第295話:オールドルーキー

構成が面倒でスミマセン。本編は今回でいったん中断して、次話から書籍版準拠の改訂版になりますので。本編だけを読まれる方は次の章は飛ばして、296話から始まる9章を読んでください。

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 次の日。俺はエイジとジュリアと一緒に、ローゼンという街の冒険者ギルドに行った。エイジが新たに冒険者として登録するためだ。


 ローゼンの街を選んだ理由は、かつてエイジが冒険者になった場所だからだ。初心に帰るという意味で、エイジは同じ場所で冒険者登録することを選んだ。


 そしてエイジが冒険者として復帰するのに、俺が一緒に来たのにも理由がある。


「アリウス。その格好はどういうつもりだ?」


 エイジが怪訝そうな顔をするのは、俺が『変化の指輪』で姿を変えているからだ。と言っても、髪と目の色を黒にして、髪型を少し変えたくらいだけど。


「前から考えていたんだけど。肩書のせいで、俺は自由に動けないことが多いからな。良い機会だから、エイジさんと一緒に、偽名で別の冒険者として登録しようと思ってね」


 『魔王の代理人』に、『自由の国フリーランド』の国王、EXエクストラ級冒険者。世界迷宮ワールドダンジョンを攻略したり、政治的な活動をするには問題ないけど。自由に動くには、肩書が重過ぎるからな。


 冒険者として二重に登録することは、特に問題ない。俺以外にもロナウディア王国の諜報部の連中とか。任務ために幾つも冒険者登録している奴は、結構いるからな。


 冒険者ギルドの受付に行って、俺とエイジは冒険者登録をする。

 冒険者になるのに必要なことは、登録料として銀貨1枚を払って、用紙に名前を書くだけだ。冒険者になるための試験がないのは、基本的に自己責任だからだ。


 登録料が必要なのも、冒険者プレートを発行するための費用で。タダにすると意味もなく何重にも冒険者登録する奴が出るから、その対策って話もあるけど。


 エイジはエイジ・マグナスじゃなくて、只のエイジとして。俺は『アル』という偽名で冒険者登録した。真新しいF級冒険者のプレート。これで2人の新たな冒険者が誕生したって訳だ。


「おいおい、その年で冒険者になるとか。何の冗談だよ?」


「おまえら、冒険者を舐めてやがるな」


 登録を終えた俺たちに、冒険者ギルドの中にいた2人の冒険者絡んで来る。

 頬のこけた無精髭の男と、癖のある長髪の男で。年齢はどちらも20代後半ってところか。『鑑定アプレイズ』するとレベルは50台で。一応、B級冒険者クラスってところだな。


 ちなみにジュリアは1人でカウンター席に座って、飲み物を飲みながら。こっちの様子を、面白がるように眺めている。ジュリアもSSS級冒険者だから有名人だけど。そこまで顔バレしていないのは、この世界にはネットもテレビもないからだ。


