番外編:王家の別荘に向かう別バージョン

 4話前の番外編『ミリアの想い』の続きです。オッサンの新キャラが登場します。

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 ミリアと話をして、ミリアの覚悟と気持ちは解った。

 そして金曜日。俺たちはエリクと王家の別荘に向かう。


「今回は郊外に行くからね。大型の馬車を用意したよ。荷物用の馬車もあるから、そっちも使ってくれるかな」


 エリクが用意したのは、金で装飾された白塗りの馬車。荷物用の馬車も同じデザインだ。

 俺たちが乗る方の馬車は、大型バスのようなサイズだ。中は二重構造になっていて、外側の廊下の部分が、侍女や護衛が待機するスペースだ。


 内側の部屋の部分は、柔らかいカーペットが全面に敷かれている。その上にテーブルを囲んで、五人は座れそうな革張りのソファーが二脚に、肘掛け椅子が四脚。小ぶりな広間が、そのまま移動する感じだ。


 派手なのは馬車だけじゃない。馬車を引くのは四頭の白馬だ。しかも普通の馬じゃない。ユニコーンの血が混じったノーコーンという名前の半分魔物だ。


 王家の別荘に行くのは、エリクとジークに俺、ソフィアとミリアの五人だ。


「ミリア、貴方……」


「ソフィア、ごめん。ソフィアが私のことを思って隠していたのは解っているわ。だけど私もみんなの力になりたいのよ」


「ソフィア、俺からも謝るよ。俺がミリアを連れて来んだ。だけど何があっても、俺がミリアを守るからな」


「アリウスにそう言われたら、何も言えないじゃない。それに……ミリア、ありがとう。ミリアが一緒にいてくれると心強いわ」


「ソフィア……」


 ミリアとソフィアが互いを抱きしめ合う。これで話は纏まったな。


 俺たちの他に馬車に同乗するのはジークとソフィアの護衛が二人ずつと、エリクの護衛が七人。エリクの侍女兼護衛のベラとイーシャに、ダンジョン実習で教師として俺たちの引率役をしたオスカー。最下層に一緒に転移したターナ、ジール、ジェリド、ガイアの四人だ。


外の護衛は騎馬を駆る一〇人の騎士と、馬車の御者席に座る二人の騎士の計一二人。

 全員白銀の鎧を纏っていて、騎士が乗る馬も全部ノーコーンだ。この一二人は鎧を揃えているけど武器はバラバラで、オスカーたちとは雰囲気が違う。


「アリウス卿が凄腕ってことは、エリク殿下から聞いていますがね。まあ、今回の護衛は俺たちに任せてくださいよ」


 煙草を咥えた髭面の四〇代男はグレッグ。一二人の騎士たちを纏める隊長だ。飄々とした感じだけど全然隙がない。他の一一人も一癖も二癖もありそうな奴らだ。


 この一二人はエリクが自分でスカウトした元冒険者や傭兵で、全員が二〇〇レベルを超えている。ダンジョン実習の襲撃事件のときは癖が強過ぎて、教師役として紛れ込ませることができなかったらしい。


 エリクが用意した戦力はこれだけじゃない。諜報部の連中が今も『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を併用して隠れている。


 今回は諜報部の課長クラスが複数参戦するから、高レベル『掃除屋スイーパー』にも対抗できるだろう。諜報部の連中は馬を使わないけど、自分で移動した方が速いから問題ない。


「みんな、そろそろ出発しようか」


 ノーコーンは普通に時速八〇km以上出るから、馬車は車並みのスピードで街道を走り抜ける。こんな速度で走ると振動が凄そうだけど、そこは魔法がある世界だからな。馬車自体が一種の魔導具で、僅かに空中に浮かんでいる。だから全く振動がないんだよ。


 金で装飾された白い馬車と、周りを固める白銀の鎧を纏う騎士たち。完全に目立ち捲っているな。


「なあ、エリク。別荘に着くまでに襲撃される可能性はないってことか?」


 途中で襲わせるつもりなら、もっと遅い移動方法を選ぶ筈だ。時速八〇kmじゃ、高レベルの奴か魔物しか追いつけないだろう。


「そういう訳じゃないけど。街道で襲われると、他人に迷惑が掛かるからね。僕としては、別荘に着くまで襲撃は待って欲しいんだけど。相手がやることだからね。誘導はするけど、完全にコントロールはできないよ」


 とりあえず、警戒はしておくべきってことだな。まあ、今のうちに準備をしておくか。


 俺は『収納庫ストレージ』から、四本の剣と三つのブレスレットを出す。剣はサイズがバラバラで、ロングソードにレイピア、スモールソードにマンゴーシュだ。


「アリウス、これって……」


「ミリア、ソフィア、ジーク、良かったらこれを使ってくれ。高難易度ハイクラスダンジョン産のマジックアイテムだから役に立つと思うよ」


 シンプルに性能が高い武器だから能力の底上げになる。最難関トップクラスダンジョン産のマジックアイテムもあるけど。癖があるから、みんなには使いこなせないだろう。


 エリクの分を用意しなかったのは、エリクは自分でヨルダン公爵と戦うと言っていたから。マジックアイテムを貸すのも、エリクの意志を邪魔することになるだろう。まあ、そもそもエリクには必要ない・・・・けど。


「アリウス、ありがとう。ありがたく使わせて貰うわ」


「ねえ、アリウス。こっちのブレスレットは?」


「魔力を増幅するマジックアイテムだよ。MPを回復する効果もある」


 こっちもシンプルに魔力を強化するアイテムだ。ミリア、ソフィア、ジークの三人はブレスレットを嵌めて、武器の感触を確かめる。


「うわ……何なのよ、この感覚? 身体の中から魔力が溢れて来る感じね」


「剣も凄いわね。素人の私でも解るわ」


「アリウス、本当に良い剣だな」


 とりあえず、みんなは気に入ったようだな。


「剣の切れ味と魔法の威力を試してみるか?」


 俺は『収納庫ストレージ』から大きな岩を出して、周囲に『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開する。 


「その剣なら岩を切っても刃こぼれしないし。『絶対防壁アブソリュートシールド』がダメージを外に逃がさないから、魔法を使っても問題ないよ」


「じゃあ、剣から試させて貰うわ」


 ミリアが剣を岩に当てると、吸い込まれるように刃が通って岩が真っ二つになる。


「嘘……何なのよ、この切れ味?」


 ソフィアとジークも恐る恐るという感じで剣を岩に当てると、簡単に岩が切れる。


「この剣なら相手が鎧を着ていても問題ないわね」


「ああ。これはスキルも試したいな」


 次は三人が順番に魔法を発動する。

 ミリアが『輝きの矢シャイニングアロー』、ソフィアが『闇の弾丸ダークバレット』、ジークが『水弾ウォーターショット』と。それぞれ得意な魔法を発動すると、出現した魔法の大きさが明らかに違う。


 三人には、しばらく剣と魔法の練習をして貰うことにして。俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開したまま外に出る。


「アリウス、凄いマジックアイテムだね。君のことだから、もっと沢山持っているんだろう? ロナウディア王国軍を強化するために、買い取りの交渉したいところだよ」


「『収納庫ストレージ』に死蔵しているアイテムだから構わないけど。そういう話は、ヨルダン公爵の件を片付けてからだろう」


「ああ、そうだね。このタイミングでアリウスに武器を提供して貰うと、君の力に頼ることになるからね」

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