第314話:遺跡の秘密


 俺は『解析アナライズ』で『蜃気楼の巨人』を解析して。記録されていた座標を元に、遺跡がある場所に向かう。


 一人で勝手に行くなら、最初から『索敵サーチ』で遺跡の場所を探せば良かったと思うだろうけど。『蜃気楼の巨人』を調べて情報を得たことに意味があるんだよ。


 魔物から情報を得て、目的の場所に辿り着くって。如何にも冒険って感じだろう?


 座標の場所は砂漠地帯にある岩山で。岩山の一部が崩れて、巨大な空洞ができていた。


 空洞の奥へと進むと、途中から壁と床と天井が金属に変わる。

 天井までの高さは20m以上。これなら『蜃気楼の巨人』も十分通れるな。


 さらに奥に進むと、隔壁のような巨大な扉が行く手を阻む。

 扉の脇には、まるでコンソールのような金属のパネル。これが魔道具なら『解析アナライズ』できる筈だ。


 『解析アナライズ』を発動して、しばらく待つと。パネルと隔壁の仕組みが理解できた。

 パネルを操作すると隔壁が自動的に開く。


 中にはさらに巨大な空間が広がっていて。そこを守るように6体の『蜃気楼の巨人』が壁沿いに立ち並ぶ。


 俺のことを侵入者と認識したのか。6体の『蜃気楼の巨人』が一斉に動き出して、襲い掛かって来る。

 まあ、DEFとHPは異常に高いけど。『蜃気楼の巨人』は所詮500レベル程度だから、倒すのは簡単だ。


 だけど後からクメール王国の連中が来たときに、真新しい破壊の跡があるのは不味いし。何か利用価値があるかも知れないから。

 俺は『蜃気楼の巨人』と同じ数の『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開して、6体全部を閉じ込める。


 さらに奥にも同じような隔壁があって。俺は『解析アナライズ』しながら遺跡中を探索する。

 何かの理由で放棄したのか。遺跡の中には遺骨らしいモノはない。


 そして一番奥の部屋に辿り着いたとき。俺はその理由を知る。


 そこには、たくさんの魔石が埋め込まれた白銀の棺が置かれていて。

 棺を守るように、10体の金属鎧に覆われた巨大なゴーレムが。『蜃気楼の巨人』の上位互換ってところだな。


 つまりここは、古代王国の王族か何かの墓で。ゴーレムたちは墓を守るために創られたって訳か?

 だけど墓を守るにしては物々し過ぎる。いったい何から守るつもりなんだよ?


 金属鎧のゴーレムたちが一斉に襲い掛かって来る。だけど勿論、破壊するつもりはない。

 俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』に10体のゴーレムを閉じ込めると。白銀の棺近づく。


 俺は死者を冒涜する趣味はない。だけど棺の中から魔力を感じる。


 棺を開けると、中には薔薇の花が敷き詰められている。作り物じゃなくて本物の薔薇だ。

 そして薔薇の絨毯の上には黒いドレスの女子――


 背中まで伸びた水色の髪。陶器のような白い肌。

 客観的に言えば、可憐な感じの結構な美人だ。だけど遺跡に埋葬されていた遺体とは、とても思えない。いや、悪い予感しかしないんだけど。


「う……」


 遺体の筈の女子が声を上げて、目を覚ます。


「こ、ここはどこ……貴方は誰ですか?」


「俺はアリウス・ジルベルトだ。人に名前を訊くなら、自分も名乗れよ」


「アリウスって……見た目で解りますが。やっぱり、外国人の方なんですね。それにしても日本語・・・が上手なんですね」


 女子は、はにかむように笑う。


「申し遅れました。私は……え? 私は……誰ですか?」


 女子の発言から、大よその想像がつく。つまり、こいつは転生者で。ミリアと同じように、前世の記憶がないってことか。


 だけど、この反応――ショックを受けている感じじゃない。今の状況を素直に受け止めているのか? 普通は混乱するとか、もっと何かあるだろう。


「何となく状況が解ったけど。俺はこんな見た目だけど、元は日本人。つまり、おまえと同じ転生者だよ。色々説明するのに時間が掛かるし。おまえがここにいる理由がないから、一緒に来るか?」


 一応、言っておくけど。下心は一切ないからな。同じ転生者として、こいつを放っておけないだけだ。


「え……アリウスさん、良いんですか? 全然、状況が解りませんが。解らな過ぎて、どうしようかと思っていたので。そう言って貰えるなら、アリウスさんについて行きます」

 一切邪気のない素直な笑み。


「いや、誘った俺が言うのも何だけど。簡単に人を信じると痛い目に遭うから、もっと気をつけろよ」


そう・・言ってくれるアリウスさんは、悪い人じゃありませんよね。これでも私は人を見る目があるんです……あ! 今、思い出したと言うか……何なんですか、この記憶……」


 突然、女子が悲しそうな顔をする。


「私は日本で生まれた筈なのに、自分の記憶は思い出せなくて。だけど別の記憶があるというか……突然、思い出したんです。だから、ごめんなさい! アリウスさん……私は貴方と一緒に行けません……」


「いったい、どういうことだよ? 俺は大抵のことに耐性があるから、嫌じゃなかったら話してみろよ」


「わ、私が……封印・・された記憶を思い出したんです……」


 女子は目を伏せたまま、言葉を続ける。


「記憶の中の私の名前は……リーシャ・エストラーデ。魔導王国エストラーデの第二王女で、禁忌の魔法でヴァンパイアと化して。エストラーデを滅ぼした『災厄の魔女』なんです!」


「『災厄の魔女』とか、国を滅ぼした話は初耳だけど。俺はおまえの能力を知っているから問題ないよ」


 『鑑定アプレイズ』したから、こいつのレベルと能力は全部解っている。


「その上で、俺はおまえを誘ったんだ。おまえがいきなり暴れ出すとは思わないけど。

俺はおまえよりも圧倒的に強いからな。おまえが何をしようと絶対に止めて見せるよ」


 俺は水色の髪の女子、リーシャ・エストラーデを安心させるように笑う。


「リーシャ。ようこそ、この世界へ。まあ、この世界も悪くないって言うか。俺は前世の世界よりも、ずっと気に入っているからな」


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