第48-2話:無自覚
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市場まで徒歩で移動する。王族や貴族は普段から馬車を使うけど。ソフィア曰く、友だちと遊びに行くときは、お喋りしながら歩くのが基本らしい。
今日のみんなはカジュアルな服を着ている。制服以外のみんなを見るのは、社交界で会うときくらいで。ミリアに関しては、2人でカフェに行ったときも制服だったから。私服姿を見るのは、今日が初めてだ。
「ソフィアがカジュアルな服を着ているのは、新鮮な感じで良いな。ミリアの服も良く似合っているよ」
女子と出掛けるときは、必ず服を褒めろって言うけど。別にそんな意図はなくて、普通に感想を言ったんだけど。
「アリウス、ありがとう……」
「何よ、いきなり……でも、そう言って貰えると、悪い気はしないわね」
ソフィアとミリアが頬を赤く染める。まあ、気を悪くした訳じゃないみたいだから、問題ないか。
「アリウス、サーシャのことは褒めないのか?」
ジークが不満そうに言うけど。だから俺は意図して褒めている訳じゃないからな。
「ジーク、それはおまえの役目だろう」
ジークは普段悪ぶっているから、自分から人を褒めることはないけど。こうして背中を押してやると、根は素直な奴だからな。
「そ、そうか……サーシャ、今日の服……か、可愛いな……」
「ジ、ジーク殿下……あ、ありがとうございます……」
ジークとサーシャが真っ赤になる。2人だけ『
ゲームでは描写されなかったけど。王族や貴族出掛けるときは、護衛が同行する。特に昨日の剣技大会で襲撃があった後だからか、今日の警備は厳重だ。
ジークの護衛が4人で、ソフィアとサーシャの護衛が2人ずつ。目立たない格好で、少し距離を空けて付いて来ているけど。動きを見れば、誰の警護をしているのか解るんだよ。
まあ、常時発動している俺の『
ミリアは昨日の剣技大会で、キース・ヨルダン相手に善戦したし。ジークも2年生相手に1回戦は勝っている。
ソフィアだって魔法実技の授業ではAクラスで、サーシャもBクラスだし。ダンジョン実習では、普通に戦っていた。
シリウスとアリシアも、元A級冒険者の家庭教師に習っているから。9歳ですでに8レベルだからな。
この世界の一般人は大半が0レベル。それなりに喧嘩慣れしてる奴や、とりあえず剣や魔法が使えるって奴が1レベルってところだ。
みんなで喋っているうちに市場に到着する。
午後の市場は、生鮮食品が粗方片づいていて。穀物や酒を扱う店以外は、素材や雑貨、あとは衣類を扱う店がメインって感じだ。
決して王族や貴族が行くような店じゃないけど。ジークやソフィア、サーシャも普通に市場を見て回るのが楽しいみたいだな。
「このお店の古着は……あまり質が良くないわね。縫製の仕方が悪いから、解れちゃってるわ」
「さっきの店の大豆は良い豆だし、値段も安かったよ。後でマイアさんに教えてあげようかな」
うちの妹と弟は市場に慣れている。ジルベルト家は貴族の格とか関係なしに、一般常識を教えているからな。
王国宰相と言っても、父親のダリウスは最下級の貴族の騎士爵出身で、母親のレイアは平民出身だし。2人とも元冒険者ということもあって、実力主義なんだよ。
「ジーク殿下。このブローチ、可愛いですわ」
「そうだな……主、これを貰う」
ジークがブローチを買って、サーシャに渡す。
「ジーク殿下、良いんですの?」
「ああ、こんな安物で悪いが」
「そんなことありませんわ。嬉しいです!」
ジークとサーシャが、また『恋学』している。放課後の買物デートは、乙女ゲーの定番イベントだからな。
ジークは『恋学』の
まあ、ジークもミリアもゲームのキャラじゃなくて、この世界で普通に生きている訳だし。ミリアはジークとサーシャの仲を、邪魔するつもりはないんだろう。
「護衛の人ですよね。お仕事、ご苦労様です」
「もし良かったら、飲み物は如何ですか?」
アリシアとシリウスが屋台で飲み物を買って、みんなの護衛に配っている。2人も護衛の存在に気づいていたんだな。
