第46-2(9)話:決勝戦


 学院の教師が『治癒ヒール』で、キース・ヨルダンの傷を回復させる。


「アリウス、貴様……」


 1年生の俺に敗けたキースの面子はボロボロだ。

 試合場を後にするときに、物凄く睨まれし。貴賓席のヨルダン公爵も、まだ俺を睨んでいるけど。まあ、恨みを買ったのは俺だから問題ない。


 さてと。エリクの思い通りに事が進んで、残るは俺とエリクの決勝戦だな。


「「「「「エリク殿下ー!!!」」」」」


「「「「「アリウス様ー!!!」」」」」


 試合場に立つ俺とエリクに、女子たちが黄色い声を上げる。

 俺もエリクも1年生で上級生相手に、準決勝まで完勝して来たし。エリクは元々人気があるから、注目されるのは当然だな。


 男子たちも歓声を上げているけど、俺にだけ嫉妬の視線を向ける奴らがいる。

 まあ、完璧王子様のエリクは人望があるから、男子にも人気があるけど。俺は学院の生徒とあまり付き合いがないから、これも当然の反応か。


 ちなみにエリクの装備は妖精銀ミスリル製のハーフプレートに長剣。全部マジックアイテムだけど、エリクが普段使いしているモノらしく。派手な装飾じゃないから、全然嫌味な感じじゃなくて。こういうところも、エリクは完璧な王子様だよな。


 もう目的は果たした訳だし。決勝戦の勝敗に意味はないけど。第1王子のエリクが同じ1年生の俺に手も足も出ないで負けると、エリクの評判が落ちるかも知れない。


 かと言って、手を抜くと変な癖がつくし。エリクに対してだけ手加減すると、八百長だと疑われるだろう。

 しばらく受けに徹してタイミングを計って、ちょうど『特殊結界ユニークシールド』を破壊するだけのダメージを与えて終わりにするか。


「アリウス。せっかくの機会だから、君の本当の実力をみんなに見せたらどうかな? 君なら僕に怪我をさせずに、実力を見せることができるだろう」


 エリクの狙いは解っている。俺に注目を集めて、自分がやろうとしていることを周りに悟らせないつもりだ。

 キースとヨルダン公爵に対して、エリクは思いきり喧嘩を売っているけど。エリクの方から仕掛けたという印象が残るのは、エリクにとって得策じゃないからな。


 だけどエリクは自分のことだけを考えてる訳じゃない。この機会に俺の実力を示して、周りを黙らせるつもりだ。

 昨年の優勝者のキースを倒しただけで、十分な気もするけど。嫉妬の視線を向けて来る奴らは、まだ俺の実力を疑っているんだろう。


 だからエリクは、俺が誰も文句が言えないほどの実力を示して。今後、俺がどんなことをしても、『アリウスなら仕方ない』と言われる環境を作ろうとしている。


「俺は別に今のままで構わないけど。周りの奴らがどう思おうと関係ないからな」


「それじゃ、僕が困るんだよ。僕は今でもアリウスが王国宰相の地位を継ぐことを、諦めていないからね」


 エリクはいつもの爽やかな笑みを浮かべる。だから俺は王国宰相になるつもりはないって、言っているだろう。

 だけどエリクは、こんなことを言っていても。俺のことを考えてくれていることは解っている。俺のことを良く知らないのに、勝手なことを言う奴らが、エリクは気に食わないんだろう。


「宰相の件は別にして。とりあえず、それなりに本気を出すけど。俺の手元が狂って、怪我をしても文句を言うなよ」


「そんなヘマを、アリウスがする筈がないよ。僕は君を信頼しているからね」


「エリク、勝手に言っていろよ」


 俺は剣に魔力を込めて横に一閃する。勿論、スピードと魔力は加減したけど。これでも学院の生徒のレベルだと避けられないで、一撃で『特殊結界』が消滅してダメージを負うだろう。

 だけどエリクは反応して、身を伏せて剣の下を掻い潜るように躱した。


「僕も少しは良いところを見せないとね」


 エリクは無詠唱・・・で『加速ブースト』を発動して、俺との距離を一気に詰めると。速くて正確な突きを連続で叩き込んで来る。


 俺はエリクの攻撃を2本の剣で全部受けて反撃する。エリクの反応速度よりも速くて正確な斬撃だ。

 だけどエリクは今度も無詠唱・・・で『短距離転移ディメンジョンムーブ』を発動して、俺の攻撃を躱す。


 エリクの実力は、学院の生徒の中では抜きん出ていて。レベルも100を余裕で超えている。だけどレベル以上にエリクは強いな。

 『恋学コイガク』の攻略対象の1人だから、同レベルの奴よりもステータスが明らかに高いってのもあるけど。ロナウディア王国の第1王子なのに戦い慣れている。まあ、理由は解っているけど。


「今のは危なかったね。魔法の発動が遅れていたら負けていたよ」


「ホント、良く言うよな。俺が何をするか、読んでいただろう」


 実力がある上に、俺の動きを良く見ているし。次に何をするか予測しているから、決して侮れない。

 もしエリクが冒険者になるつもりだったら、もっと徹底的に鍛えて。一緒にパーティーを組んでみたいところだな。


「「「「「エリク殿下ー!!! 素敵ですー!!!」」」」」


「「「「「アリウス様ー!!! 頑張ってー!!!」」」」」


 男子の歓声の声も上がっているけど。女子の黄色い声が正直に言うと、そろそろウザくなってきたな。


「アリウスが何を考えているのか解るけど。こう言う反応は仕方ないから、慣れるしかないよ。君はこれからもっと、注目されるんだからね」


 ホント、全部エリクの思惑通りに進んでいるのが、気に入らないけど。今回は乗せられてやるよ。


 俺がさらに魔力を込めると、2本の剣が白い光を放つ。俺はスピードを上げて、2本の剣を同時に叩き込んだ。


 エリクはこれも予測していて、再び『短距離転移』を発動して躱す。

 だけどエリクが転移して姿を現した瞬間、俺は一気に加速して距離を詰めて。エリクが次の魔法を発動する時間を与えずに、剣を叩き込む。


 『特殊結界』が一撃で消滅して、オーバーキルのダメージがエリクを襲う。だけどエリクは無傷だ。

 攻撃が当たる前に、俺が『絶対防壁アブソリュートシールド』をエリクの身体を包み込むように発動したからだ。


「……しょ、勝者、アリウス・ジルベルト!」


 完全に学院の生徒のレベルじゃない戦いに、審判の教師が唖然として、コールをするのが一瞬遅れたけど。


「「「「「キャャャー!!! アリウス様ー!!!」」」」」


「「「「「アリウスー!!!」」」」」


 次の瞬間、女子の黄色い声と男子の歓声が一斉に沸き上がる。


「さすがは、アリウスだね。僕の完敗というか、初めから勝負にもなってなかったけど」


「いや、そんなことはないだろう。確かに俺に勝てるレベルじゃないけど、エリクは本当に強いよ」


 嫌味な言い方だと自分でも思うけど。嘘を言っても仕方ないからな。


「アリウスは正直だからね。そう言って貰えると嬉しいよ」


 エリクは解っていて。いつもの爽やかな笑みじゃなくて、心からの浮かべる。


 1年生同士のハイレベルな決勝戦で、剣術大会は盛り上がって。学院の歴史に残る素晴らしい戦いだったと、後々語り継がれる。そんな結末だった――このまま終わっていれば。


「――エリク!」


 俺が声を放つと同時に。空から物凄いスピードで飛来した魔力の塊が、エリクに襲い掛る。

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