第40-2(4)話:怒り
ジェシカから『
面倒なことになっていることは解ったけど。『伝言』の内容だけだと、イマイチ状況が解らないからな。俺は『
まず目についたのは、冒険者ギルドを遠巻きに見る人だかり。鎧姿の兵士たちが冒険者ギルドの建物を取り囲んでいて、入口の扉が破壊されている。
俺は姿を隠したまま、建物の中に入る。壊れたテーブルと椅子に、何かがめり込んだような壁。戦いがあったことが一目で解る。
入口付近では、派手な金色のフルプレートの男と、外にいたのと同じ鎧姿の兵士が、ジェシカたちと対峙している。
ジェシカの青いハーフプレートは、半壊しているし。アランのフルプレートも、腹の部分が深く切り裂かれている。
マルシアや、ゲイルのパーティーの連中も装備がボロボロだけど。怪我は治療済みのようだし。とりあえず、殺された奴はいないみたいだな。
大よその状況が解ったから、俺は『認識阻害』と『透明化』を解除する。
「ジェシカ、待たせて悪かったな」
「アリウス……どうして……」
ジェシカが俺を見て、泣きそうな顔をする。
「ジェシカ、おまえの意図は解ったけど。こいつらは俺に用があるんだろう? だったら俺が相手をするよ。みんなにも俺のせいで、迷惑を掛けたみたいだしな」
「てめえがSSS級冒険者のアリウスか? 何だよ、まだガキじゃねえか」
鮮やかな蒼い髪と血のように赤い瞳。金色のフルプレートの男が、嘲るように笑う。
「ジェシカから話は聞いているけど。おまえが勇者パーティーのクリス・ブラッドって奴か。随分と好き勝手に、やってくれたようだな」
『
クリスが手にしている竜を象った柄と金色の刃の大剣は『魔剣ウロボロス』。まあ、魔剣なんて大層な名前だけど。
「こいつらが、てめえの居場所を吐かなかったせいだぜ。だが結局、こいつは自分の命惜しさに、てめえを売りやがった。仲間に裏切られたのは、どんな気分だよ?」
クリスはジェシカが俺を呼んだと思っているようだな。
「ジェシカは、そんな奴じゃないからな。おまえが俺を探しているから、カーネルの街に来るなって『伝言』で伝えて来たんだよ。俺は勝手に来ただけだ」
「何だと……てめえ、俺を騙しやがったのか」
クリスがジェシカを睨むけど、ジェシカは毅然としている。
「チッ……まあ、結果は同じじゃねえか。アリウス、俺が用があるのは、てめえだけだ。大人しく付いて来れば、ここにいる雑魚たちは見逃してやるぜ」
勇者パーティーのクリス・ブラッド。情報収集は、冒険者の基本だからな。俺は世界情勢に関する情報を集めている。だから半年ほどに前に、300年ぶりに勇者と魔王が復活したことが
学院があるロナウディア王国の王都周辺以外は、オーソドックス過ぎて没になったRPGの世界だからな。この世界には勇者と魔王が実在する。だけどな――
「なんで俺が、おまえの言うことを聞く必要があるんだ? クリス、俺はジェシカたちを痛ぶるような真似をしたおまえに、ムカついているんだよ」
勇者とか、魔王とか、そんなモノはどうでも良い。力を見せつけるように、ジェシカたちを痛めつけたクリスに、俺は本気で怒っているんだよ。
鎧を見れば解るけど。一歩間違えれば、アランは死んでいたからな。
「おい、てめえ……調子に乗るんじゃねえぞ!」
クリスが殺意を剥き出しにして、魔剣ウロボロスを構える。
「クリス様、止めてください! 勇者アベル様は、アリウスを連れて来いと言ったんですよ!」
兵士たちがクリスを止めようとする。
「うるせえ! アベル様はSSS級冒険者のアリウスを、勇者パーティーに加えたいだけだ。アリウスを殺せば、俺がSSS級冒険者だからな。アベル様だって文句はねえだろう!」
そういうことか。だけどクリスは何も解っていない。
現役のSSS級冒険者を倒して序列を奪えば、確かにSSS級冒険者になれる。だけどその前に、SSS級冒険者に挑戦する権利を得るための功績を上げる必要ある。
クリスの場合は、それ以前の問題だけどな。
クリスの殺意を感じて、シェシカが心配そうな顔で俺を見ている。
俺は大丈夫だと安心させるために、ジェシカの目を見て頷く。
「おい、アリウス……随分と余裕じゃねえか。SSS級冒険だからって、俺を舐めるんじゃねえぞ!」
クリスは本気で殺すつもりで掛かって来た。魔剣ウロボロスが空気を押し潰すように唸りを上げて、俺の喉元に迫る。だけど――遅過ぎるんだよ。
天井に突き刺さる魔剣ウロボロス。俺が素手で弾き飛ばしたからだ。
「ウゲッ……」
クリスは大量の血を吐き出しながら、信じられないという顔をする。
クリスの腹に当たった俺の拳は、フルプレートを貫通して、背中に突き出ていた。
「俺はおまえのように、相手を痛ぶる趣味はないんだよ」
俺は拳を引き抜くと、クリスを『
「ク、クリス様……」
兵士たちが俺を見て怯えている。こいつらも逃がすつもりはないからな。
俺は『
「な、何なんだ、この光の壁は!」
外の兵士たちが騒いでいるけど。こいつらが俺の『絶対防壁』を破って、外に出ることは不可能だからな。
『絶対防壁』には、
こいつらは冒険者ギルドで暴力沙汰を起こした犯罪者だからな。勇者がどういうつもりで、クリスを寄越したのか。
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