第40-2(3)話:襲撃※ジェシカ視点※
※ジェシカ視点※
「あの派手な金色フルプレートの奴……気をつけた方が良いよ。あたしが『
冒険者ギルドに近づいて来る男たちを窓から窺いながら、マルシアがみんなに警告する。
マルシアは『白銀の翼』の斥候だから、『鑑定』も『索敵』も私たちの中で1番スキルレベルが高いのに。それでもレベルが解らなくて、異常だと感じる魔力の大きさって……いったい、あいつは何レベルなのよ?
「これは念のために、支援魔法を先に使っておいた方が良いね」
魔法系アタッカーのマイクとヒーラーのサラが、『
「戦う気がねえ奴は、地下の修練場に隠れていろよ。裏口から逃るには、もう遅えからな」
ゲイルが戦力になりそうにない冒険者たちに指示をする。
金色フルプレートの男に付き従う20人の兵士たちが、冒険者ギルドを取り囲んでいる。
マイクとサラが支援魔法を掛け終わったタイミングで。金色フルプレートの男は、冒険者ギルドの扉を蹴り破って入って来た。
鮮やかな蒼い髪と血のように赤い瞳。男は獰猛な獣のような笑みを浮かべる。
「おい、ここにSSS級冒険者のアリウスがいるんだろう? さっさと出て来いよ。じゃないと……派手に暴れるぜ!」
こいつは本当にヤバい奴だわ。みんなもそう思っているようね。
「残念だったな。アリウスさんは、しばらくカーネルの街に来てないぜ。だがアリウスさんに何の用だ? 返答次第じゃ、容赦しねえぞ!」
金色フルプレートの男の前に、アランが立ち塞がる。
「なんだ、てめえ……フンッ、S級冒険者か。雑魚に用はねえんだよ。アリウスがいねえなら、さっさと居場所を教えろ。死にたくねえなら、このクリス・ブラッド様の邪魔をするんじゃねえぞ!」
金色フルプレートの男、クリス・ブラッドは背中に背負っていた剣を引き抜く。竜を象った特徴的な柄と金色の刃の大剣だ。
「冒険者ギルドで、いきなり剣を抜くとか……頭イカれてるのか?」
冒険者ギルドで殺傷事件を起こせば、立派な犯罪者よ。これだけ証人がいるんだし、言い逃れできないわ。
「だったら何だ? 俺は
クリスが殺意を撒き散らす。どうやら、本気のようね。殺すことを一切
「何が特別か知らないけど。あんたみたいな危ない奴に、アリウスの居場所を教える訳がないでしょう」
本当はアリウスの居場所なんて知らないけど。そんなことを言っても、信じるとは思わないわ。
私は愛用のバスタードソードを抜いて、アランの隣に立つと。正面からクリスを睨みつける。
アランも頷いて、大剣を引き抜く。相手が格上なのは解っているから、初めから全力で行くわよ。
他のみんなも一斉に動く。マルシアは『
マイクとサラは詠唱を途中までして、いつでも魔法を放てる準備をする。
ゲイルのパーティーはクリスの左右に展開して、直ぐに仕掛けられる位置を取る。
取り囲まれたクリスは、私たちを嘲るように笑う。
「おい、雑魚どもが調子に乗るんじゃねえぞ。良いぜ……皆殺しにしてやるよ!」
クリスは、いきなり仕掛けて来た。金色の刃の大剣を横向きに一閃する。
アランが踏み込んで、魔力を込めた大剣で受ける。だけど身体ごと吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。
私はアランのおかげで何とか躱したけど。ゲイルのパーティーの2人が巻き込まれた。
巻き込まれた2人は、そこまで大きなダメージじゃないけど。アランの大剣は真っ二つになって、腹部を鎧ごと切り裂かれている――こいつ、なんてパワーなの!
