第57-2話:それぞれの想い
書籍版2巻の制作が決定しました! これも皆さんが応援してくれたおかげです。ありがとうございます!
今回、後半にアリウスとソフィアの子供の頃のエピソードが書いてありますが、これまでweb版ではソフィアとの出会いは具体的に書いていません。唐突感があるかも知れませんが、ご容赦ください。
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後始末は諜報部の連中がやると言っていたけど。死体の数が多いから、俺も手伝うと言ったら。
「アリウス卿のおかげで、被害が出ませんでしたので。後始末くらいは、我々にさせてください」
諜報部の指揮官レオン・グラハムに断られた。
「レオンさん、だったら任せるけど。俺のことは昔みたいに呼び捨てにしてくれよ。レオンさんにアリウス卿なんて呼ばれると、変な感じだからさ」
父親のダリウスの腹心の部下であるレオンのことは、子供の頃から知っている。レオンが諜報部に入ったばかりの頃。レオンが諜報活動中に、レオンの動きから諜報部の人間だって気づいて。父親のダリウスに言ったら、子供に見抜かれるなど甘いと、レオンが怒られたなんてこともあったな。
「いいえ、部下に示しがつきませんので。そういう訳にはいきませんよ。それにしてもアリウス卿は本当に強くなりましたね。私と部下全員で掛かっても、敵いそうにありませんよ」
客観的に言って、レオンが言ったことは事実だ。今回参加した諜報部の連中を全員『
だけど諜報部に求められるのは、強さだけじゃないからな。
「情報収集能力に関しては、諜報部には全然敵わないけどね。それにレオンさんたちなら、俺がいなくても『
「我々も必要な戦力は整えましたからね。ですが無傷という訳には、いかなかったでしょう。アリウス卿が来てくれて、助かりましたよ」
とりあえず、森の中で俺が仕留めた『掃除屋』の死体だけは、自分で片づけることにする。
夜が明ける頃には、後始末は粗方片づいた。魔法を使えば、そこまで時間は掛からないからな。
作業を終えたレオンたちには、交代で仮眠を取って貰うことにした。
俺の方はと言うと、旅行が終わるまで眠るつもりはない。ヨルダン公爵との決着はついたけど、まだ『死の商人』という存在がいるからだ。
ヨルダン公爵と『死の商人』は金で繋がっているだけだと思うけど。『死の商人』の正体も、何を考えているのかも解らないからな。油断しているところを襲撃されたら、目も当てられないだろう。
王家の別荘に戻ると、みんなはもう起きていた。
エリクとバーンはいつも通りだけど。他のみんなは、それぞれ思うところがあるだろうし。昨日はよく眠れなかったんじゃないか。
ジークは青ざめた顔のサーシャに寄り添う感じで、話し掛けている。今は2人だけ『
ソフィアは今も毅然としていて、ミリアと喋りながら笑みを浮かべているけど。無理して気を張っているのが解る。
そしてミリアの方は――ミリアも無理して笑っているな。
「なあ。2人とも、ちょっと良いか」
俺はお喋りしている2人の前に座る。
「俺も子供の頃、ソフィアに言われたけど。無理して笑う必要はないからな」
俺が初めて社交界に顔を出したのは5歳のときだ。ロナウディア王国の貴族の子供の多くが、5歳で社交界にデビューするんだけど。
当時の俺は、グレイとセレナに家庭教師をして貰っていて。魔物との戦いにも慣れて、戦いの中で生きて行く覚悟を決めるために。盗賊団と戦って、初めて人を殺した後だった。
しばらく時間が掛かったけど。俺は人を殺してしまったことに対する感情を、どうにか自分の中で整理したつもりだった。だから両親に誘われた王宮のパーティーにも、出席する気になったんだけど。
パーティー会場で初めて会ったソフィアに、無理して笑わなくて良いと言われたんだよ。