「アリシア、シリウス、ありがとう。貴方たちも飲み物を飲むくらいは構わないわよ」
2人の突然の行動に、護衛たちは戸惑っていたけど。ソフィアが間に入って促すと、礼を言って飲み物を受け取る。
ホント、うちの弟と妹は良くできているし。ソフィアも周りを良く見ているよな。
「アリシアとシリウスは、気遣いができて偉いわね」
ソフィアと一緒に戻って来た2人の頭を、ミリアが撫でる。
「なあ、アリシア、シリウス。おまえたちも何か欲しいものがあったら言えよ」
気遣いをした2人にご褒美として、何か買ってやろうと思ったんだけど。
「アリウス兄様、ありがとう。でも無駄遣いしたらダメだから、要らないわ」
「うん。お金は大切だからね。必要な物以外は買っちゃダメだよ」
うちの妹と弟はしっかりしていた。
「なんだか、アリウスの方が弟みたいね」
ミリアが悪戯っぽく笑う。
「ああ。俺よりしっかりしているよ。シリウスとアリシアは、自慢の弟と妹だな」
「何よ、少しは否定しなさいよ。
「いや、本当にそう思うからな。この前実家に行ったときに、家庭教師に習っているところを見たけど。アリシアとシリウスは物凄く真剣に練習していたし。2人の様子を見れば、日々の勉強や鍛錬を怠っていないことは解るよ。ホント、おまえたちは真面目で努力家だよな」
「アリウス兄様、そんなことないわ!」
「そうだよ。アリウス兄様の方がずっと凄いよ!」
アリシアとシリウスは顔を真っ赤にして否定する。人前で褒められたことが、恥ずかしいのか。2人には、ちょっと悪いことをしたかな。
「アリウスって……」
ミリアがジト目で見る。
「何だよ、ミリア? 言いたいことがあるなら言えよ」
「じゃあ、言わせて貰うけど。アリウスは人のことを良く見ているのに、自分のことになると自覚が足りないのよ。
シリウスとアリシアは恥ずかしいんじゃなくて、照れているのよ。アリウスにあんな風に褒められたら、嬉しいに決まっているじゃない!」
「そうか? 俺は普通に自分が思ったことを言っただけだよ」
ミリアに言われて、2人の顔をマジマジと見る。確かに恥ずかしいというよりも、照れている感じだな。
「アリウスは自分の言葉が、どれだけ相手に影響を与えるか解っていないみたいね」
ソフィアが困ったような顔をする。
「アリシアとシリウスのことを、アリウスは真面目で努力家だって言うけど。誰よりも真面目に努力をしているのは、アリウスじゃない。アリシアとシリウスも、それが解っているから。貴方に努力していることを褒められて嬉しいのよ。
それにアリウスは嘘をつかないし、適当なことは言わないでしょう? いつも相手のことを真剣に考えて言葉にするから、貴方の言葉には重みがあるわ」
いや、そんな大層な話じゃないだろう。俺は戦うことと、強くなることしか考えていないからな。自分が強くなるために努力するのは当然だろう。
みんなのことだって、良い奴だから何かしたいと思うだけで。何か言うときも、真剣に考えてから言葉にするのは、当たり前だろう。
「ソフィア、アリウスはまだ解っていないみたいね。どうせ自分がそうするのが当然とか、当たり前とか思っているんでしょう?」
ミリアが呆れた顔をする。それにしても、俺の考えていることが良く解ったな。俺って、そんなに解りやすいのか?
「俺にはソフィアやミリアが言ったことが、感覚的に良く解らないからな。だけどおまえたちがそう言うなら、理解できるように真剣に考えてみるよ」
「真剣に考えるって……アリウスらしいわね」
ソフィアが優しく微笑む。
「アリシアとシリウスも、アリウスがお兄さんだと苦労するわね……ああ、私は別にアリウスを悪く言うつもりはないわよ」
「うん。ミリアさん、解っているわ」
「そうだよ。ミリアさんがアリウス兄様の悪口を言うなんて、僕は思っていないから」
ホント、アリシアとシリウスは良くできた妹と弟だけど。俺のせいで苦労することは、否定しないのか。
そんな俺たちを尻目にジークとサーシャは、ずっと2人で『恋学』の世界を楽しんでいた。
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