第46-2(8)話:キース・ヨルダン


 次はいよいよ準決勝で。俺はキース・ヨルダンと試合を行う。


 先に行った準決勝の一戦目は、エリクが完勝した。相手は現生徒会長の2年生レイモンド・ブランカードだ。

 ピンクゴールドの髪と、水色の瞳のアニメチックなイケメンは、ブランカード侯爵家の嫡男。つまりジークの婚約者であるサーシャの兄だ。


「さすがはエリク殿下ですね。私では、手も足も出ませんでしたよ」


「レイモンド先輩も腕を上げたね。危うく一撃を食らうところだったよ」


 エリクの実力は1年生どころか、全学年の生徒の中でも突出している。

 レイモンドも優勝候補の1人に挙げられる実力だけど、相手が悪かったな。


 2回戦目が始まる時間が来たので、試合場に向かうと。キース・ヨルダンは、すでに待っていた。


「アリウス。根も葉もないことで、よくも私を誹謗中傷してくれたな。本当の実力者が誰か、おまえに教えてろう」


 キースが誹謗中傷したと言っているのは、ミリアに意趣返しするなと言ったことだ。

 これくらいで根に持つってことは、やっぱり図星だったんだな。


「キース先輩は細かいことを、気にするんだな。俺は可能性があると思ったから言っただけで、先輩が気にしているなら謝るよ」


「なんだ、アリウス。怖じ気づいたのか? だが今さら後悔しても遅いからな。おまえは徹底的に痛めつけてやる!」


 いや、俺も確証がある訳じゃないし。くだらない話を終わらせるために言ったんだけど。キースは勘違いしたみたいだな。


 キースが使える最大威力のスキルが直撃すれば『特殊結界ユニークシールド』を一発で消滅させることができるだろう。

 だけどキースの狙いはそこじゃない。バーンと戦ったときのように、『特殊結界』にダメージを蓄積させてからスキルを使って、オーバーキルでダメージを与えることだ。

 まあ、俺に当たればの話だけど。


「キース先輩、そんな迂闊なことを言って良いのか? 俺を意図的に痛めつけようといているように聞こえるけど」


 キースがやろうとしていることは、ルール違反じゃないけど。品性の問題として、キースの評価は下がるだろう。


「アリウス、だから勝手に勘違いするな。私は手を抜かずに全力で戦うと言っているだけだ!」


 まあ、俺にとっては、正直どうでも良い話だけど。

 俺はキースを徹底的に叩きのめして、ヨルダン公爵をあおるというエリクの狙いには、イマイチ乗り気じゃない。


 エリクはダンジョン実習での襲撃事件に、キースも関わったと言っていたけど。関わったとしても、程度の問題があるし。

 今でこそキースは、ヨルダン公爵の自慢の息子と言われているけど。結局のところ、キースは父であるヨルダン公爵の駒に過ぎないからな。


 俺は子供の頃、7歳で冒険者になるまで、ロナウディア王国の社交界に顔を出していた。

 だから子供の頃のキースにも会ったことがあるけど。当時から頭角を現していたエリクと違って、キースは目立たない寡黙な子供だった。

 そもそも子供の頃のキースは、社交界にあまり顔を出さなかったから。俺がキースに会ったのは数える程度だ。


 ここからは情報屋を使って調べたことだけど。キースは10歳を過ぎた頃から、頻繁に顔を出すようになって。ヨルダン公爵の派閥の貴族たちの中で、リーダーシップを発揮するようになったらしい。まるでエリクに対抗するように。


 ヨルダン公爵は天才と呼ばれるエリクに対抗させるために、キースをスパルタで徹底的に鍛えたそうだ。キース本人のためじゃなくて、王国との権力争いのために。

 キースの性格がねじ曲がったのも、そのせいだと言われている。


 キースは表面おもてづらが良くて、評価は悪くないけど。裏表がある奴で。ヨルダン公爵の派閥の貴族や使用人たちの中にも、キースの陰口を叩く奴は結構いるらしい。だからキースのことを調べるのは簡単だった。


 まあ、貴族が権力のために子供を使うのは良くある話だし。結局のところ、性格がねじ曲がったのもキース本人の問題でもある。

 だからそこまで同情するつもりはないけど。個人的なことを言えば、キースに関して実害があったのは、バーンが怪我したことくらいで。


 ヨルダン公爵が失脚すれば、息子のキースの失脚する訳だし。エリクが言ったように、徹底的に叩きのめさなくても。1年生の俺に負けたら、キースの評判は落ちるからな。

 『特殊結界』を一撃で消滅させて、それで終わりにするつもりだったんだけど。


 試合が始まると、キースは『加速ブースト』を発動する。一気に距離を詰めて、嘲るように笑いながら。


「確かミリア・ロンドだったか? アリウスは随分と固執しているようだが。おまえが私に嘗めた口を利いた罰として、あの女は慰み者にしてやろう」


 キースは俺にしか聞こえない声で言ったけど。


「おい……キース。今、何て言った?」


 俺はキースの顔を鷲掴みにして、持ち上げる。


 この瞬間に『特殊結界』がダメージに耐え切れずに消滅して試合は終了。だけど俺はキースを放すつもりはない。


「痛、痛……や、やめろ……」


 キースの頭蓋骨がミシミシと、嫌な音を立てるけど無視だ。


「勝者、アリウス・ジルベルト……おい、もう試合は終わったんだ。アリウス、早くキースから手を放せ!」


 審判の教師の声に、俺はキースの身体を放り投げる。

 まあ、殺すつもりはないからな。白目を剥いたキースは、背中から試合場に叩きつけかれる。

 キースの顔に残る指の跡。あまりの光景に、観客席の生徒たちが静まり返る。


 まあ。こんなことをすれば、俺の評判がガタ落ちすることは解っていた。

 父親のダリウスには申し訳ないけど。俺は王国宰相の地位を継ぐつもりはないから、評判なんてどうでも良いんだよ。

 エリクの思い通りになったことは、ちょっと癪だけど。


「アリウス様は……最高に、素敵です!」


 静寂の中に響く声。それが合図だった。


「「「「「キャー!!! アリウス様ー!!!」」」」」


「「「「「アリウス様、素敵ですー!!!」」」」」


 会場に響き渡る女子たちの声……これって、どういうことだよ?


「アリウスの強さに、みんなが魅せられたんだよ」


 エリクがいつもの爽やかな笑みを浮かべて、こっちにやって来る。


「ねえ、アリウス……今のって、私のために怒ってくれたのよね?」


 キースの声は聞こえなかった筈だげと。何故か、ミリアも気づいているし。


そういうところ・・・・・・・が、

アリウスの良いところね」


 ソフィアが優しい笑みを浮かべる。ソフィアまで気づいているのは、俺が解りやすい奴ってことか?


「俺は自分で仇を討つ気だったんだが。親友が討ってくれたなら、素直に礼を言うぜ」


 バーンまで、こんなことを言っているけど――


 貴賓席のヨルダン公爵が、鬼のような形相で俺を睨んでいる。

 まあ、ヨルダン公爵の恨みを買ったのが、他の誰でもなく俺で良かったよ。

 ホント、エリクの思い通りに進んだのは少し癪だけど。とりあえず、問題ないな。

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