「俺たちに何か用があるのか?」


 エイジが素っ気なく応じる。まるで相手にしていないって感じだな。


「オールドル―キーたちに、俺たちが冒険者のイロハを教えてやるぜ」


「勿論、タダじゃねえが。メシと酒を奢るだけで、貴重な話が聞けるんだ。安いもんだろう?」


 冒険者の多くが10代半ばで、冒険者になるけど。俺は21歳で、エイジはアラサーだからな。オールドルーキーとか言われても仕方ないけど。

 こいつらは良いカモが来たと思って、集る気満々だな。まあ、『鑑定』もしないで相手を判断するとか。その時点で馬鹿決定だけど。


「必要ない。アリ……アル、行くぞ」


 今、エイジはアリウスって言い掛けたな。まあ、考えてみれば、エイジは嘘をつけない性格だからな。

 そのまま俺たちが立ち去ろうとすると。案の定、馬鹿たちが立ち塞がる。


「おい、無視するなよ。先輩の忠告は聞くもんだぜ!」


「おまえらも、痛い目に遭いたくねえだろう?」


 馬鹿の相手をするのは面倒臭いけど。裏られた喧嘩は買う主義だからな。


「ゴーダさん、ダルクさん。新人に絡むのは、止めてください!」


 俺たちの冒険手続きをしたギルド職員の女子が、止めようとするけど。突然、馬鹿2人は意識を失って、崩れ落ちる。

 顔面を思いきり床に叩きつけて、流血するけど。まあ、これくらいで死ぬことはないだろう。


「え……ゴーダさん、ダルクさん、どうしたんですか?」


「酒を飲んで急に動いたから、酔いが回ったんだろう」


 勿論、嘘だけどな。俺が手刀で意識を刈り取ったんだよ。動きが速過ぎて、俺が何をしたか視認できた奴はいないだろう。


「アリ……アル、おまえ……」


 エイジにも俺の動きが見えなかったようだな。


「エイジさん。そろそろ、俺の名前を憶えてくれよ」


「これくらいで済ますなんて。アルは優しいわね」


 いつの間にか、ジュリアがエイジの隣にいる。まあ、俺はジュリアが近づいて来ることには気づいていたけど。


「エイジさん。早速だけど、手っ取り早く等級を上げるためにダンジョンに行かないか? 『竜の王宮』を攻略すれば、SS級冒険者に昇格する功績としては十分だろう」


 依頼を請けるには、冒険者等級による制限があるけど。ダンジョンなら、いきなり高難易度ハイクラスダンジョンに行っても問題ない。

 『竜の王宮』は高難易度ダンジョンの中では最も攻略難易度が高くて、攻略推奨レベルは700レベル超だからな。『竜の王宮』のラスボスの魔石を持ち帰ればSS級冒険者だ。


 まあ、ラスボスの魔石と言っても、金で買えないことはないからな。普通は新人がいきなりラスボスと倒したとしても、直ぐには信じて貰えないだろう。

 だけどエイジが冒険者に復帰することは、冒険者ギルド本部長のオルテガに『伝言メッセージ』で伝えてあるから。エイジが『竜の王宮』を攻略すれば、直ぐに話が通るだろう。


「アリウス。いきなり高難易度ダンジョンを攻略するなんて。そんなやり方は、間違っているだろう。もっと段階を踏むべきじゃないのか? 俺は等級を上げるために冒険者に復帰する訳じゃないぞ」


 エイジなら、そう言うと思ったけど。


「いや、エイジさんは実力があるんだから、問題ないだろう。それにSS級冒険者になれば、スタンピード級の事件が起きたときに、冒険者ギルドが優先的に依頼を回すようになるし。情報だって自然に集まって来るからな」


 スタンピードの原因になるような魔物の討伐依頼は、SS級冒険者以上じゃないと回って来ない。実力不足の冒険者が請ければ、死にに行くようなモノだからな。


「エイジ君がしたいことをするには、早くSS級冒険者になった方が良いわよ」


 ジュリアが真剣な顔でエイジをじっと見つめる。


「……解った。ならば、行くとするか」


 『竜の王宮』はジェシカたち『白銀の翼』も攻略中だけど。エイジなら攻略するのは余裕だからな。『転移魔法テレポート』とダンジョン内の転移ポイントを使って、最下層に直行する。


 俺たちは最下層に出現する太古の竜エンシェントドラゴンたちを瞬殺しながら、ラスボスが出現する部屋に向かう。


 『竜の王宮』のラスボスは、体長25m級の巨大な赤竜『赤竜王レッドドラゴンロード』。

 エイジは愛剣『裁きソードオブの剣ジャスティス』に魔力を込めて、『赤竜王』を真っ二つにする。


 赤竜の巨体がエフェクトと共に消滅して、ラスボスの巨大な魔石だけが残る。

 余裕でSSS級冒険者の実力があるエイジだからな。瞬殺するのは当然だろう。


 俺が偽名で別の冒険者として登録したことも、オルテガには伝えたけど。俺の場合は、自由に行動するためだからな。目立たないように、ゆっくりと等級を上げるつもりだよ。


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