第40-2(2)話:白銀の翼※ジェシカ視点※

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※ジェシカ視点※


「今日もアリウスは来ていないわね……なんで突然、来なくなったのよ?」


 カーネルの街の冒険者ギルド。私はマルシアたちS級冒険者パーティー『白銀の翼』のメンバーと晩御飯を食べている。


 少し前までは、ほとんど毎日アリウスと一緒に、冒険者ギルドで晩御飯を食べていたのに。アリウスは連絡もなしに、カーネルの街に来なくなった。


 私の方から『伝言メッセージ』を送ったら、今は忙しくて行く暇がないって返信が来たわ。アリウスが忙しいことは、前から知っていたけど。全然来なくなるとか……どういうことよ!


「アリウス君も、色々やることがあるんじゃないの。アリウス君がカーネルの街に来るようになったのだって、この1、2ヶ月のことだよね? あたしとしては、アリウス君に奢って貰えないのは残念だけど。忙しいなら、仕方ないんじゃないかな」


 マルシアがニマニマ笑っている。マルシアは私の気持ちに気づいているのに。こういう顔をされると、ちょっとムカつくのよね。


 私だって、それくらい解っているわよ。アリウスはSSS級冒険者だから。高難易度ハイクラスダンジョン『ギュネイの大迷宮』の近くにあるカーネルの街に来る理由は特にないわ。だから何か他にやることができたら、いつ来なくなっても仕方ないわよね。


「マルシア。ジェシカを、あんまりイジメるなよ。アリウスはそんなに薄情な奴じゃないからな。そのうちに顔を見せると思うぜ」


 ゲイルがフォローしてくれる。確かにゲイルとアリウスは仲が良いから。アリウスはゲイルと一緒に飲むために、カーネルの街に来るかも知れないわね。


「そうだぜ、ジェシカ。アリウスさんも忙しくなくなったら、また来るようになるって。アリウスさんは面倒見が良い人だからな」


 『ギュネイの大迷宮』で、アリウスに実力の違いを見せつけられて以来。アランは、すっかりアリウスに心酔している。

 アランはアリウスのことを散々悪く言っていたのに。打ちひしがれたアランに、アリウスは手を差し伸べてくれた。アランが昔のように真面目に冒険者をするようになったのも、アリウスのおかげだわ。


 そうよね。そんなアリウスが突然何も言わずに、皆の前からいなくなる筈がないわ。アリウスに会えないのは寂しいけど、今は我慢するわ。


「ジェシカの機嫌も、少しは良くなったみたいだね」


「そうね。ジェシカは笑っていた方が似合うわよ」


 魔法系アタッカーのマイクと、ヒーラーのサラも『白銀の翼』の大切な仲間だ。

 マイクとサラは、私がアリウスに初めて会った頃から『白銀の翼』のメンバーだけど。今もアリウスには遠慮があるみたいで。アリウスと話すときは敬語を使っている。


「マイク、サラ、ありがとう。私もアリウスみたいに強くなれるように、もっと頑張るわよ」


 アリウスは今でも、たくさん努力しているから。私が追いつけないことは解っているけど。アリウスに少しでも近づけるように、私も強くなるわ。


「ジェシカ、機嫌が直ったのは良いが。ほどほどに頼むぜ」


 タンクのジェイクが顔をしかめて、ジョッキのお酒を一気に飲む。

 ジェイクとアランは、少し前まで一緒に悪びれていたけど。アリウスのおかげでアランは真面目になったのに、ジェイクは相変わらずね。

 態度が悪いのもそうだけど。自分の力に己惚れて、満足してしまっている。今の『白銀の翼』で一番の悩みの種がジェイクだわ。


「ねえ、ジェイク。無理にとは言わないけど。あんたも強くなれるように、もっと真面目に頑張ったら?」


「おいおい、ジェシカ。機嫌が直ったら、直ぐにそれか? おまえが上を目指すのは勝手だが、俺たちはS級冒険者だぜ。十分に頑張っているじゃねえか」


「ジェイク、よせよ。ジェシカはおまえのことを心配しているんだぜ」


「アラン、おまえは……いや、何でもねえ。酒が不味くなったぜ。俺はもう宿に帰るからな」


 ジェイクは不貞腐れたように言うと、冒険者ギルドを出て行く。


「ジェイクの奴は仕様がねえな。今度俺が、あいつの根性を叩き直してやるぜ」


「アラン、ほどほとに頼むわよ。ジェイクも根は悪い奴じゃないから」


 本当に悪い奴だったら、初めからパーティーに誘っていないわよ。

 ジェイクは、今の私たちよりも目線が低いだけで。これ以上、上を目指す気持ちがないのは仕方ないわ。


「ああ、解っているぜ。俺もジェイクが嫌いな訳じゃねえからな」


「だけど目指すところが違うのは、結構大きな問題だよね」


 私の心を見透かしたように、マルシアがニヤリと笑う。

 マルシアはふざけているように見えて、いつも冷静に考えていて。曖昧に誤魔化したりはしない。


「マルシアが言いたいことは解るけど。ジェイクにはもう少し頑張って貰って。それでも問題になるようなら、みんなで話し合うしかないわね」


 冒険者は遊びじゃないんだし。仲間だからという理由で、ずっと一緒にパーティーを組んでいられる訳じゃないわ。

 これまでだって考え方の違いで、私自身がパーティーを追い出されたこともあったし。『白銀の翼』のメンバーも何度も変わって来たわ。


 今度、もし決断する必要があるときが来ても、私は躊躇ためらわない。私は冒険者として、もっと上を目指しているから。


「まあ、どんなことがあっても。あたしはジェシカの味方だからね」


 マルシアの目が優しくなる。


「うん。マルシア、解っているわよ。ありがとう」


 アリウスのことでは、マルシアは余計なことを言って、私を揶揄からかうけど。マルシアは私のことを大切な仲間だと思ってくれている。


 このとき、不意に外が騒がしくなる。


 冒険者ギルドは、カーネルの街の中央にある広場に面していて。窓から外を見ると、もう午後10時を過ぎているのに、広場に人だかりができている。


 外にいる人たちは空を見上げていて。視線の先には、魔法の光に照らし出された大きな金属の船が飛んでいて、広場に降りて来るのが見える。あれは――飛空艇だわ。


「こんな時間に飛空艇で乗り込んで来るとか。嫌な予感しかしないけどね」


 マルシアは呟きながら装備を整えている。

 飛空艇自体は、そこまでめずらしいモノじゃないけど。カーネルの街に飛空艇の定期便が来ることはないし。いきなり街に乗り込んで来るのは、どう考えても敵対行為だわ。


「アラン、マイク、サラ!」


「ジェシカ、解っているぜ。みんな、気を抜くなよ!」


 何が起きても対処できるように、私たちも急いで準備をする。今はタンクのジェイクがいないけど、仕方ないわね。


 ゲイルたちのパーティーも慣れた様子で、落ち着いて装備を整える。

 他の冒険者たちは、この時間だからお酒も入っているし。戦力になりそうなのは……10人くらいね。


 飛空艇が広場に降りると、中から鎧姿の兵士たちが次々と出て来る。

 人数は20人くらいで。一番最後に出て来たのは、派手な金色のフルプレートの男だ。


 鮮やかな蒼い髪と血のように赤い瞳。背中に大きな剣を背負った金色のフルプレートの男は、兵士たちを従えて。真っ直ぐに、冒険者ギルドへと向かって来た。


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