第46-2(12)話:死の商人

書籍版『恋愛魔法学院』PVをYouTubeで公開中です!

https://youtu.be/DVMU1NtSn30?si=AvBzF5TkPSfMGA0l

世界観バッチリに、カッコ良く仕上げて貰いました。アリウスが喋るところを、是非見てください!

その他、書籍版の情報についてはX(旧Twitter)に色々と公開しています。https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA

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 エリクのサロンを後にして、俺が向かった先は――最難関トップクラスダンジョン『太古の神々の砦』だ。


 みんなのことや、ヨルダン公爵の話は別にして。俺は命を削るようなギリギリの戦いが楽しくて堪らないし。もっと強くなりたいからな。今日も時間がある限り、ダンジョンを攻略する。


 そもそも、この世界にダンジョンは何故存在するのか? RPGの世界だから存在するとか、俺が知りたいのは、そういうことじゃなくて。何のために存在するかってことだ。

 ダンジョンの魔物を倒すと出現する魔石は、魔道具に使う貴重なエネルギーだし。稀にドロップするマジックアイテムは、冒険者にとっては欠かせない。


 だけど特に最難関ダンジョンなんて、最初の『太古の神々の砦』すら、パーティーで攻略するだけで、世界に10人しかいないSSS級冒険者に挑戦する資格になる攻略難易度で。挑戦した多くの冒険者が命を落としている。


 2番目以降の最難関ダンジョンを攻略した奴なんて、歴史的にも数えられる程度の人数だ。そんな高難易度のダンジョンが存在する理由は、強い奴を生みたせすためか。だったら強くなった奴に、この世界は何をさせたいんだ?


 この世界には勇者と魔王が実在するけど。勇者が鍛錬のために最難関ダンジョンを攻略したとか。最難関ダンジョンと、勇者や魔王が絡んだ話は全く聞いたことはない。

 まるで最難関ダンジョンと、勇者と魔王が別の意志によって存在しているかのように。


 まあ、勇者パーティーの連中が絡んできたし。勇者パーティーのアリサは俺を利用したいみたいだから。これからも絡むことがあるだろうけど。俺は魔王だから悪と決めつけて、思考停止するつもりはないからな。


 そんなことよりも――俺はもっと強くなりたいんだよ。


 いや、自分から何故最難関ダンジョンが存在するのかと言ったけど。確かに疑問に思うけど、俺が強くなるために最難関ダンジョンの存在は必要だからな。


 誰かに勝つとか、誰かよりも強くなりたいとかじゃなくて。この世界にはまだ攻略していない最難関ダンジョンがあるし。俺よりも強い魔物が確実に存在する。


 倒してもリポップするダンジョンの魔物なら、俺が強くなるために何の気兼ねもなく倒せるし。魔物の方も俺を倒すためだけに攻撃して来る。

 純粋に強くなりたい俺やグレイやセレナのような戦闘狂にとって、最難関ダンジョンは最高の場所だからな。


※ ※ ※ ※


※三人称視点※


 ロナウディア王国南西部にあるヨルダン公爵領。


 飛空艇で居城に戻ったビクトル・ヨルダン公爵は、急遽呼び寄せた来客を前に、顔をしかめる。


「あれが500レベル超えの『掃除人スイーパー』だと? 学生のアリウス・ジルベルトごときに、手も足も出なかったではないか。金貨3,000枚も払わせておいて、どういうことだ?」


 白い髪に、闇色のローブに包まれた小柄な体。顔の上半分を仮面で覆った怪しげな雰囲気の女は、口元に嘲るような笑みを浮かべる。

 彼女は『死の商人』アルタナ。勿論、アルタナという名前は偽名で。金次第で暗殺用や精神支配系の魔導具を売り、犯罪者である『掃除人』を斡旋する。


「うちは商売で紹介だけやし。紹介する前に『鑑定アプレイズ』したから、ザック・トリガーの実力は本物やで。金貨3,000枚は適正価格や。

 確かアリウス・ジルベルトってのは、元SS級冒険者のダリウスとレイアの子供やったな。元SS級冒険者2人が鍛えられて、単純にアリウス・ジルベルトもSS級冒険者クラスの実力があるってことやないか?」


 ヨルダン公爵がアルタナと取引をしたのは、ザック・トリガーの件が初めてで。

 学院のダンジョンの襲撃事件のときに、とある非合法組織に依頼して集めた『掃除人』たちがアッサリ破れたため。もっと強い戦力を集めようと、伝手を頼ってアルタナに接触した。


