第313話:疑念


「何なんだ、あの威力は……アル、ヨハン。おまえたちは、いったい何者だ?」


 『蜃気楼の巨人』を倒した後。S級冒険者パーティー『黒鷲団』のリーダー、ケリー・キャスパーが真っ直ぐに俺たちを見据える。


「俺たちがA級冒険者だってことは、冒険者プレートを見れば解るだろう。それに冒険者が手の内を晒すと思うか?」


「そうですよ。これくらいの力がある冒険者なんて、いくらでもいるでしょう。詮索する暇があるなら、自分たちの非力さを恥じるべきでは?」


「なんだと、てめえ!」


 ヨハンの挑発に『黒鷲団』のサブリーダーであるケインが反応する。


「おい、ヨハン。それくらいにしろ。ケリー、ケイン。俺たちの仕事は終わったから、先に休ませて貰うよ」


 破壊した『蜃気楼の巨人』を調べるために。浮遊船は、しばらくここに留まることになった。

 浮遊船じゃ、『蜃気楼の巨人』の巨体を運ぶことができないからだ。


 クメール王国の指揮官にも色々と訊かれたけど。答える義務はないと突っぱねた。

 向こうも『蜃気楼の巨人』に有効打を与えた俺たちの機嫌を損ねたくないのか。しつこく訊いて来なかった。


 俺たちはA級冒険者だから、浮遊船の中に個室を与えられている。

 1人部屋じゃなくて、ヨハンと2人で1部屋だけど。その方が俺には都合が良い。


「じゃあ、ヨハン。後のことは頼むよ。何かあったら『伝言メッセージ』で連絡してくれ」


「アリウス陛下、承知しました」


 俺は『転移魔法テレポート』で『自由の国フリーランド』の城塞に戻ると。今日起きたことを、みんなに話した。


※ ※ ※ ※


※ヨハン視点※


 他の冒険者たちと群れる趣味はありませんので。私は部屋で一人で食事をとります。


 夜の見張りは交代制で、人数がいるので2日に一度。勿論、見張りのときもアリウス陛下の傀儡と一緒に行動します。

 傀儡は簡単な命令に従うだけで。言葉を喋ることができませんので、私がサポートする必要があります。こんなことで偉大なるアリウス陛下のお役に立てるなら、光栄の極みですね。


 不意に、部屋のドアがノックされる。無視しますが、私たちが中にいることが解っているらしく。


「アル、ヨハン。少し、話をさせて貰えないか?」


 『黒鷲団』のリーダー、ケリー・キャスパーの声。私は『索敵サーチ』を発動しているので、相手がケリーだという見当は付いていました。


「こちらに話すことはありません。お引き取り願えますか?」


 ドアを閉めたまま返事をすると。


「アルはどうなんだ?」


「アルさんはもうお休みです。しつこい女は嫌われますよ」


「……」


 それ以上、ケリーは話し掛けて来ませんでしたが。しばらく部屋の外にいたことは、『索敵サーチ』の反応で解っていました。


※ ※ ※ ※


「……ということがありまして。あの女は私たちのことを詮索しているようですね」


 翌朝。戻って来たアリウス陛下に、ケリーのことを報告する。


「まあ、放っておいて構わないだろう。詮索したところで、俺たちの正体がバレることはないからな」


 こんなところに『魔王の代理人』であり、『自由の国フリーランド』国王のアリウス陛下がいるなどと。誰も思わない筈ですし。私が奈落ならくの暗殺者だなどと、想像もしていないでしょう。


 私もアリウス陛下が冒険を楽しむなどと言う理由で、一冒険者として依頼を請けるなど。初めは信じられませんでしたが。アリウス陛下は本気で冒険を楽しんでいる様子。


 アリウス陛下のことですから、楽しんでいるフリをしてるだけで。凡人の私では理解できないような何か深い考えがある筈……

 そう思うこともありましたが。理解できないことを考えても意味がないと、私は早々に諦めました。


 破壊した『蜃気楼の巨人』は、浮遊船に同乗しているクメール王国の宮廷魔術士が調べています。


 禿げ頭と白い髭の老人。宮廷魔術士ウォルド・バークは古代学の研究者でもあって。

 遺跡の調査をするために同行したらしく。『蜃気楼の巨人』を嬉々として調べています。


 ですがゴーレムの専門家でもないウォルドが調べたところで。何か解るか疑問ですね。


「なるどね。そういう仕組みか」


 不意に、アリウス陛下が呟く。


「アルさん。何か解ったのですか?」


 アリウス陛下は私の隣で、ウォルドが『蜃気楼の巨人』を調べているところを眺めていただけで。それだけで何か解るとは思えませんが。アリウス陛下のことですから、一応訊いてみます。


「たぶんだけど、遺跡の場所が解ったよ。『蜃気楼の巨人』のプログラム……指示を与える術式に、座標が記録されていたからな」


 アリウス陛下は何を言って……いや、理屈は理解できないですが。アリウス陛下が言うのですから、本当に遺跡の場所が解ったのでしょう。


「問題はどうやって伝えるかだな。俺がそんなことを言っても誰も信じないだろう」


 その通りでしょう。アリウス陛下の正体を知っている私でさえ、まだ半信半疑なのですから。


「ということで。俺は傀儡と入れ替わって、一足先に遺跡を調べて来るから。ヨハン、後のことは頼むよ。

 遺跡を調べれば、とりあえず今回の目的は果たせるし。こいつらを遺跡に誘導することができる物が、見つかるかも知れないからな」


 アリウス陛下はそう言うと、私の目の前で一瞬で傀儡と入れ替わりました。


「おい、アル。待っているだけでは暇だろう。少し話をしないか?」


 このとき。『黒鷲団』のリーダーのケリーが話し掛けて来ました。タイミングの悪い女ですね。


「こちらには話すことはないと、言った筈ですよ」


「私はアルに話しているんだ」


 本当にしつこい女ですね。面倒ですから、人目のつかないところで殺して……そんなことを考えていると。


「悪いけど、俺は詮索する奴が嫌いなんだよ」


 傀儡と入れ替わった筈のアリウス陛下が応える。再び一瞬で、傀儡と入れ替わったということですね。


「何だと……いや、悪いのは私だな。済まなかった」


 ケリーは大人しく引き下がる。さすがに自分に理がないことが、解っているからでしょう。


 ケリーが立ち去ると。アリウス陛下が小声で言います。


「じゃあ、ヨハン。今度こそ、後のことは頼むからな。あと、今回参加した冒険者を傷つけることは、一切禁止だって言ったことを忘れるなよ」


 さすがはアリウス陛下。私が考えていることなど、全部お見通しのようですね。


 アリウス陛下が傀儡と入れ替わって姿を消した後。私はケリーの様子を窺う。


 ケリーは、まるで傀儡のように。ほとんど表情が無いので解りにくいですが……

 まだアリウス陛下を探ることを諦めた訳じゃないようですね。その証拠に、ずっとこっちを見ています。


 これは……少し面倒なことになりそうですね。


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