第41-2(1)話:勇者のスキル
目的のために手段を選ばないこと自体には、俺も同意するよ。俺だって目的を果たすことを優先するなら、キレイごとを言うつもりはないからな。
だけどクリスたちの目的なんて、俺には関係ないし。ジェシカたちを巻き込んだことを、許すつもりはないんだよ。
俺は意識を失ったままのクリスと、拘束した兵士たちを、冒険者ギルドの地下にある修練場に連れて行く。
『
修練場には戦う気のない冒険者たちが避難していたけど。もう隠れている必要はないし、邪魔だから出て行って貰う。
ジェシカやゲイルたちにも知る権利があるけど。クリスたちから情報を聞き出すために、俺は手段を選ぶつもりはないからな。
別に見られるのは構わないけど。これ以上、巻き込みたくないからな。みんなには冒険者ギルドのホールで、待って貰うことにした。
兵士たち全員が修練場に入ったの確認すると、俺は修練場を囲むように『
これで冒険者ギルド全体に展開した『絶対防壁』を解除して、他の冒険者たちが外に出られるようになった。
『もう結構遅い時間だし、おまえたちはクリスの相手をして疲れているだろう。結果は明日伝えるから、宿に戻って構わないからな』
ジェシカに『
『嫌。私はアリウスを待っているわ』
まあ、ジェシカの性格だと、そう言うと思ったけど。だったら、さっさと済ませるか。
「おまえたちは、イシュトバル王国の兵士だよな」
俺の口からイシュトバル王国の名前が出たことに、兵士たちが驚いている。
だけど情報収集は冒険者の基本だからな。俺は決して安くない金を払って、世界情勢に関する情報は常に掴んでいるんだよ。
「冒険者だからって、馬鹿にしているのか? イシュトバル王国のアベル王子が、勇者の力に覚醒したことは知っているし。おまえたちは勇者パーティーのクリスと一緒にいたんだから、言い逃れできると思うなよ。
冒険者ギルドで暴力沙汰を起こしたことも、立派な犯罪行為だけど。他国に飛空艇で乗り込んだことは、領空侵犯として国際問題になるよな」
下手に言い逃れしないように、俺が全部解っていることを教えてやる。
まあ、国際問題にするかどうかは、カーネルの街があるキルキス公国が決めることだけどな。
「わ、我々が来ることは、カーネルの街の領主には事前に伝えてある」
「それはキルキス公国の了承を得たという意味か? 地方領主に他国が領空侵犯することを許可する権利があるとは思えないけど」
まあ、一方的に書簡か『伝言』で伝えたってところだろう。どうせ言い逃れに過ぎないことは解っているから、これ以上ツッコんでも意味がないな。
「それで、クリスが言っていたけど。アベル王子はSSS級冒険者の俺を勇者パーティーに加えるために連れて来いと、おまえたちに命令したんだよな。クリスが冒険者たちを傷つけたのも、手段を選ぶ必要はないとアベル王子に言われたからか?」
「
全部クリスのせいにして、蜥蜴の尻尾きりをする可能性があったけど。とりあえず、これでアベルの命令で動いたという言質は取ったな。まあ、兵士たちもアベルが切り捨てる可能性はあるけど。
「なあ、おまえたちは
俺の言葉に、兵士たちが驚いた顔をする。クリスのスキルのことを知っているってことは、こいつらも
まあ、兵士たちに訊くのは、これくらいにして。俺はクリスに掛けた『気絶』を『
「…………アリウス、てめえ!」
目を覚ましたクリスは、いきなり襲い掛かろうとするけど。魔剣ウロボロスがないことに気づく。魔剣ウロボロスは冒険者ギルドの天井に刺さったままだからな。
クリスは『
俺はクリスをボコボコにしてから、再び『完全治癒』を発動する。だけど今度は『気絶』を発動しなかったら、回復したクリスは直ぐに襲い掛かって来た。
そんなことを何度も繰り返す。兵士たちはドン引きしているけど、俺は別にクリスを痛ぶって楽しんでいる訳じゃない。
第10階層魔法『
これだけボコボコにすれば、普通は精神がへし折れるところだけど。クリスの精神は折れていない。だけどクリスが精神的にタフという訳じゃないだろう。
もう10回近く意識を失ったクリスに、俺は手錠と足枷を付ける。これは
魔力を封じればスキルも発動できないからな。
『完全治癒』を発動すると、クリスは意識を取り戻すけど。
「……て、てめえ! 俺に何しやがった?」
「何って、魔力を封じる魔導具を嵌めただけだ」
クリスの様子は、さっきまでと明らかに違う。狂犬のように凶暴だったクリスが、今は怯えた顔で俺を見ている。
ああ、やっぱり『
『解析』したから解るけど、クリスのスキル『勇者の心』は闘争心を掻き立ててステータスを向上させる。
クリスのステータスが異常に高かったのも『勇者の心』を発動してたからで。スキルを封じたクリスのステータスは低くはないけど、並みの600レベル台ってところだ。
だけど俺の疑問が全部解決した訳じゃない。
この世界のスキルはレベルが上がると勝手に覚えるんじゃなくて。同じことを繰り返すことで、スキルを発動する魔力の回路ができあがるイメージだ。例えば剣を繰り返し振ることで、剣術のスキルを覚える。
だったらクリスは『勇者の心』というスキルを、どうやって覚えたのか?
狂犬のように戦い続けることで、狂戦士化するスキルを覚えたとしても。ステータスが異常に上がるとか、『勇者の心』は優秀過ぎるし。
鍛錬を続けることで強力なスキルを覚えたとしたら、普通は派生スキルも覚える筈だけど。クリスは『勇者の心』以外に、類似系スキルを一切習得していない。
「なあ、クリス。おまえの『勇者の心』ってスキルは、アベル王子に与えられたのか?」
「アリウス。てめえが、何でそれを……」
『
だけど勇者の力に覚醒した奴は、本当にスキルを与えられるのか?
そんなことができたら、この世界のスキルに関する常識が覆るけど。俺は確かめもしないで、否定するつもりはない。
この世界には、まだ俺が知らないことが、たくさんあるし。勇者と魔王のことだって、
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