「エリクの婚約者としての務めを果たすって、ソフィアが覚悟していることは、俺も理解しているつもりだけど。こういうことは現実を受け止めて、自分の中でゆっくり解決するものだからさ。今、無理して笑うことないと思うよ」
「アリウス……ありがとう……」
ソフィアが微笑む。今度は無理していない、儚げな感じの笑みで。
「ミリアもそうだからな。友だちとして、ソフィアを支えたい気持ちは解るけど。お互いに無理して笑う必要はないんだよ。素直な自分の気持ちを出したって、ソフィアは受け入れてくれるだろう」
ミリアは転生者だからな。死というモノに対する耐性は、この世界の王族や貴族である他のみんなよりも低いだろう。
「アリウス……」
「そうよ、ミリア。貴方にまで無理をさせてごめんね」
「ソフィア……そんなことないわよ。でも……ソフィアも無理しないで……」
ミリアが泣き出すと、ソフィアの瞳からも涙が溢れる。互いに抱き合う2人。もうこれで、俺の役目は終わりだな。
俺は自分の部屋に戻って、熱いシャワーを浴びると。ベッドに寝転がる。
今も俺は『
部屋に戻る途中で、中庭にいるバーンを見掛けたけど。バーンは今日も2人の護衛と一緒に鍛錬していた。
マルスは相変わらず、自分の部屋で1人でいたけど。あいつにも思うところはあるんだろう。
しばらく寝転んでいると、ドアがノックされる。ドアを開けるとミリアがいた。
「ねえ、アリウス。私の方からも話したいことがあるんだけど」
ミリアを入れて、テーブルで向き合って座る。王家の別荘だから、個室にもテーブルセットがあるんだよ。
俺は『
俺は冒険者だから食料や飲み物を『収納庫』に常時入れているけど。みんなと付き合うようになって、スイーツも欠かさないようになった。
「こういうときは甘いモノが食べたいだろう」
「アリウス、ありがとう。ホント、アリウスの魔法って便利よね」
ミリアはケーキを口に運んで、美味しそうに微笑むと。
「ねえ、さっきアリウスは、面倒な奴らを片付けたって言っていたけど。それって……人を殺したってことよね?」
「ああ。ダンジョン実習や、剣技大会で襲撃されたときに、俺が襲撃者を殺さなかったのは、情報を聞き出すためだ。戦う以上は理由がなければ、俺は人を殺すことを躊躇ったりしないよ」
「それって……アリウスは怖くないの?」
「最初の頃は色々悩んだよ。だけど俺は沢山人を殺してきたらな。こういう言い方をするのは何だけど、俺は人を殺すことに慣れているんだよ」
俺は子供の頃から冒険者をしているけど、ずっとダンジョンの攻略だけをしていた訳じゃない。冒険者ギルドの依頼や他の理由で、人も沢山殺している。勿論、全部自分が納得した上で。
「だけどミリアが嫌なら、
だからってミリアに慣れて欲しいとは思わない。自分の感覚が普通じゃないって自覚はあるからな。
「それは今さらよ。私はソフィアとサーシャの友だちだから。2人が生きている現実から目を背けるつもりはないわ。それに私はアリウスとだって……」
ミリアは強くなりたいって言ったからな。みんなと一緒にいるために強くなりたいんだろう。
「ミリア、だったら俺のことも頼ってくれよ。偉そうなこと言うつもりはないけど、俺はこの世界で色々経験しているからな」
「そうね。アリウスなら規格外の経験を沢山していそうよね」
ミリアが悪戯っぽく笑う。
「まあ、ミリアに呆れられても仕方ないと思うくらいにはな」
「呆れるなんて、私は……ううん、何でもないわ。ねえ、アリウス。頼って良いって言ったんだから……」
ミリアが突然俺の手を握る。赤い顔で恥ずかしそうに視線を反らしながら。
「……責任は取って貰うからね」
まあ、こういうときは人の温もりが欲しいモノだからな。
恥ずかしがらなくても、子供っぽいだなんて言うつもりはないよ。
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