閑話:ソフィアとエリク


スミマセン。時間が前後しますが、王家の別荘に向かう前の話です。

――――――――――――――――――――


※ソフィア視点※


「以前から話しているヨルダン公爵の件が、いよいよ大詰めでね。今週末、僕はヨルダンを誘き出すために、王家の別荘に行くつもりだけど。ソフィア、君はどうしたい・・・・・んだい? 僕はソフィアの意志を尊重するよ」


 エリク殿下のサロン。いつもの爽やかな笑顔で、エリク殿下が話を切り出した。


「エリク殿下。私も婚約者として、是非同行させてください」


 エリク殿下の意図は理解しているつもりよ。ヨルダン公爵はロナウディア王国の反国王派貴族の最後の大物で。ヨルダン公爵を排除すれば、反国王派は完全に勢力を失うわ。

 王家の立場は安泰になるし。エリク殿下は功績を認められて、次の国王になるのは間違いないわ。


 エリク殿下は第1王子だから、何もしなくても次の国王になる可能性は一番高いけど。すでにその先を見据えて、盤石の体制を築こうとしている。それかエリク殿下という人よ。

 エリク殿下の凄さは、私も解っているわ。だから私もエリク殿下の婚約者に相応しい、殿下に認められるような人間にならないと。


「ソフィアなら、そう言うと思っていたよ。君は真剣に自分の役割を果たそうとしているから。これは良い意味で言うんだけど、学院に入学してから君は変わったね。真面目で優しいのは昔からだけど、以前よりも強くなったよ」


「エリク殿下、ありがとうございます」


 エリク殿下が認めてくれたことが、素直に嬉しかったわ。私の実力がまだまだ不足していることは解っているけど。


「ソフィアが思っているよりも、僕は君のことを認めているんだ。君は才能があるし、努力家だからね」


「エリク殿下、お言葉は嬉しいですが。私が実力不足なことは、自分が一番良く解っています」


「そうやって自分を客観的に見れるところも、ソフィアの良いところだと思うよ」


 女性を虜にする爽やかで優しい笑み。


「できれば僕にも、もっとフレンドリーに接して欲しいけど。そこは難しいだろうね。ソフィアは王国第1王子の婚約者としての役割を果たそうとしているから。ああ、別に嫌味を言った訳じゃないんだ。僕も同じだからね」


 だけど私はエリク殿下の笑みが、仮面だと知っている。


 エリク殿下の私に対する態度は、昔から変わらないわ。

 私とエリク殿下の関係は、あくまでも政略結婚の相手。エリク殿下が悪い人でないことは解っているし、尊敬しているけど。私とエリク殿下に感情的な繋がりはないわ。何よりもエリク殿下自身が、誰とも繋がらないことを望んでいるから。


 私が5歳になって、エリク殿下に王宮で初めて会ったときから。エリク殿下が感情の触れ合いというモノを望んでいないことが、何故か私には解ったの。


 初めは、私がエリク殿下に相応しい人間じゃないから、相手にされていないと思ったわ。だけど今なら解るわ。エリク殿下は誰に対しても、そういう・・・・関係になることを望んでいないことが。


「はい、エリク殿下。解っています」


 だから私もエリク殿下に感情的な繋がりを求めないで。婚約者としての役割を果たすために、努力を続けている。


「ソフィアは察しが良くて助かるよ。これからもよろしく頼むね。だけど――」


 エリク殿下は爽やかな笑顔のまま告げる。


「ビクトリノ公爵家の再興のために、ソフィアが僕に縛られることはないからね。さっきも言ったけど、ソフィアが思っているよりも、僕は君のことを買っているんだよ」


「エリク殿下、それはどういう意味ですか?」


「ああ、そんなに深く考えないでくれるかな。つまりソフィアはあまり僕に気を遣わないで、自由に振舞って構わないってことだよ。例えばアリウスのことだって、もっと仲良くしてくれて構わないからね」


「エリク殿下……」


 突然、アリウスの話題が出て。エリク殿下の言葉を、どう受け取って良いのか迷っていると。


「ソフィア、言葉通りの意味だよ。君が僕という人間を理解しているように、僕も君が婚約者としての役割・・を、誠実に果たそうとしていることは理解しているから。アリウスと幾ら仲良くしても、そういう意味で・・・・・・・僕は君を疑ったりしないからね。僕は君の心まで縛るつもりはないよ」


 エリク殿下が何を言いたいのか、私は理解したけど。


「エリク殿下が寛大なことは解りました。ですが私は自分の役割を果たすことで精一杯ですし。そんなこと・・・・・は望んでいません」


 彼と呼んだのは、自分からアリウスの名前を出したくなかったから。私のことに、これ以上アリウスを巻き込みたいくないのよ。それにアリウスは私のことを、只の友だちとしか思っていないわ。


「まあ、今は・・そうだろうね。だけど先のことは誰にも解らないよ」


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