番外編:遊戯館2


 ノエルはゆっくりしたからボールを投げる。力なく転がるボールは、なんとかガーターに落ちずに三本のピンを倒す。


「ア、アリウス君、やったよ!」


「ノエル、良かったな」


 戻って来たノエルに手を掲げると、ノエルは恥ずかしそうにタッチする。


「ノエル、頑張ったじゃない!」


「そうよ、ノエル。初めてのボーリングなんだから、三本も倒したなら十分よ」


 ミリア、ソフィア、サーシャがノエルを迎える。

 それからゲームが進んで、俺の一〇投目。一投目と同じ軌道を描いたボールが一〇本のピンを倒す。


「いきなりパーフェクトとか……ホント、アリウスは容赦がないわね」


「そういうところが、如何にもアリウスらしいけど」


 ミリアは呆れた顔で、ソフィアは悪戯っぽく笑う。だけど最難関トップクラスダンジョンの魔物のように高速で動く訳じゃなくて、止まった的に当てるだからな。

 最初にストライクを取ったときの動きを完全に・・・トレースするだけ・・で、確実にストライクが取れる。


 他のみんなも軒並みハイスコアだ。ミリアは二〇〇点を超えているし、バーンとソフィアは一八〇点台。ジークとアリシア、シリウスが一五〇点前後。


 アリシアとシリウスは初めてボーリングをしたけど、毎日鍛錬しているから基礎力があるし。二人は観察力があって適応能力が高いからスコアが伸びた。

 魔力操作はボールの軌道を変えられるレベルじゃないから威力が増しただけだけど。さすがはアリウスと同じダリウスとレイアの子供、スペックが高いな。


 サーシャは八〇点台で、ノエルは六〇点台だけど。みんな楽しめたみたいだから、問題ないだろう。

 ボーリングは終わりにして、次のゲームの場所に移動しようとすると。


「みなさん。お仕事、ご苦労様です」


「もし良かったら、飲み物は如何ですか?」


 シリウスとアリシアが売店で買った飲み物を、周りに待機している護衛たちに配っている。二人の突然の行動に、護衛たちは戸惑っているけど。


「アリシア、シリウス、ありがとう。貴方たちも飲み物を飲むくらいは構わないわよ」


「そうだぜ。ジーク殿下とサーシャも問題ないだろう?」


 ソフィアとバーンに促されて、護衛たちは礼を言って飲み物を受け取る。


「アリシアとシリウスは、気遣いができて偉いわね」


 ミリアもアリシアとシリウスと同じことをしようとして、二人の意図に気づいて譲った形だけど。わざわざそんなことは言わないで、みんなに飲み物を配っている。


「う……出遅れちゃったよ……」


 飲み物を抱えて困った顔をしているのはノエルだ。みんな、考えていることは同じだな。


「ノエル、ちょうど喉が渇いていたんだよ。ありがとう」


「ア、アリウス君……ど、どういたしまして……」


 次は屋内のバスケットコートでスリーオンスリーをすることにした。


 俺のチームはミリアとアリシアで、相手はバーンとジークにシリウス。ソフィア、ノエル、サーシャの三人はスカートだから見学するそうだ。ミリアはズボンを穿いているし、アリシアはガウチョパンツだから問題ない。


 アリシアとシリウスがいるから、みんなそこまで本気でやるもりはなかったみたいだけど。『身体強化フィジカルビルド』を発動した二人は大人顔負けの動きを見せる。

 それでもみんなは手加減していたけど、バーンは俺からボールを奪おうとするときだけ本気で掛かって来た。暑苦しいから、当然躱したけど。


 身体を動かした後はビリヤード場に向かう。

 ノエル、アリシア、シリウスはビリヤードも初めてだから。ルールを簡単に説明してからゲームを始める。アリシアとシリウスはビリヤードも呑み込みが早くて、直ぐに上手くなった。ノエルは……まあ、楽しそうだから問題ないだろう。


 そろそろ午後六時になるから、ビリヤードが終わったら夕飯を食べに行く頃合いだな。

 俺は飲み物を頼むために、みんなのところを離れてカウンターに向かう。


 ビリヤード場にはバーカウンターがあって酒も飲める。この世界では未成年でも普通に酒が飲めるけど、アリシアとシリウスが一緒だし。この時間から酒を飲むつもりはない。

 注文した飲み物を持って、みんなのところに戻ろうとすると。


「貴方……アリウス・ジルベルトよね?」


 声を掛けて来たのは、ポニーテルの勝気な感じの女子。武術大会でソフィアやミリアと戦った二年生のセシル・クロミアだ。


 セシルは他の女子二人と一緒にいて、三人とも学院の二年生だ。社交界で会ったことがあるし、俺は学院の生徒の顔と名前くらいは全部憶えている。


「セシル先輩たちは武術大会の打ち上げに来たのか?」


「そんなところよ。ねえ、アリウス・・・・・。エリク殿下との決勝戦は凄かったわね」


 大半の女子は俺のことを『アリウス様』なんて呼ぶけど、セシルは俺を呼び捨てにする。

 社交界でセシルに会ったときに、俺の方から呼び捨てにしてくれと言ったんだけど。


 一緒にいる二人の女子は気が気じゃないって顔をしている。セシルのクロミア家は伯爵で、侯爵のジルベルト家よりも格下だとか考えているんだろう。


「ねえ、アリウス。せっかく会ったんだから、少し話をしない?」


 セシルが俺を誘う。セシルのような勝気な性格の奴は嫌いじゃないけど。


「悪いけど、俺は友だちと一緒に来ているんだよ。セシル先輩だって連れがいるだろう」


「別に少し話をするくらいは構わないわよ。ねえ、貴方たちもそう思うわよね?」


 二人の女子はセシルに気を遣ったのか、俺に頭を下げて離れて行く。


「さあ、カウンターでお酒でも飲みながら話をしましょう」


 セシルは勝手に話を進めようとすると。


「セシル先輩、私たちが先約ですから諦めてください」


「相手が先輩でも、アリウスを譲るつもりはありませんからね」


 ミリアとソフィアが割って入る。二人が近づいて来ることは気づいていたけど。


「ミリアにソフィア様まで……エリク殿下の婚約者の貴方が、他の男と一緒にいて良いんですか?」


 セシルが挑発するように言う。


「ええ、アリウスは私の友だちですから。エリク殿下からも許可を貰っていますよ」


 ソフィアは笑顔で応える。ミリアも絶対に引かないって感じだな。


「なあ、セシル先輩。ソフィアとミリアは俺の大切な・・・友だちなんだよ。勝手な憶測でモノを言わないでくれ」


「解ったわよ。ソフィア様、申し訳ありませんでした。私も友だちと一緒に来ているので、失礼させて貰います」


 セシルはフンッと鼻を鳴らして立ち去る。


「ソフィア、ミリア、助かったよ。最初から断るつもりだったけど、結構強引だったからな。女子と喧嘩をする訳にもいかないだろう」


 ミリアとソフィアを見ると、何故か二人とも顔が赤い。


「私たちが大切って……アリウスが友だちなのは解っているけど……」


「アリウスに悪気がないことは解っているけど……その言い方は心臓に悪いわ」


 俺が友だちとして二人を大切に思っているのは本当だからな。

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