番外編:朝練(1)

更新が滞っていまして、スミマセン。書籍版二巻に苦戦していまして。とりあえず、ここでは書かなかった剣技大会の前にみんなで朝練を行うシーンを、番外編としてアップします。長いので何回かに分けますが。細かい設定や表記が違うのはご容赦を……

――――――――――――――――――――


「アリウス、おはよう。約束通りに来てくれたのね」


「集合時間のちょうど五分前に来るなんて、アリウスは時間に正確ね」


 校舎の前でみんなと待ち合わせる。参加するメンバーはミリアとソフィアに、バーン、ジーク、サーシャと――


「あ、あの……ア、アリウス君……」


 集合時間ギリギリで現れた三つ編みで眼鏡の女子。


「ノエル、間に合ったな。みんなに紹介するよ。俺の友だちのノエル・バルトだ」


「ノ、ノエルです……み、みなさん、よ、よろしく、お、お願いします……」


 ノエルは俯き加減で、緊張しながら挨拶する。俺とノエルは図書室に良く行くから、自然と知り合いになって。ノエルは学院でできた俺の最初の友だちだ。


「ノエルは人見知りなんだ。みんな、お手柔らかに頼むよ」


 みんながノエルに自己紹介をすると、校舎の中に移動する。俺たちが向かったのは魔法実技の授業で使う修練室だ。


 部屋は四つに区切られて、それぞれの床にダメージの無効化と数値化の効果がある『特殊結界ユニークシールド』を発動させる魔法陣が描かれている。

 魔法実技の授業は学年の全クラス合同で、生徒の能力によってAからEの五つのグループに別れて行うから。学院には同じ仕様の部屋が五つある。

 授業以外で修練室を使う奴は他にいないのか。学院に申請したら、簡単に借りることができた。


「とりあえず、今日はみんなの今の実力を把握させて貰うよ。装備を付けたら順番に俺と模擬戦をしよう。『特殊結界ユニークシールド』は四つとも発動させるから、空いている時間は自由に練習してくれ。授業のときよりも『特殊結界ユニークシールド』の出力を上げるから、魔法もスキルも本気で使って問題ないからな」


 みんなには、あらかじめ伝えて。ダンジョン実習のときと同じように、実戦で使う装備を持って来て貰った。武術大会は『特殊結界ユニークシールド』を使わないけど、それ以外は同じ条件で戦うし。本気で戦わないと練習にならないからな。


 俺は『鑑定アプレイズ』で、みんなのレベルから使える魔法やスキルまで把握しているけど。模擬戦をするのは、それだけじゃ本当の実力は測れないからだ。


「アリウス。最初から本気で行って良いんだよな?」


 早速、着替えを終えたバーンが俺の前に立つ。バーンの装備は黒鉄色のプレートアーマーに、グランブレイド帝国の紋章が入った盾と幅広の長剣。大国グランブレイド帝国は質実剛健の国だから、バーンの装備は全部マジックアイテムだけど派手さはない。

 俺の方は眼鏡に制服のままで、武器は市販の長剣一本だ。


「ああ。魔法もスキルも好きに使って構わないよ」


「じゃあ、遠慮なく行かせて貰うぜ――『破岩剣ストーンブレイク』!」


 バーンがスキルを発動すると剣が魔力を帯びる。『破岩剣ストーンブレイク』は片手剣用の中位スキルで、バーンが使えるスキルの中で一番威力がある。


 バーンが次々と繰り出す剣を、俺は最小限の動きで躱し続ける。俺がスピードを落として剣を叩き込むと、バーンは剣と盾で受ける。

 だけどスピードを少しずつ上げて行くと、次第に受け損なうようになって。『特殊結界ユニークシールド』の効果でダメージがポイントとして空中に表示される。バーンは魔法も使えるけど、模擬戦で使うつもりはないみたいだな。


「バーンの実力は、だいたい解ったよ」


 バーンの頭上に五〇〇を超えるポイントが表示されている。それに対して俺は当然だけどノーダメージだ。


「やっぱり、アリウスには敵わないぜ。だけど俺の実力も、なかなかのモノだろう?」


 バーンが自信たっぷりに言う。確かにバーンはエリクを除けば、みんなの中で一番レベルが高いし。『恋学コイガク』の攻略対象の一人だから元々スペックが高くて、ステータスはレベル以上に高いけど。


「なあ、バーン。おまえは本気で強くなりたいと思っているのか?」


「なんだよ、親友。そんなことは当然だろう」


「だったら遠慮なく言わせて貰うけど。バーンは俺の攻撃を受け止めようとするだけで、一切躱そうとしなかっただろう。だけどそんな戦い方じゃ、同じ程度の力の奴にも勝てないからな」


 バーンは躱せる攻撃も躱そうとしなかった。自分の実力に自信があるからだろうけど。躱せばノーダメージなところを、受ければ受け損なうことも、押し切られる可能性もある。勿論、ケースバイケースで使い分けるべきだけど、一切躱さないスタイルは自分よりも弱い奴にしか通用しない。


「それにバーンは剣だけに頼り過ぎだ。剣だけだと、どうしても攻撃が単調になるから、おまえの攻撃は解り易いんだよ。盾で殴ったり、蹴りを入れても構わないし。おまえは魔法も使えるんだから、使った方が良い。綺麗な戦い方に拘わって、負けたら意味がないだろう」


「……確かに、その通りかも知れないぜ」


 バーンの言葉に勢いがなくなる。グランブレイド帝国は質実剛健の国だから、バーンも俺が言ったことの意味を理解したみたいだな。

 着替えを終えて戻って来た他のみんなも注目している。


「みんなにも先に言っておくけど。強さとは何かって話になるけど、能力や技術、戦い方や戦略を含めた総合力で勝敗は決まるから。俺は結局のところ、勝った奴が強いと思っている。そういう意味で強くなりたいなら、俺は遠慮なく意見を言わせて貰う。だけど自分の考えを押し付けるつもりはないからな。望まない奴に言うつもりはないよ」


 俺は誰かに勝ちたいとか、そんなことは思わないけど。俺が求める強さとは勝つことだからな。勝てない強さなんて意味がないだろう。


「バーンが本気で強くなりたいなら、まずは変なこだわりは捨てて。どうすれば勝てるか、自分で考えながら鍛錬することだな」


「ああ、アリウス。おまえに言われたことを真剣に考えてやってみるぜ」


「アリウス。私も強くなりたいから、遠慮なくダメ出しして構わないわよ」


 次はミリアの番か。ミリアの装備はチェインメイルをブレストプレート、ガントレット、レッグアーマーで補強した鎧に。武器は細身の剣で、バックラーという小型の盾を左腕のガントレットに固定している。盾を手で持たずに固定しているのは、左手を自由にするためだろう。


「ダンジョン実習のときも思ったけど、ミリアの装備って実戦的だよな。学院に入学する前は冒険者をしていたのか?」


「一応、冒険者登録はしているわ。実力をつけるためと、学院に入学した後の生活費のために、故郷の街の近くのダンジョンを攻略していたのよ」


 『恋学コイガク』の主人公ヒロインミリアが、冒険者だったなんて設定は聞いたことがないけど。ゲームでもミリアは初めからレベルが高いから、あり得ない話じゃないか。

「『身体強化フィジカルビルド』『飛行フライ』『加速ブースト』!」


 ミリアが魔法を連続発動させる。俺も戦闘中は常時発動する基本的な魔法だけど、ミリアの本気さを感じるな。


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