだな。
今、グレイとセレナが住んでいるのは、バーミリオンという街の宿屋だ。
冒険者として世界中を巡って来た2人に家はなく。今でも宿屋暮らしを続けている。どうせ寝るために帰るだけだから、問題ないらしい。
「アリウス、1ヶ月ぶりくらいか?」
「その子が
RPGの神の件を解決した後。グレイとセレナは2人で『
「リーシャ。俺の師匠のグレイとセレナだ」
「リーシャ・エストラーデです……すみません。転生前の名前は思い出せなくて」
「この世界のおまえはリーシャなんだろう。だったら何の問題ないぜ」
「そうよ。難しく考えることはないわ。私たちは転生者じゃないから、貴方の気持ちを理解できるとは思わないけど。貴方がこの世界で生きて行くために、手助けすることはできると思うわ」
グレイとセレナは自然体でリーシャに接する。2人もリーシャのことを『
セレナが上級アンデッドになる魔法について、リーシャに説明する。
リーシャも過去の記憶を思い出しながら、ヴァンパイアとして生きるための注意点を確認する。
「過去の記憶があるなら、問題になるようなことはないと思うわ。リーシャが悪意を持って自分の力を使わない限りはね」
「私にそんなつもりは……」
「ごめんなさい。ちょっと意地の悪い言い方だったわね。だけど貴方が転生者で、突然ヴァンパイアの力を得たなら。その力を使ってみたいって思うのは当然だから。自分の力をセーブすることを意識した方が良いわ」
リーシャはこの世界に転生して、目覚めたばかりで。リーシャとしての過去の記憶があると言っても、右も左も解らない状況だろう。
「リーシャ。一応、俺は『
俺が国王だって言うと、リーシャは驚いていたけど。
「アリウス、ありがとう……何から何までお世話になって、申し訳ないわ」
「まあ、同じ転生者のよしみって奴だな。俺以外にも転生者がいるから、今度紹介するよ」
アリサに『
リーシャには悪いけど、出会ったばかりの奴を手放しで信用する訳にはいかないからな。アリサにはリーシャの世話と、念のために監視を頼んでおいた。
『アリウスはんは、また新しい女を連れて来るんか』
アリサの返事は、この一言だけど。
そんなことを言われるほど、俺は『
「それとリーシャ。ちょっと相談したいことがあるんだけど」
俺はまだ『蜃気楼の巨人』と遺跡の調査依頼を請けている途中で。リーシャは『
遺跡をこのまま放置する訳にもいかないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます