第294話:エイジの生き方

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 スタンピードの後始末をするために、俺とエイジとジュリアは、フランチェスカ皇国の皇都パーチェスを訪れた。

 まあ、後始末と言っても、スタンピードと化した1万体の魔物の死体は、俺が魔法で焼き尽くしたからな。フランチェスカ皇国に、依頼を達成した報告をするだけの話だ。


「『自由の国フリーランド』国王アリウス・ジルベルト殿……いや、今日はEXエクストラ級冒険者のアリウス殿と呼ぶべきか? この度は、我がフランチェスカ皇国の危機を救ってくれたことに感謝する」


 フランチェスカ皇国のライアン・フェンテス天帝は、穏やかな顔立ちの50代半ばの男だ。まあ、穏やかなのは見た目だけで、計算高い食えない奴だ。


 ブリスデン聖王国のジョセフ・バトラー公爵や聖王ビクトルは、魔石の取引の件で、強硬手段に出たけど、フランチェスカ皇国は、俺の力を理解しているのか。あくまでも交渉するだけで、武力行使に出るようなことはない。


 当時フランチェスカ皇国の重装騎兵団団長だったデュラン・ザウウェルも、魔族に化けた俺のことは攻撃したけど。『魔王の代理人』アリウス・ジルベルトとして、皇都パーチェスで会ったときは、結局、暴走しなかったからな。


「俺は冒険者ギルドの指示で動いただけだし。スタンピードの元凶になった魔物を倒したのは、エイジさんとジュリアさんだからな」


 冒険者ギルド本部長のオルテガから依頼が来る前に、俺は行動を起こしたけど。魔物と戦ったのは依頼を請けた後だから、嘘は言っていない。


「SSS級冒険者のジュリア・エストリア殿のことは知っているが。エイジ殿とは……まさか魔王に殺されたと言われている、元SSS級冒険者エイジ・マグナス殿なのか?」


 ライアン天帝は白々しいことを言うけど。エイジは各地で人々を救うために、結構派手に動いているからな。フランチェスカ皇国の情報収集能力なら、調べはついているだろう。


「いや、SSS級冒険者エイジ・マグナスは確かに死んだ。俺は只のエイジだ」


 エイジは5年前に魔王アラニスに殺されたことになっているけど。今でも生きていることを、冒険者ギルドに一切報告していない。

 エイジ曰く、魔王アラニスに負けた時点で、エイジという冒険者は死んだそうだ。


「……そうか。ではSSS級冒険者のジュリア殿と、エイジ殿に改めて感謝する」


 ライアン天帝がエイジの理屈を理解したとは思わないけど。ツッコむつもりはないようだな。


「エイジ殿が冒険者ではないのであれば、冒険者ギルドから報酬が出ないのだろう? ならば直接報奨金を払うとしよう」


「いや、必要ない。俺は金のために動いた訳じゃないからな」


 ライアン天帝の申し出を、エイジは素っ気なく断る。まあ、予想はしていたけど。ちょっと不味い状況だな。


「エイジ殿……先ほどから陛下に対する不遜な態度は、どういうつもりだ? エイジ殿がSSS級冒険者でないのなら、決して許されることではないぞ!」


 ライアン天帝の傍らにいる皇太子・・・ルーク・フェンテスが言う。

 ルークは元は第2皇子で、本来は兄である第1皇子が帝位を継ぐ筈だったけど。ルークは政治的手腕を買われて、皇太子になった。


 ルークはしたたかな奴だからな。エイジの態度を咎めたのは、感情的になった訳じゃなくて。立場上、言わざるを得ないからだ。

 SSS級冒険者は国に縛られない独立した存在だから、ある程度のことは許されるけど。エイジは自分からSSS級冒険者じゃないと言ったんだからな。


「ルーク殿下、ライアン陛下、申し訳ありません。ねえ、エイジ君も謝って!」


 ジュリアがエイジの代わりに謝るけど。


「確かに、俺は只の一般人だからな。不遜な態度は詫びよう。だが話が訊きたいと言うから、宮廷に来ただけの話で。もう用がないなら、俺は帰らせて貰う」


 口で詫びると言っても、エイジの態度は変わらない。まあ、エイジはこういう奴だからな。だけどこのままだとルークは、引き下がる訳にいないからな。俺が助け船を出すことにする。


「エイジさんは『自由の国』の客人なんだよ。『自由の国』の国王として、俺が責任を持つから。エイジさんに文句があるなら、俺に言ってくれ」


「……解りました。アリウス陛下の客人でしたら、今回のことは大目に見ましょう」


「ル―ク皇太子。そう言って貰えると助かるよ」


 国王の肩書を使うのは好きじゃないけど。これで話が収まるなら仕方ない。


 それから俺たちはスタンピードの件を一通り報告して。フランチェスカ皇国の宮廷を後にした。


 とりあえず、一緒にメシでも食べないかと。エイジとジュリアを誘って、皇都パーチェスの街中にある食堂に入る。

 俺がいつものように、肉中心の料理を次々と平らげていると。


「アリウス。さっきは済まなかったな」


 エイジがぼそりと言う。


「いや、別に構わないけど。エイジさんも自分の考えを通したなら、冒険者に復帰した方が良いんじゃないか。エイジさんなら、また一から冒険者を始めても、直ぐにSSS級冒険者になれるだろう」


 冒険者ギルドには、すでにエイジの死亡届が出ているけど。エイジ本人が冒険者ギルドに行って、生存確認ができれば冒険者に復帰できる。だけどエイジは過去の自分を捨てるつもりで、その気はないらしい。


 だけどエイジが人々を救うために活動を続けるなら、これからも王族や貴族と関わることも多いだろうし。エイジの態度だと、またトラブルになりかねない。

 だったら別の冒険者として新たに登録して、SSS級冒険者になってしまえば良い。所詮、冒険者は自己申告で登録する訳だし。自分から過去の功績を捨てても、文句を言う奴はいないからな。


「一から冒険者として始めるか……確かに、それもありだな」


「そうよ、エイジ君。冒険者ギルドから情報が得られるから、エイジ君が活動するのに役に立つわよ」


 今はエイジとジュリアは一緒に行動しているから、ジュリアを通じて冒険者ギルドから情報を得ているけど。エイジが死んだことになってから、1人で活動していた2年間は世界を放浪しながら。偶然居合わせた現場で、人々を助けていたらしい。


「そうだな。いつまでもジュリアに頼る訳にいかないからな」


「エイジ君なら、いくら頼っても構わないし。むしろ、もっと私に頼って欲しいけど。エイジ君が冒険者に復帰するのは賛成だわ。私はエイジ君がやってることを、皆に知って欲しいのよ」


 ジュリアはエイジの気持ちを尊重して、冒険者に復帰にすることを無理に勧めなかったみたいだけど。このままだとエイジは、自分勝手な正義を振りかざして、魔王アラニスに殺された冒険者として終わることになる。


 だけど今のエイジは、人々を救うために戦っているからな。そんなエイジのことを、皆に知って欲しいと思うジュリアの気持ちは、俺にも解るよ。


「じゃあ。エイジさんがSSS級冒険者まで一気に駆け上がるのを、楽しみにしているよ」


 今回、スタンピードの元凶になった『偽神デミフィーンド』を倒したことで。SSS級冒険者に挑戦できるだけの功績を上げたことになるけど。まだ新たな冒険者として登録する前だからな。エイジの性格だと、それで良しとしないだろう。

 だけど今のエイジなら、これくらいの功績は直ぐに上げるだろうからな。


「ああ、アリウス。おまえは冒険者の頂点で待っていてくれ」


 そんな言い方をされると、むず痒いけど。俺は否定しなかった。

 エイジが冒険者に復帰することが、俺も嬉しいからな。水を差したくないんだよ。


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