第49-2話:自分のこと
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市場の散策が終わって、みんなでメシを食べに行く。
選んだのは、王族や貴族が行くような上品な店じゃなくて。軒先にテーブルが並んでいるオープンカフェって感じだ。
「みんなと遊びに行くときしか、こういうお店には入れないのよね」
嬉しそうに微笑むソフィアに、サーシャが頷く。
注文した料理はピザとパスタ。大皿に載せられた料理を取り分けて食べる。
コース料理じゃなくて、みんなで分け合って食べることが楽しいのか。ソフィアははしゃいでいる感じだ。こういうソフィアは、めずらしいな。
「何よ、アリウス。女の子が食べている顔をじっと見るなんて、デリカシーが無いわね」
ミリアが悪戯っぽく笑う。だけどそんな指摘をするから、ソフィアが意識して。顔が赤くなって、恥ずかしそうにしている。
「この店の料理は旨いな。幾らでも食べられるよ」
ソフィアのことを誤魔化すように、俺は追加のピザとパスタを4人前ずつ注文する。
「アリウス、そんなに食べられないだろう?」
ジークが文句を言うけど。
「いや、問題ないよ。今注文した分は、全部俺が食べるからさ」
みんなが驚いているけど。これくらいの量なら、全然余裕だからな。俺は追加注文した料理を全部平らげる。
ちなみにシリウスとアリシアも、ピザとパスタを旨そうに食べていたけど。ソースで口を汚すこともなく、マナーも完璧で。本当に良くできた弟と妹だよな。
そう言えば、ジークはトマトが苦手って話だけど。トマトソースのピザとパスタを、普通に食べているな。
シリウスとアリシアが、感心した顔で見ている。
「シリウスとアリシアは、感心しているみたいだけど。ジーク殿下は、頑張って食べてる訳じゃないわ。殿下が嫌いなのは、生のトマトで。トマトソースは問題ないのよ」
「ミリア、何でおまえがそこまで知っているんだ……まあ、事実だが」
ジークが恥ずかしそうにしている。だけどミリアも、わざわざ指摘しなくても良いんじゃないか?
食事の後は、予定通りに劇場に行く。シリウスとアリシアは、いきなり参加することになったから。2人の分の席はないかと思ったけど。
「心配無用だ。こういうときに、王族だと便利なんだぜ」
俺たちが案内されたのは、2階にある王族用の貴賓席で。広々した空間に、革張りの椅子が幾つも並んでいる。
護衛たちを含めて全員が座れるだけの席がある。まあ、護衛たちは仕事中だから、座らなかったけど。
劇の演目は『魔王と勇者の恋』。俺にとってはタイムリーな話題だな。
身分を隠して勇者パーティーに入った魔王と、勇者が恋に落ちる話で。所謂、ラブロマンスって奴だな。
途中で、魔王の正体に気づいた勇者が葛藤して。最後は世界よりも魔王を選ぶ。勇者と魔王が、それぞれの立場を捨てて、結ばれるって話だけど。その後の世界については一切語らない――いや、それで良いのかよ?
「世界よりも、愛する人を選ぶなんて……私たちには絶対にできないことだけど、素敵なお話ね」
ソフィアは、うっとりした顔をしている。ソフィアは貴族の義務と責任を、放棄する訳にはいかないからな。物語の世界だからこそ、憧れるってところか。
「ソフィアには悪いけど、私は勇者と魔王に共感できないわ。立場を捨てないで、みんなを納得させることもできた筈よ。
難しいのは解るわ。だけど努力もしないで、無理だって決めつけて。2人だけの世界に逃げるなんて……納得できないわよ!」
ミリアは真逆の感想だな……逃げずに努力しろか。ミリアも頑張っているからな。
「「ねえ、アリウスはどう思うの?」」
ソフィアとミリアが俺を見つめる。
「俺としては内容的にシリウスとアリシアが飽きないか、ちょっと心配だったけど。2人とも楽しめたみたいだな」
「うん。アリウス兄様、凄く面白かったわ」
「そうだよ。僕たちはもう子供じゃないんだから」
シリウスは恋愛パートよりも、活劇シーンに夢中だったけど。俺はそんな指摘はしなからな。
「そういうことじゃなくて。私とソフィアは、アリウスの感想を訊いているのよ」
ミリアとソフィアが、マジマジと俺を見る。
「俺なら面倒な立場を捨てるよりも、先に相手を叩き返すよ。そんなことを言うなら、自分でやれってね。それでも俺に責任があるなら果たすけど、責任のために動くのは好きじゃないからな」
自分の責任だからやるんじゃなくて、やりたいからやるんだよ。
まあ、今の自分に責任がないから言えることは解っている。ジルベルト家に家臣がいないから、もし誰も家を継がなくても困る奴はいない。形だけ治めている領地を、ロナウディア王国に返還するだけの話だ。
侍女とか、シリウスとアリシアの家庭教師とか。ジルベルト家が雇っている人はいるけど、次の就職先を紹介することくらいできるし。冒険者として稼いでいる俺なら、次の就職先が決まるまで、面倒を見ることもできるからな。
だけどソフィアたちは違う。家臣とか、派閥とか。責任を放棄すれば、多くの人に迷惑が掛かる。だからソフィアたちが責任を果たすために、努力していることも理解してるつもりだ。
「アリウスらしい答えだとは思うけど……私は
ミリアはまだ納得してないみたいだ。ソフィアも困ったような顔をしてる。
まあ、2人が言いたいことは解るけど――
俺には恋愛的な話って、良く解らないんだよ。前世でも本気で人を好きになったことがないからな。
前世では研究。今は戦うことと、強くなること。自分が夢中になれること考えているだけじゃ、ダメなのか?
