番外編:遊戯館

 馬車は一五分ほどで遊戯館に到着した。

 広い建物の中はボーリング、ビリヤード、ダーツなどで遊べる施設と、様々なスボーツをゲーム感覚で楽しめる屋内コートが併設されている。


 ちなみに今日のみんなはカジュアルな服を着ている。

 ソフィアはシンプルな白いブラウスに、花柄のフレアスカート。ミリアは水色のチュニックにズボンというボーイッシュなスタイル。ノエルは襟なしのシャツの上にアースカラーのカーディガンとスカート。


 制服以外のソフィアを見るのは、社交界で会うときくらいで。ミリアは二人でカフェに行ったときも制服だったし、ノエルとは一緒に出掛けたことがないから。二人の私服を見るのは今日が初めてだ。


「今さらだけど、ソフィアがカジュアルな服を着ているのは新鮮な感じだな。ミリアとノエルの服も良く似合っているよ」


 女子と出掛けるときは必ず服を褒めろと言うけど。別にそんな意図はなくて、普通に感想を言ったんだけど。


「アリウス、ありがとう……」


「何よ、いきなり……でも、そう言って貰えると、悪い気はしないわね」


「ア、アリウス君、ふ、不意打ちは、ズルいよ……」


 三人が頬を赤く染める。まあ、気を悪くした訳じゃないみたいだから問題ないか。


「アリウス、サーシャのことは褒めないのか?」


 ジークが不満そうに言う。


「ジーク、それはおまえの役目だろう」


 ジークは普段悪ぶっているから、自分から人を褒めることはないけど。こうして背中を押してやると、根は素直な奴だからな。


「そ、そうか……サーシャ、その……今日の服、か、可愛いな……」


「ジ、ジーク殿下……あ、ありがとうございます……」


 ジークとサーシャが真っ赤になる。二人だけ『恋学コイガク』の世界をしているな。


 ゲームでは描写されなかったけど、王族や貴族が出掛けるときは必ず護衛が同行する。今日もバーン、ジーク、ソフィア、サーシャは、それぞれ二人の護衛が同行している。

 護衛たちは俺たちの邪魔をしないために、少し距離を空けてついて来ているけど。何かあれば直ぐに対処できる距離だ。


 アリシアとシリウスがいるから、まずは子供でもできるボーリングをすることになった。

 この世界のボーリングはピンが石でできていることと、スコアが手書きという以外は、前世の世界と同じだ。


 俺たちは隣り合った二つのレーンを使うことになった。

 最初に投げるのは俺とミリアだ。アリシアとシリウスは初めてボーリングをするから、俺たちが先に投げて手本を見せることになったんだけど。


「アリウス。解っていると思うけど、魔力を使うのは禁止だからね」


「ああ。そんな大人げないことはしないよ」


 前世でもボーリングをしたことはあまりないけど、俺は記憶を頼りにボーリングボールを投げる。勿論、力はセーブした。

 横回転を加えたボールはレーンの右端を通ってピンの手前でカーブ。先頭のピンに斜めに当たって一〇本のピンを全て倒した。


 俺のステータスなら、これくらいは当然だろう。力をセーブすることも普段から慣れているからな。


「さすがはアリウスじゃない。私だって負けないわよ」


 ミリアは綺麗なフォームでボールを投げる。完全なアンダースローで投げたボールは真っ直ぐに伸びて、同じく一〇本のピンを倒す。


「どうよ、アリウス!」


「ミリアならやると思ったよ」


 嬉しそうなミリアとハイタッチする。『恋学コイガク』の主人公ヒロインのミリアは元々ハイスペックで。鍛錬も真面目にこなしているから、身体の使い方が解っているんだろう。


「アリシア、シリウス。まあ、こんな感じだ。あまり力を使い過ぎないのがコツかな」


「アリウス兄様、解ったわ」


「うん。僕もやってみるよ」


 先に投げるのはアリシアで。真剣な顔でピンを見つめながらボールを投げる。

 初めて投げるとは思えないフォームで、子供用のボールはゆっくり転がって五本のピンを倒す。


「アリシア、初めから五本も倒すなんて凄いじゃない。初心者はボールを当てるだけでも難しいのよ」


「ありがとう、ミリアさん。ミリアさんとアリウス兄様がお手本を見せてくれたからよ。だけど少し力を抜き過ぎたみたい」


 アリシアは再び真剣な顔で二投目を投げる。力を加えたボールは残り五本のピンを全部倒す。上手く修正したな。

 アリシアとシリウスは元A級冒険者の家庭教師と毎日鍛錬しているから、只の子供じゃない。九歳だけど、すでに八レベルだ。


「アリシア、やったわね!」


 ミリアが手を前に出すと、アリシアは嬉しそうに叩く。


「うん。ミリアさん、ありがとう!」


 次はシリウスの番で。アリシアと同じように真剣にピンを見つめながらボールを投げる。斜めに転がるボールが先頭のピンを捉えて一〇本のピンを倒す。

 嬉しそうに戻って来たシリウスとミリアがハイタッチする。


「シリウスも凄いじゃない! 二人とも本当に初めてなの?」


「うん、そうだよ。ボーリングって面白いね!」


「シリウスはズルいわよ。私が失敗するところを見ていたから上手く行ったんじゃない!」


「だけど僕の方が上手く行ったのは事実だからね」


 ちょっとドヤ顔のシリウスに、不満そうなアリシア。


「二人とも喧嘩するなよ。今日は楽しみに来たんだからな」


「「アリウス兄様、ごめんなさい!」」


 シュンとする二人の頭を撫でる。


「まあ、解れば良いよ。アリシアとシリウスもいっぱい楽しめよ」


「「うん、アリウス兄様!」」


「アリウスは本当に良いお兄さんって感じね」


 次はソフィアとバーンの番で。ソフィアは俺たちを微笑ましそうに見ている。


「アリシアがスペアで、シリウスがストライクか。俺も負けてられないな」


 バーンは力で強引に捻じ伏せるようにストライク。ソフィアは力を使わない緩やかなフォームでボールを投げてストライクを取った。戻って来たソフィアとミリアが嬉しそうにハイタッチする。


「みんな、当然のようにストライクを取るな」


「私はみんなのように上手くできる自信がないですわ」


 続いてジークとサーシャが投げる。ジークの一投目は八本のピンを倒して、二投目で残りを倒してスペアで纏める。サーシャは如何にも女子って感じの投げ方で、合計六本のピンを倒した。


「サーシャ、惜しかったわね」


 戻って来たサーシャをミリアとソフィアが迎える。


「み、みんな、上手いね。初心者の私にはプレッシャーだよ」


 最後に投げるのはノエルで。ノエルも遊戯館に来るのは初めてらしい。ぎこちない動きでボールを投げると、斜めに転がってガーターに落ちる。ノエルは身体を動かすことは苦手だからな。


「うう……やっぱり失敗しちゃった」


「ノエル、落ち着けよ。ゲームなんだから、楽しめば良いんだよ。ほら、ピンから目を離さないで、こんな風にまっすぐ腕を伸ばして投げてみろ」


 俺はノエルの腕を取って、アンダースローの形に動かす。


「ア、アリウス君……う、うん、やってみるよ」


 ノエルの顔が真っ赤だ。ミリアとソフィアがジト目で見ているけど、俺は投げ方を教えただけだからな。

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