 だから『死の商人』アルタナの噂は聞いているが。実力については、半信半疑というところだ。


「たかが15、6歳の学生に、そんな実力がある筈がなかろう!」


「年齢は関係ないで。史上最年少SSS冒険者も、同じアリウスって名前やけど。わずか12歳でSSS級冒険者になったって話や」


 ヨルダン公爵の怒りを、アルタナは冷ややかな笑みで受け流す。


「アリウス・ジルベルトが、SSS冒険者のアリウス本人やったら、敵に回すなんて馬鹿な話やけど。SSS級冒険者のアリウスは今も、大陸の東にあるキルキス公国でダンジョンを攻略中って話やから。学院に通っているアリウス・ジルべルトと同一人物なんてことは、あり得へんけど」


 アルタナはテーブルの上に置かれた高級酒を、勝手に自分のグラスに注いで飲み干す。


「何を当然のことを言っているのだ。アリウス・ジルベルトがSSS級冒険者の筈がなかろう。もしそれが事実なら、元は下級貴族の癖に宰相に成り上がったダリウスが、政治的に利用しているだろう。それにあの小生意気なエリクの小僧が、SSS級冒険者だと見抜けぬ筈がない。そんな戯言を聞くために、私はおまえを呼んだ訳じゃないぞ!」


 ヨルダン公爵は、アリウス・ジルベルトがSSS級冒険者アリウスだという想定を、一切していない。もう少しでも疑っていれば、彼の運命は変わったかも知れないが。


「ああ、その通りやな。さすがはロナウディア王国一の実力者、三大公爵家筆頭のヨルダン公爵閣下のご慧眼には敵わんな」


 アルタナが浮かべる笑みが嘲笑に塗れていることを、仮面のせいでヨルダン公爵は気づかない。


「これ以上、下ならい話を続けるのは時間の無駄だ。貴様は『死の証人』なのだろう? 金は幾らでも用意するから、実力のある『掃除人』を集めろ。500レベルでエリクが殺せないなら、もっと強い『掃除人』を沢山擁して貰おうか」


「幾らでも用意するというてもな。ザック以上の実力者になると、仰山金が必要やで。それに強い『掃除人』は性格破綻者が多いからな。上手く従わせるために追加料金を貰わんと、真面に働くか保証できへんで」


「何だと、貴様……いったい幾ら必要だと言うのだ?」


「そうやな。この人数とレベルで……こんなもんでどうや?」


 アルタナは紙にレベルと人数、総額を書く。


「貴様……私を舐めているのか? こんな金額を誰が……」


「ヨルダン閣下が、金は幾らでも用意するって言ったんやで。金が足りないなら、このレベルの『掃除人』を用意するのは無理や。予算に合わせて見繕うけど、それなりの強さになるで。そんなんでアリウス・ジルベルトに勝てるんか?」


 勿論、アルタナはヨルダン公爵の足元を見て、ボッタくる気満々だ。


(人を見る目のない奴が、落ちぶれるのは時間の問題やからな。せいぜい今のうちに稼がせて貰うわ。それにしてもアリウスはん・・・・・・を敵に回すなんて……ホンマ、アホな奴やな)


 ヨルダン公爵はしばらく悩んだ後、渋い顔で頷く。


「解った……その金額を用意しよう。だが実力は本物なんだろうな?」


「うちは詐欺やないからな。商売人の誇りとして、その点は保証するで。せやけど、うちは斡旋するだけやからな。ホンマは、全額前払いと言いたいところやけど。せめて半分は前金で貰わんと『掃除人』たちを連れて来ることはできへんで」


 本当のところは、半金でも『掃除人』たちに払う報酬全額を差し引いて釣りが残る。しかも『掃除人』たちには、前金は報酬の4分の1と伝えてあるから。任務に失敗しても4分の3以上がアルタナの懐に残る計算だ。


「……仕方ない。3日後までに金を用意する」


「ヨルダン閣下、おおきに。そんじゃ、取引成立やな」


 どうせヨルダン公爵が負けることは解っているが。アルタナがザック・トリガーをヨルダン公爵に斡旋したのも、アリウスの実力を実際に・・・見たかったからで。

 商売のネタになる昔馴染み・・・・の『掃除人』たちを、これ以上消耗するのは惜しいが。


(所詮は犯罪者やからな。うちも勇者パーティー新しい商売に入ったを始めたことやし、そろそろ足を洗うタイミングやと思うとったからな。うちと『掃除人』の関係を知る奴もいなくなる訳やから、一石二鳥やないか)


 ヨルダン公爵の居城を後にしたアルタナは、闇の中でしたたかな笑みを浮かべた。


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