閑話:アリウスとミリア

こちらも、スミマセン。時間が前後しますが、王家の別荘に向かう前の話です。

――――――――――――――――――――


「アリウスも、今帰るところ? 今日は授業をサボらなかったみたいね」


 午後の授業が終わって、校舎から出て行こうとすると。入口のところで、偶然ミリアに会った。


 いつもは授業が終わったら、速攻でダンジョンに向かう。だから校舎を出る前に知り合いに会うことなんてないけど。

 今日は教室で少しエリクと話していたから、ミリアが帰るタイミングと合ったんだな。


「俺も週に二日は、丸一日授業に出でいるからな」


「全然自慢にならないわよ。半分くらい授業をサボっているってこと?」


 ミリアが呆れた顔をする。


「まあ、そんなものかな。じゃあ、俺はダンジョンに行くから」


「アリウス、ちょっと待って。少しだけ時間ある?」


「ああ、少しくらいなら構わないけど」


 ミリアと2人で中庭に向かう。放課後だから他の生徒の姿もある。


「ねえ、アリウスはエリク殿下と一緒に別荘に行くのよね?」


「そのつもりだけど。ミリアも事情を聞いているんだよな?」


 エリクは週末に王家の別荘に旅行に行くという建前で、ヨルダン公爵を誘き出すつもりだ。

 ヨルダン公爵がエリクの誘いに乗って、『掃除屋スイーパー』を集めて襲撃して来るのは間違いないだろう。


 エリクはその辺のことを全部正直に話した上で、みんなが同行するか自分で決めて貰うと言っていた。


「ヨルダン公爵が襲撃して来るってことよね。エリク殿下から聞いたけど、今度はダンジョン実習や剣技大会のときのように、襲撃犯を捕らえるんじゃなくて。たぶん殺すことになるって話だけど……」


 周りに聞こえないように、ミリアは小声で話す。


「ああ。これまでは情報を吐かせるために、殺さずに捉えたけど。敵の数が多かったら、そこまで余裕がないし。そもそもの話、向こうだって殺しに来る訳だからな。

 ミリアは乗り掛かった舟だから、最後まで見届けたいみたいだけど。俺としては、正直同行しない方が良いと思うよ」


 俺はみんなが心配だから同行するし、みんなを守る自信はあるけど。殺し合いをする現場に行く訳だからな。無理して一緒に行くことはない。


「アリウスが心配してくれるのは嬉しいけど。アリウスが迷惑じゃなかったら、私も行かせて。この世界に転生して、みんなと出会ったから。私は自分だけ安全な場所にいたいとは思わないわ」


 今回の件は、エリクがヨルダン公爵を追い詰めた結果だけど。この世界の王族や貴族にとって、争いごとは避けられないからな。普段は安穏と暮らしている貴族もいるけど、戦争が起きれば駆り出されるし。貴族同士の争いで命を落とすこともある。


「俺は別に迷惑じゃないよ。ミリアが一人増えたところで、守る分には大差ないからな。ミリアが一緒に行くなら、俺が絶対に守るよ」


「もうアリウスは、またそんなことを言って……でも、ありがとう。アリウスが一緒にいてくれると安心するわ」


 ミリアは顔を赤くして、嬉しそうに笑う。


「だけど一緒に行く以上、私も少しは役に立たなくちゃね。勿論、人を殺したくなんてないけど。いざとなったら……」


「ミリアも、覚悟しておくべきだと思うけど。エリクと俺は、そんな状況にさせるつもりはないからな」


 エリクが相手の戦力を見誤ることはないだろう。エリクなら俺を余剰戦力と考えて、十分勝てるだけの戦力を用意する筈だ。


「そうね、信頼しているわよ。あとは戦うこと以外にも、やれることはあると思うわ」


 ミリアはソフィアとサーシャの力になりたいんだろう。


「ああ、ミリアにしかできないことがあるからな。頑張れよ」


「私にしかできないなんて、さすがに大袈裟だと思うけど。うん、頑張るわ!」


 アリアとの話が終わって、俺は最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』に向かう。ミリアが笑顔で手を振っている。


 『恋学』の主人公ヒロインミリアは、純白の髪で紫紺の瞳の美少女だから。ミリアに手を振られる俺は、相当目立ち捲っているけど。

 まあ、他の奴がどう思おうと、俺には関係ないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る