「アラン!」
サラが直ぐに反応して、アランに『
「ほら、こっちにもいるぜ!」
ゲイルがナイフを投げて作った隙に、私はクリスの懐に飛び込む。小回りの利かない大剣使いが相手なら、懐に飛び込むのが定石だから。
両手で構えたバスタードに体重を乗せて、全力で魔力を込める。
同時にマルシアがクリスの背後に迫って。魔力を集束したショートソードで、フルプレートの隙間を狙う。
さらにマイクが放った第8界層魔法『
「だから、てめえらは雑魚なんだよ!」
だけどクリスは余裕で、私たちの動きに反応する。
金色の刃の大剣の一閃で、マイクの魔法を打ち消すと。下から私を蹴り上げると同時に、背後のマルシアにガントレットの裏拳を叩き込む。一気に加速した動きに、私とマルシアは攻撃を当てる前に弾き飛ばされた。
クリスの蹴りの衝撃で、私のハーフプレートは砕けて。HPは半分以上減っている。
マルシアは上手く受けたみたいだけど。それでも壁まで飛ばされて、ノーダメージって訳じゃないわね。
だけどクリスの力は何なのよ。パワーもスピードも、私たちS級冒険者が束になって掛かっても、全然通用しないわ。
「ジェシカ、マルシア。悪い、待たせたな」
サラの『完全治癒』で回復したアランが、予備の大剣を構えて。再びクリスの前に立ち塞がる。
「弱え癖に懲りねえな。次は身体を真っ二つにしてやるぜ」
クリスの挑発に、アランが歯を食い縛って耐える。圧倒的な力のクリスを相手に、下手に動けば、本当に体を真っ二つにされるから。
マイクも次の魔法を放つ準備を終えて、タイミングを計っているけど。簡単に魔法を打ち消された後だと、次に仕掛けるタイミングが難しいわね。
「クリス様、何をしているんですか! いくら
騒ぎを聞きつけて冒険者ギルドに入って来た兵士たちが、必死になってクリスを止める。
「うるせえな! アリウスの居場所を吐かせてから、こいつらを皆殺しにすれば良いだけの話だろう!」
「クリス様、冷静になってください! 冒険者ギルドの外にも、人だかりができています。これだけたくさんの目撃者を、皆殺しにするつもりですか?」
「外野を黙らせるのは、てめえらの仕事だろうが! それができねえってなら、良いぜ。俺が全員殺してやるよ!」
駄目だ。クリスは完全にイカれているわ。だけど勇者とか勇者パーティーって……どういうことよ?
勇者が300年ぶりに誕生したという噂は、私も聞いているけど。こんな奴が、勇者の仲間なの? それに勇者がアリウスに、何の用があるのよ?
「ジェシカ、考えごとは後だ。今のうちに回復しておけよ」
ゲイルたちのパーティーは、体制を立て直して。クリスから少し距離を空けて、防御に徹する構えだ。下手に仕掛けるは無謀だから、冷静な判断だけど……このままじゃ、ジリ貧よね。
今度は私とマルシアとアランが同時に仕掛けて。マイクとサラにも同時に魔法を使って貰えば、もしかしたら……
「ジェシカ、焦るなよ。仕掛けるときは俺たちも付き合うが。冒険者は生き残ることが第一だからな」
「そうだよ、ジェシカ。クリスなんかに殺されるのは、馬鹿らしいからね」
サラに回復魔法を掛けて貰いながら、ゲイルとマルシアの言葉に頷く。確かに私は、気づかないうちに焦っていたみたいね。こういうときこそ、落ち着かないと。
クリスは口では皆殺しにするって言っているけど、まだ誰も死んでいない。クリスと私たちの実力差なら、もうとっくに死者が出ている筈なのに。
つまりクリスは私たちを痛ぶって楽しむためか、アリウスの居場所を吐かせるために、直ぐに殺すつもりはないってことね。
「解ったわよ。アリウスの居場所を教えるから、もう勘弁してくれない?」
私がクリスに申し出ると。
「おい、ジェシカ! おまえ、何を言ってるんだ?」
アランが止めようとするけど。私の意図に気づいたマルシアが、視線で黙らせる。
「雑魚がビビって、口を割る気になったのか?」
クリスは嘲笑うけど。そんな安い挑発に乗るつもりはないわ。
「あんたに勝てないことが解ったから、諦めたのよ。だけど私もアリウスが今どこにいるかは、知らないから。みんなの命の保証をしてくれるなら、『
兵士たちもクリスを止めたいみたいだし。話に乗って来る筈だわ。
「結局、おまえは自分の命が惜しくて、アリウスを売るって訳か」
「好きに言いなさいよ。ねえ、みんなの命の保証をするって約束できる?」
クリスが同意したから、私はアリウスに『伝言』を送る。だけどアリウスを呼ぶなんてことは嘘で。
勇者パーティーのクリスがカーネルの街に来て、アリウスを探していることと。私たちは
これでアリウスがカーネルの街に来て、クリスと鉢合わせになることはないし。
私が嘘をついたとバレても、クリスの目的はアリウスだから。アリウスの居場所を知っていると思っている私たちのことを、簡単には殺さないと思うわ。
それに兵士の口ぶりだと、クリスが思っているほど好き勝手にできる訳じゃないみたいだから。いつまでも冒険者ギルドを占拠して、私たちを拘束することはできない筈よ。
だから私は時間稼ぎをするつもりだったんだけど――
「ジェシカ、待たせて悪かったな」
5分も経たないうちに。アリウスは冒険者ギルドにやって来たの。
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