番外編:朝練(2)


「アリウス、行くわよ。『輝きの矢シャイニングアロー』!」


 ミリアが得意な光属性第二界層魔法『輝きの矢シャイニングアロー』。出現した六本・・の光の矢を躱すと。俺の動きを予想していたのか、剣を手にしたミリアが目前に迫る。


「『閃光剣ソードスラッシュ』!」


 ミリアの剣が光を帯びる。ミリアが発動したのは連撃を浴びせる片手剣用中位スキルだ。俺も子供頃に良く使っていた。

 ミリアは剣も魔法も使うバランスタイプで、光属性魔法が得意だから回復魔法まで使える。


 俺が斬撃を躱して、バックステップでミリアの間合いの外に出ると。ミリアは追尾しながら、再び『輝きの矢シャイニングアロー』を発動する。俺はこれも躱したけど、間髪入れずの連続攻撃に周りのみんなが驚いている。


「さすがはアリウスね。攻撃が全然当たらないわ」


「ミリアの動きは速くて正確だな。俺の動きも読んでいるし、戦い慣れているよな。学院に入学してからも、冒険者を続けているのか?」


「アリウスは何でもお見通しね。実は放課後や休みの日に、先輩たちとパーティーを組んで。学院のダンジョンに行っているわ」


 学院に許可を取れば、生徒なら学院のダンジョンに入ることができる。貴族の生徒の中にも学院のダンジョンを攻略している奴はいるけど。平民の生徒は全生徒の二割しかいないのに、ダンジョンを攻略している生徒の人数の半分以上を占める。

 ダンジョンの魔物を倒すと手に入る魔石を売ることができるから。平民の生徒は鍛錬とアルバイトを兼ねた感覚で、学院のダンジョンを攻略するからだ。


 それでもミリアのように一年生のうちからダンジョンを攻略する平民の生徒は稀だ。貴族の生徒ように入学前から家庭教師や、家に仕える騎士に鍛えて貰っていた訳じゃないから、総じてレベルが低いからだ。


「じゃあ、こっちも攻撃するからな」


 俺はミリアとの距離を一気に詰めて剣を叩き込む。この時点で、俺はバーンと戦ったときよりもスピードを五割増しで上げている。


「ちょっと、アリウス。速過ぎるわよ!」


 それでもミリアは大きく跳んで躱すと。


「『聖なる槍ホーリーランス』!」


 光属性第三界層魔法の白い光の槍を至近距離から放つ。俺の方から飛び込んだから、威力重視の魔法を選択したのか。俺が魔力を込めた剣で払うと光の槍が消滅する。


「嘘! なんで魔法を剣で防げるのよ?」


「これくらいできる奴は、冒険者なら幾らでもいるからな」


 それからもミリアは剣と魔法で攻撃しながら、さらに加速する俺の攻撃を躱して。躱しきれない攻撃は剣と盾で受け続けた。だけど最初から全力で飛ばしたから、MPとスタミナが尽きて。ミリアの頭上に表示されるポイントが一気に増える。


「これくらいで良いだろう。ミリア、良く頑張ったな」


「アリウスに勝てないことは解っていたけど、全力で戦ったら満足よ。それで、私には何が足りないの?」


「あえて言えばSTRとDEFだけど。ミリアは能力のバランスが良いし、基本ができているから。これからも鍛錬を続けて、全体の底上げと経験を積むことだな。

 経験を積めば無駄な動きが減ってスタミナの消費が抑えられるし、魔法も効率良く使えるようになって、MPも持つようになるよ」


「ミリア。おまえ、凄いな!」


 バーンが手放しでミリアを賞賛する。相手の実力を素直に認めるところが、バーンの良いところだな。


「バーン殿下、ありがとうございます。ですが、私はもっと強くなれたいんです」


「俺だってそうだぜ。ミリアに負けてられないからな」


 その後も俺は他のみんなと順番に模擬戦をした。

 ソフィアの装備は布鎧クロースアーマーと呼ばれる魔力を付与して防御力を上げた服で。武器はミリアの剣よりもさらに細くてコンパクトなスモールソードと、マンゴーシュと呼ばれるガードの付いた短剣というスタイルだ。


 ソフィアの場合、剣術は女子としては戦える方というレベルで。攻撃手段のメインは魔法だけど。ソフィアが使う闇属性魔法は威力よりも副次効果が優れているから、正直、単独で戦う武術大会には向いていない。


「アリウスが言いたいことは解るわ。それなりの成績だから、私も武術大会に選ばれたけど。今の私では、そもそも活躍できるとは思っていないわ」


 ジークの装備は王家の紋章が入ったハーフプレートで、武器はロングソード。見た目は俺の冒険者仲間のジェシカのスタイルに近いけど。

 ジェシカのように片手でも両手でも使えるバスタードソードを使っている訳じゃないし。ミリアのように片手を自由にすることで、できることの幅を広げている訳でもない。要するに、そこまで考えて選んだスタイルじゃないってことだ。


 ジークの戦いぶりもスタイルと同様で。『恋学コイガク』の攻略対象の一人だからスペックが高くて、レベルもそれなりに高いけど。正直に言えば、全部中途半端な感じだな。


「アリウス……いや、何でもない」


 ジークも何か思うところはあるみたいだけど。自分の方から訊いて来ないから、ジークの欠点を指摘するつもりはない。

 サーシャについては、ミリアが言っていたけど。ジークに付いて来ただけで練習に

参加するつもりはないみたいだな。

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