みんなと一緒に劇場を出る。
「今日は、みんなありがとう。俺自身も楽しめたし、シリウスとアリシアも楽しかったみたいだな」
「うん。物凄く楽しかったわ!」
「みなさん、本当にありがとう!」
シリウスとアリシアに礼を言われて、ソフィアとミリアが微笑む。
「それは良かったわ。アリウスを誘った甲斐があるわね」
俺はアリシアとシリウスを実家まで送るからと、みんなとその場で別れるつもりだったけど。
「ねえ、アリウス。私もアリシアとシリウスを送って行っても良い? もう少し2人とお喋りしたいのよ」
「私もミリアさんとお喋りしたいわ」
「僕もだよ。ねえ、アリウス兄様!」
アリシアとシリウスは、すっかりミリアと仲良くなったみたいだな。4人で喋りながら夜の街を歩く。こんな風に喋りながら歩くのも悪くないよな。
「アリウス兄様、また一緒に遊びに行っても良い?」
シリウスとアリシアがじっと俺を見る。
「ああ、勿論だよ。だけどそろそろ『兄様』は止めて貰えないか。俺は『様』なんて呼ばれる柄じゃないからな。『兄さん』でも『兄貴』でも構わないからさ」
「じゃあ……アリウス兄さん」
「私は……アリウスお兄ちゃん。こう呼ばせて!」
「ああ、それで構わないよ。そうだ、2人に渡すモノがあるんだ」
俺は『
2つとも同じもので、鞘も柄もシンプルな造りで飾りっ気のない短剣だ。
「この短剣は扱いが難しいんだよ。雑に魔力を流しても、只の短剣だけど。上手く魔力を操作できれば――」
短剣に魔力を通すと青い光の刃が出現する。刃の長さが自由に調節できるから、携帯用の武器として便利なんだよ。
「おまえたちが冒険者になるか解らないけど、身を守るにも強くなった方が良いだろう。この光の刃を自由に出せるようになれば、魔力操作は一応合格だな」
「アリウス兄さん……こんな凄い短剣、貰って良いの?」
シリウスにはこの短剣の価値が解るみたいだな。一応
「まあ、今日のご褒美って言うか。光の刃が出せるように、鍛錬しろってことだよ」
「アリウスお兄ちゃん、ありがとう。私もお兄ちゃんみたいに強くなりたいから頑張るわ!」
お兄ちゃんって呼ばれるのは、正直に言うとちょっとむず痒いし。ミリアが
シリウスとアリシアを連れて実家に行くと、侍女長のマイアと一緒に、父親のダリウスと母親のレイアが待っていた。
2人にも今日のことは『
ミリアが一緒だと、母親のレイアがニマニマするから。ミリアを送って行くと言って、直ぐに実家を後にする。
「アリウス、ご両親と話をしなくて良いの? ほとんど実家に戻ってないって言っていたじゃない。たまには話くらいしたら?」
「良いんだよ。門限までそんなに時間がないし。こんな時間に、ミリアを1人で帰らせる訳にもいかないからな」
俺1人なら
「そう……なんか私が邪魔しちゃったみたいで悪いわね。でも……ありがとう」
ミリアがちょっと恥ずかしそうに言う。
「いや、礼を言われるようなことじゃないだろう。俺の方こそ、シリウスとアリシアの相手をしてくれて、ミリアには感謝してるよ。2人とも喜んでいたからな」
「それこそお礼を言われることじゃないわよ。私も2人と友だちになれて嬉しいわ。ねえ、アリウス。また2人が遊びに来たら、私も誘ってよね」
「ああ。その方がシリウスとアリシアも喜ぶからな」
そう言うと、何故かミリアに睨まれた。
「そう言ってくれるのは、嬉しいけど。アリウスには、さっきも自覚が足りないって言ったけど。2人が一番会いたいのは、アリウスだからね」
「まあ、一応、俺も2人の兄だからな。やっぱり俺の感覚はズレているのか?」
「そうよ。もっと自覚が足りないところが色々あるんだから」
「例えば、どんなところだよ?」
俺の質問に、ミリアが真っ赤になる。
「だから……そいういうことは、自分で考えなさいよ!」
まあ、そうだよな。自分のことなんだから。自分で考えて答えを出すしかないだろう。
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ここまで読んでくれて、ありとうございます。
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