第311話:身代わり


 浮遊船で砂漠地帯を進んでいると、何度か魔物の襲撃を受けた。


 岩蠍ロックスコーピオンに、巨大蜈蚣ジャイアントセンチピード蟻地獄アントライオン。こいつらが、この辺りに出現する定番の魔物のらしい。


 だけど、こっちにはA級以上の冒険者が22人いるから。その辺の魔物に後れを取ることはない。


「おい、てめえら。雑魚くらいは、キッチリ片づけろよ! 大物は俺たち『黒鷲団』が始末してやるぜ!」


 ツンツン頭の『黒鷲団』のサブリーダー、ケインが嫌みっぽく言う。こいつを見ていると、S級冒険者になって調子に乗っていた頃のアランを思い出すよ。


 俺とヨハンはA級冒険者らしく、無難に魔物を倒す。今回は冒険を楽しみに来たんだし。他の冒険者たちの獲物まで、倒してしまうつもりはない。


 ちなみに浮遊船を動かしているのは、依頼主であるクメール王国の兵士で。俺たち冒険者の監視と道案内のために、士官を含めて10人の兵士が同乗している。


 しばらく沙漠を進んでいると、日が暮れて来た。そろそろ、俺は帰る時間・・・・だ。


 『認識阻害アンチパーセプション』を発動して姿を隠すと。俺は『収納庫ストレージ』から等身大の人型を取り出す。

 人型の見た目はA級冒険者アルとして、髪を黒くした俺にそっくりだ。言葉をしゃべることはできないし、さすがに表情まではないけど。


 この人型は『傀儡師』ヴィラル・スカールに依頼して造って貰った傀儡だ。

 傀儡とは、ヴィラルが人に似せて造るゴーレムのことだけど。ゴーレムや人形じゃなくて傀儡と呼べと、ヴィラルがうるさいんだよ。


 この傀儡は、みんなと一緒に夜を過ごす約束を守りながら、冒険を楽しむために用意したものだ。夜の間は俺と傀儡が入れ替わって、傀儡が依頼をこなす。

 傀儡の戦闘能力は下手なA級冒険者よりも上だから、戦力的には問題ないだろう。


 喋れなくて、表情がないと、俺と入れ替わったことがバレる可能性が高いから。傀儡にはフード付きのマントを被せる。そして俺がいない間のフォローして貰うために、ヨハンを雇ったんだよ。


 雇い主であるクメール王国の連中には、俺のことをゴーレム使いの冒険者だと伝えてあるから。俺の代わりに傀儡が戦っても問題ないだろう。


「じゃあ、ヨハン。後のことは頼むからな」


「はい、承知しました。奥様方とゆっくり夜をお過ごし下さい」


 俺は『転移魔法テレポート』を発動して、『自由の国フリーランド』の城塞に戻った。


「アリウス、お帰りなさい。思っていたよりも、早かったわね」


 みんなは先に戻っていて。一緒に夕飯の仕度をしている。

 昼間は、みんなそれぞれの仕事で忙しい。


 エリスはロナウディア王国のマリアーノ公爵としての仕事と、マリアーノ商会の会長としての仕事。

 ソフィアもロナウディア王国のビクトリノ公爵として、王国の公共工事を手掛けている。

 ミリアは王国諜報部の一員として、ノエルは魔法省の研究者として働いているし。ジェシカはSS級冒険者パーティー『白銀の翼』のメンバーとして、高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』の攻略を進めている。


「俺1人だけ遊んでいて、みんなに悪いな。今回のことは完全に、俺の我がままだから。余程のことがない限り、余裕を持って早く帰って来るよ」


 A級冒険者のアルとして、冒険者ギルドから依頼を請けたことは、みんなにも当然話してある。


 勿論、俺は自分の我がままを優先するつもりはない。みんなのことや、それ以外でも優先度が高いことがあれば、いつでも傀儡と入れ替って戻るつもりだ。

 沙漠を移動しているなら、フードを深く被っても不自然じゃないから。ヨハンのファローもあるし。表情のない傀儡でも、俺じゃないとバレないだろう。


 みんなで夕飯を食べながら。今日あったことを、それぞれが話をする。何気ない日常のことでも、俺たちは全部話すことにしている。


「そのケインって冒険者、本当に嫌な奴ね。私がアリウスと一緒だったら、ボコボコにしているわよ」


 ジェシカが顔をしかめる。確かに今のジェシカの実力なら、ケインくらいは簡単に絞められるけど。


「まあ、相手が格下だと見下す奴は、どこにでもいるだろう。別に実害がある訳じゃないし、今の俺はA級冒険者のアルだからな」


 アリウスに喧嘩を売るなら買うけど。アルでいる間は、ケインのことを放置するつもりだ。


「アリウスが気にしないなら構わないけど。せっかく如何にも冒険者らしい依頼を請けたんだから楽しんでよね」


 ミリアが悪戯っぽく笑う。みんなは俺が冒険者ギルドの依頼を請けたことを、歓迎してくれている。


 この一年半、俺はRRGの神に対処するために『世界迷宮ワールドダンジョン』の攻略に集中していたし。それ以前もギリギリの戦いばかりしていたことを、みんなも何となく察しているから。


 俺が冒険を楽しみたいって言ったら、みんなは驚いたけど。これまで頑張って来た分、楽しんでと言われたんだよ。

 ホント、みんなは俺のことを、良く解っているよな。

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