第64-2話:友だち

書籍版「恋愛魔法学院」第2巻は2024年秋に発売予定です。

Web版も2巻向けの内容を書いて来たんですが、

想定していたよりも、さらに加筆修正するところが多くて……

申し訳ないですが、書籍版の作業で更新頻度が落ちると思います。

情報についてはX(旧Twitter)で、随時公開していきます。

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA

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 学院のダンジョンに挑んだ日曜日の昼。俺とミリアは一緒に昼飯を食べることにした。

 レジャーシートのような布を地面に広げて、その上に座る。

 ミリアが持って来たのは大きなバスケットで。色々な具を挟んだサンドイッチと、唐揚げに卵焼きと果物がギッシリと詰まっている。


「アリウスなら、いっぱい食べると思って作ったんだけど……ちょっと多過ぎるわよね?」


「いや、これくらいなら余裕だよ。じゃあ、早速食べさせて貰うか……うん、美味いよ。ミリアは料理が上手いんだな」


「本当! そう言ってくれると、嬉しいわ。アリウス、沢山食べてね!」


 ミリアが水筒から2人分のカップにお茶を注ぐ。俺はミリアの料理を次々と食べ進める。


「ああ、美味かった。ミリア、ごちそうさま」


 俺は弁当を全部平らげて、ミリアに再びお茶を注いで貰う。


「本当に全部食べてくれたのね。これだけ食べてくれると、作った甲斐があるわね」


 それから2人で他愛のない話をする。今度の試験のこととか。俺が授業をサボり捲っていることを、ミリアに文句を言われたりとか。


「この前、ノエルとも同じような話をしたな」


「ノエルって、アリウスがたまに話題に出すけど。アリウスの友だちなのよね?」


 みんなとノエルは、ほとんど接点がない。ソフィアの取り巻きと学食で揉めたときに、ソフィアがノエルに謝ったことくらいか。


「ああ。俺とノエルは図書室に良く行くから、自然と知り合いになって。俺が学院で最初にできた友だちだよ。良い奴だから、みんなにも紹介したいけど。ノエルは人見知りだからな」


「もしかして、アリウスが図書室で勉強を教えていた子がノエルなの?」


 そう言えば、ミリアと初めて会ったとき。俺はノエルと一緒に図書室にいたんだよな。


「でも……そうか。あの子・・・はアリウスの友だち・・・だったのね……」


 ミリアが『友だち』という言葉を強調する。何故かちょっと嬉しそうだ。


「ねえ、アリウス。アリウスの友だちなら、私もノエルと友だちになりたいわ。今度、ノエルに会わせてくれないかな?」


「それは構わないけど。ミリアがいつもの調子で行くと、ノエルは引くと思うよ」


「ああ、ノエルは人見知りなのよね。でも大丈夫よ。私だって相手に合わせることくらいできるわ」


 まあ、ミリアが良い奴なのは解っているし。ミリアが相手の懐へ躊躇ためらわずに飛び込むのは、相手と本音で話すためだからな。


「そうだな。ノエルに訊いてみるよ。ミリアならノエルと友だちになれそうだからな」


「うん。アリウス、ノエルと会えることを楽しみにしてるわ」


 ノエルにも、みんなと仲良くなって欲しいからな。こういうときに、ミリアがいると助かるよ。


しばらくすると、バーンたちが食事から戻って来る。バーンは一時間で戻ると言っていたけど、すでに一時間半は経っていた。


「悪い、待たせたな。ちょっと店が混んでいたんだ」


 バーンは謝っているけど、全然悪びれている感じがしないし。何となく、俺たちの様子を伺っている気がする。


「別に構わないよ。ミリアと話をしていたから問題ないし」


 バークはニヤリと笑って、俺の肩に腕を回す。なあ、暑苦しいんだけど。


「アリウス、ミリアが作った弁当は美味かったか?」


 バーンがこんなことを訊くなんて、めずらしいな。


「ああ、凄く美味かったよ。ミリアは料理上手だな」


「ア、アリウス……そんなに褒めても、何も出ないわよ!」


 ミリアが顔を赤くて、恥ずかしそうに目を逸らす。いや、俺は正直な感想を言っただけだけど。

 そんな俺たちの様子を見て、バーンが納得したように、うんうんと頷いている。バーンの奴、何か勘違いしているだろう。


「時間があまりないから、そろそろダンジョンの攻略に戻るぞ」


 午前中に5階層は攻略済みだから、転移ポイントでショートカットして6階層に直行する。


「ここからは俺も参戦するけど。俺は数が多いときに調整するだけで、基本的には2人で戦って貰うからな」


 6階層に出現する魔物は20レベル台前半と、6階層と比べて強くなる。それでも今のバーンとミリアなら、2人だけで倒せるレベルだけど。安全マージンを考えると、完全には任せきりにしない方が良いだろう。


「ミリア、MPにまだ余裕はあるか?」


 『鑑定アプレイズ』でミリアのMP残量は解っているけど。本人の認識を確認することも重要だから、あえて訊く。


「うん、今のところは問題ないわ。帰り道の分も考えて、MPに余裕がなくなったら、アリウスに教えるわよ」


 ミリアは自分のことも良く把握できているな。これなら心配ないだろう。


 6階層で最初に遭遇した魔物は『地獄の処刑人ヘルイクスキューター』が4体。鎌を持った死霊系のアンデッドモンスターで、攻撃には麻痺とエナジードレインの特殊効果がある。


「バーン!」


「ああ、親友。言われなくても、解ってるぜ――『破壊斬クラッシュエッジ』!」


 バーンがスキルを発動して剣に魔力を纏わせる。死霊系アンデットには普通の武器は効かない。バーンの剣はマジックアイテムだから有効だけど、効果的にダメージを与えるには武器に魔力を纏わせる必要がある。


「ミリア。右の2体は任せて問題ないか?」


「はい、バーン殿下――『聖なる光ホーリーレイ』!」


 ミリアは光属性第4界層魔法を発動すると、白い光の帯が1体の『地獄の処刑人』を貫いて消滅させる。光属性魔法はアンデッドの弱点だからな。最初に敵の数を減らすのは悪くない判断だ。


「『聖なる剣ホーリーソード』!」


 ミリアの剣はマジックアイテムじゃないから、魔法で魔力を纏わせて戦う。『|聖なる光』でゴリ押ししないのは、状況を考えてMPを節約するためだろう。


 バーンの方は2体同時に相手にしないように、盾でガードしながら回り込む。ダメージを食らうと特殊効果で動けなくなる可能性があるから、防御と回避重視で。敵の攻撃を躱してから、スキルを発動した剣をカウンターで叩き込む。


 バーンも1体目を倒して2対2になると。あとは危なげなく、バーンとミリアは相手のHPを確実に削っていく。


 光のエフェクトと共に、最後の『地獄の処刑人』が消滅して。4個の魔石だけが残った。


「この数なら6階層でも問題ないみたいだな。だけど2人とも気を抜くなよ」


「アリウス、解ってるぜ」


「うん。とりあえず、行けるところまで行くわよ」


 バーンとミリアの連携もサマになって来たし。状況判断も悪くない。今日はもう少し先まで進めそうだな。


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