第59-2(1)話:面倒な奴ら


「なあ、アリサ。俺が王都に戻ったタイミングで現れたってことは、俺たちとヨルダン公爵のことは調べがついているんだろう。おまえの目的は何だよ?」


 アリサが現れたのは偶然じゃない。どこかで俺たちのことを監視していたんだろう。


 俺の『索敵サーチ』の効果範囲は5km以上あるから、アリサ本人が監視していたら当然気づいたけど。他の人間や魔道具を使うとか、方法は幾らでもあるからな。


「目的とか、そんな大げさな話やないんや。うちがアリウスはんの役に立つこと証明しようと思ってな。情報収集はアリウスはんたちの専売特許やないで。うちにとっては空気を吸うくらいに当たり前のことや」


 アリサは面白がるように笑う。


「うちはアリウスはんが、ロナウディア王国宰相の息子ってことは知ってたからな。ちょっと調べれば、エリク王子との関係や、ヨルダン公爵と揉め事を起こしてることは直ぐに解ったわ。

 あとはエリク王子とヨルダン公爵双方の動きを監視していただけや。どんな方法を使ったかは企業秘密やけどな」


 つまりアリサは全部知った上で、高みの見物をしていたってことか。まあ、アリサには無関係なことだから、そこは問題ないけど。


「アリサは『死の商人』って奴を知っているか? そいつがヨルダン公爵に高レベル『掃除屋スイーパー』を斡旋したんだけど。それだけじゃなくて、今回の襲撃の裏で動いていたみたいなんだよ」


「勿論、うちも『死の商人』のことは知っとるで。殺し屋でも危ない魔道具でも、金次第で何でも用意する奴やろう。裏の世界じゃ有名やからな」


 アリサはしれっと言うけど。俺はアリサが『死の商人』である可能性を考えている。

 アリサが『死の商人』じゃないなら、エリクや諜報部の連中に気づかせずに監視していたことになるし。アリサなら高レベル『掃除屋』を使って、裏から操ることくらい簡単にやりそうだからな。まあ、証拠はないけど。


「なんや? アリウスはんは、うちが『死の商人』だって疑っとるのか? まあ、うちも金次第で大概のことはするけど、アリウスはんを敵に回すほど間抜けやないで。

 それに、もし仮にうちが『死の商人』だとしてもや。うちが手を出さなくても、他の誰かがヨルダン公爵に『掃除屋』を斡旋しただけの話やし。いくら高レベルの『掃除屋』でも、アリウスはんがいれば問題ないやろう?」


 アリサが本当に『死の商人』だとしたら。俺の力を試すために、高レベル『掃除屋』を集めたってことか?

 アリサは俺の力を利用したいみたいだけど。実際に俺が戦っているところを見た訳じゃないし。高レベル『掃除屋』が殺されたところで、金は先に貰っているだろうから、アリサにとってはノーリスクだ。


「まあ、勇者アベルのことは、じっくり考えて貰ってええで。アベルが何を言ったところで、のらりくらりと躱せば良いだけの話やからな。

 それよりも、次はうちが初めに言った『凄く面倒臭い話』やけど。アリウスはんも、SSS級冒険者のカールハインツ・シュタインヘルトのことは知っとるやろう?」


「ああ。シュタインヘルトのことなら、良く知っているよ。あいつが俺を探していることも含めてね」


 シュタインヘルトを一言で言えば、武人だ。俺とは違うベクトルで強さを追い求めている。

 俺のようにギリギリの戦いを続けて、自分強くなっていくことが楽しくて堪らない戦闘狂じゃなくて。シュタインヘルトは純粋に剣を極めることで、自分の強さを証明しようしている。性格的には問題がある奴だけど。


 なんで俺がシュタインヘルトについて詳しいかと言うと。グレイとセレナと一緒に世界中を巡っていたときに、シュタインヘルトが何度もグレイに挑んで来たからだ。

 毎回グレイに敗北していたけど。別にシュタインヘルトが弱いんじゃなくて、グレイが強過ぎるんだよ。


 だけどシュタインヘルトにとって、俺は格下・・だから。これまでは俺のことなんて、眼中になかった。

 俺はグレイとセレナと一緒に、5番目の最難関トップクラスダンジョンまで攻略したけど。そんなことは他の冒険者は誰も知らないからな。


 1番目の最難関ダンジョン『太古の神々の砦』を攻略したときは、SSS級冒険者に挑戦する資格を得るために、冒険者ギルドに報告したけど。

 俺もグレイとセレナも、自慢するような性格じゃないから。その後は最難関ダンジョンを攻略しても、一切報告していない。


 だから他のSSS級冒険者から見れば、ほとんど不戦勝のような形でSSS級冒険者になった俺は、今でもグレイとセレナのオマケみたいなモノで。格下扱いされることには慣れているし。他の奴がどう思おうと、俺には関係ないからな。


 だけど状況が変わったのは、俺が学院に入学してから1ヶ月くらいたった頃だ。グレイとセレナから『伝言メッセージ』が来て。


『アリウス。おまえにとって、学院の生活は退屈だよな? だから、おまえに最適なプレゼントを贈っておいたぜ。まあ、そっちにがいつ行くか解らねえけどな』


『グレイが『伝言』を送ったみたいだけど。アリウスが付き合う必要はないからね。後のことは私に任せなさい』


 初めは2人の意図が解らなかったけど。それからしばらく経って、シュタインヘルトが俺を探しているという情報が流れて来た。

 さらに情報収集をしたところ。グレイとセレナから『伝言』が来たタイミングで、シュタインヘルトがグレイに再び挑んで敗北したことが解った。


 まあ、シュタインヘルトがグレイに敗けるのは、いつものことだけど。グレイは何を思ったのか。ボコボコにしたシュタインヘルトに、こんなことを言ったそうだ。


『シュタインヘルト、てめえも懲りねえ奴だな。だけど毎回相手にするのは面倒だから、もっと実力を磨いてから来いよ。うちのアリウスみたいにな……いや、今のアリウスなら、俺よりも強えかもな』


 グレイがそんなことを言う筈が……いや、グレイの性格なら、十分あり得るか。おかけで、俺はシュタインヘルトに狙われることになった訳だ。


 だけどシュタインヘルトも、SSS級冒険者だからな。勇者パーティーのクリスみたいな暴力馬鹿じゃないし。

 シュタインヘルトが『転移魔法テレポート』と『飛行魔法フライ』が嫌いなのは有名な話だから。いつ俺のところに来るか解らないからと、気楽に構えていたけど。


「それで、アリサがシュタインヘルトの話をした目的はなんだよ?」


「勿論、うちが役に立つことを、アリウスはんにアピールするためや。だけど本題はここからやで。シュタインヘルトが、今どうしとるか。アリウスはんに教えとこうと思ってな」


 アリサは思わせぶりに笑うと、想定外のことを告げる。


「SSS級冒険者カールハインツ・シュタインヘルトは、魔王に寝返ったって話や」


 

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