番外編:朝練(3)

 ここまで模擬戦を終えて。みんなには空いている時間は、別の『特殊結界ユニークシールド』を自由に使って練習して良いと伝えたけど。ミリアがスタミナとMP切れでダウンしたこともあって、バーンとジークが一度模擬戦をしたくらいだけど。


「ねえ、ノエル。今思い出したけど、私は貴方を見掛けたことがあるわ。図書室でアリウスと一緒に勉強をしていたでしょう?」


「え、えっと……そ、そうですけど……」


「ノエル。私たちは同じ一年生なんだから、敬語は要らないわよ」


 ミリアとソフィアがノエルにしきりと話し掛けている。


「で、ですが……わ、私は平民で……」


「そんなことは関係ないわ。ねえ、ソフィア? 私も平民だけど、ソフィアは私の一番の親友よ」


「ええ。ノエルも今日から私たちの友だちね」


「わ、私が友だち……」


 ノエルは自分から武術大会に出るようなタイプじゃないし、強くなりたいなんて思っていないだろう。それでも俺がノエルを誘ったのは、ノエルも良い奴だから、みんなと仲良くなれると思ったからだけど。

 ミリアの誰の懐にもグイグイ飛び込んで行くところと、ソフィアの優しさは、こういうときに頼りになるな。


「ノエルも俺と模擬戦をやってみるか?」


「う、えっと……うん。せっかくアリウス君が誘ってくれたから、やってみようかな」


 ノエルが積極的だ。これもミリアとソフィアのおかげかもな。


「ア、 アリウス君……よ、よろしくお願いします!」


 ノエルは魔術士タイプで。ちょっと厚手のローブに、樫の木の杖というスタイルだ。


「ノエル、俺にまで緊張するなよ」


「だ、だって……ほ、他の人が見ているから……」


 まあ、人見知りのノエルが緊張するのは仕方ないか。


「ノエル、まずは落ち着いて。自分が一番得意な魔法を使ってみろよ」


「う、うん。じゃ、じゃあ……『石弾ストーンバレット』!」


 ノエルが発動させたのは土属性第一界層魔法『石弾ストーンバレット』。ノエルは土属性魔法が得意で、魔法実技の授業でもBグループに入っているから。他のみんなほどじゃないけど魔法の才能がある。

 ノエルが出現させた石の塊は勢い良く飛んで来て。当たる直前に、俺は最小限の動きで躱す。


「ノエル。その調子で、休まずに魔法を発動しろよ」


「う、うん。アリウス君、解ったよ」


 ノエルが発動する魔法を次々と躱す。ノエルの場合は武器らしい武器も持っていないし、俺が攻撃したらそこで終わりそうだけど。こっちも攻撃しないと模擬戦にならないからな。


「ノエル。今度はこっちの番だ。おまえも反撃しろよ」


「う、うん!」


 ノエルの魔法を躱しながら距離を詰める。そして目前まで迫ると、ノエルは杖を構えることも避けることもしないで、痛みに耐えるときのようにギュッと目を瞑る。


「おい、ノエル。おまえなあ……」


 俺は人差し指でノエルのおでこを突くと。


「ア、アリウス君、何をするの? 痛いよ!」


「いや、『特殊結界ユニークシールド』があるから痛い筈がないだろう」


 軽く突いただけだから、ノエルの頭上にポイントも表示されていないし。

 ノエルの場合は、まずは戦い方を憶えるところからだけど。ノエルは別に強くなりたい訳じゃないからな。これからも練習に参加するなら、ノエルの役割を考えるか。


「なんだか、アリウスはノエルだけ扱いが違うと思うんだけど」


「そうね。アリウスはノエルに優しいわね」


 ミリアとソフィアがジト目で見ている。


「そ、そんなこと、な、ないです!」


 ノエルが慌てて否定すると。


「ごめん、ノエルを困らせるつもりじゃないのよ!」


「ノエル、ごめんなさい。こっちに来て一緒にお茶を飲みましょう」


 ソフィアが人数分の紅茶を入れて、ミリアがみんなにサンドイッチを配る。二人が集まったみんなのために用意してくれた差し入れだ。


「アリウス、朝ご飯は食べて来たと思うけど。良かったら食べない?」


「ミリア、ありがとう。貰うよ――うん、美味いな」


「そう言ってくれると、作った甲斐があるわね。余ったらお昼に食べれば良いと思って、いっぱい作って来たから。好きなだけ食べて良いわよ」


 サンドイッチを食べていると、ミリアが思い出したように言う。


「ねえ、アリウス。そう言えば、『特殊結界ユニークシールド』を発動するために魔石が必要よね?」


 修練室の魔法陣が書かれた床は、床自体が巨大な魔道具で。魔石の魔力を消費することで『特殊結界ユニークシールド』を発動する。


「魔石は消耗品だから、学院が貸してくれた訳じゃないわよね?」


 今度はソフィアだ。


「今日みたいに高出力で『特殊結界ユニークシールド』を発動したら、結構な魔力を消費する筈よ。必要な魔石を用意するには、それなりの金額が必要だわ。ねえ、アリウスが幾ら使ったのか,正直に教えて」


 ソフィアは三大公爵家の一つであるビクトリノ公爵家の令嬢だけど。ビクトリノ公爵家は資金が潤沢という訳じゃないから、ソフィアの金銭感覚は俺たちに近いんだろう。


「いや、俺は冒険者だからな。ダンジョンで魔石を手に入るから金は掛かっていないよ。それにソフィアとミリアは差し入れを用意してくれたんだから、これくらいは気にするなよ」


「アリウス……そう言って貰えると嬉しいけど」


「私はアリウスに誤魔化された気がするわ」


 ミリアとソフィアはとりあえず、納得したみたいだけど。


「だったら、アリウス。魔石代は俺が払うぜ」


「俺も練習に参加しただけで、何もしていないからな。アリウス、俺に払わせてくれ」


「え……だ、だったら、アリウス君。わ、私も払うよ!」


 この流れだと、ノエルもそう言うしかないだろう。


「いや、俺は金に困っていないからな。金よりも、おまえたちが頑張ってくれた方が嬉しいよ。バーン、ジーク、ノエル。期待しているからな」


「ああ、親友。任せてくれよ!」


「そういうことか……アリウス、解った」


「ア、アリウス君……う、うん。わ、私も頑張るよ……」


 ここまで話したら、始業時間が迫って来た。みんなが着替える時間があるから、そろそろ終わりにしないと。


「じゃあ、明日の朝も同じ時間で。集合場所はここで良いだろう。この修練室は六時から使う許可を貰っているから、先に来て練習しても構わないからな。魔石はミリアに渡しておくよ」


 俺は魔道具から魔石を外してミリアに渡す。


「え……ちょっと、アリウス! 何なのよ、この魔石の大きさは?」


 俺が渡したのは高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王』の最下層に出現する太古の竜エンシェントドラゴンの魔石で、大人の拳ほどの大きさがある。


「大は小を兼ねるからな。この魔石なら一つで修練室の魔力を全部賄えるよ」


「いや、そういうことじゃなくて……」


 ミリアが言いたいことは解るけど、気づかないふりをする。最近、俺は最難関トップクラスダンジョン『太古の神々の砦』にしか行っていないからな。

 さすがに最難関トップクラスダンジョンの魔物の魔石を使うと騒ぎになるから、ストックしていた魔石を使ったんだけど。他の魔石は全部売ってしまったから、これしかストックが無いんだよ。

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