第291話:悪友
今日一緒にダンジョンに行くことになった時点で、こうなることは解っていたからな。みんなには事前に伝えていた。
だけど2日連続で、カーネルの街の冒険者ギルドで夕飯を食べることになるからな。今日はみんなも一緒に来ることになっている。
俺は『
ジェシカたちSS級冒険者パーティー『白銀の翼』は、今日も高難易度ダンジョン『竜の王宮』に挑んでいて。アランたちも一緒に、カーネルの街に来るって言うから。人数分の『転移魔法』が使えるブレスレットを渡しておいた。
「シリウス、アリシア、久しぶりね。宿屋の暮らしにはもう慣れたの?」
「ちょっと見ない間に、2人とも少し強くなったんじゃない?」
エリス、ソフィア、ミリア、ノエルの4人は、シリウスとアリシアと楽しそうに喋っている。
シリウスとアリシアは、みんなと仲が良いからな。
ミーシャとグレイスは、シリウスとアリシアがみんなと喋っているから、最初は手持ち無沙汰って感じだったけど。
エリスがシリウスたちパーティーの話題を振って、ミーシャとグレイスを話に引き込んだから。ミーシャとグレイスも直ぐに、みんなと打ち解けた。
「じゃあ、アリウス。私たちは向こうのテーブルで食事をしているわ」
俺がシリウスたちと夕飯を食べる約束をしたから。みんなは邪魔をしないようにと、自然な流れで別のテーブルにつく。
ホント、こういうところが、みんならしいよな。みんなもカーネルの街の冒険者ギルドで、すっかり顔馴染みだから。話をする相手には困らないだろうけど。
「ゲイルさん、ヘルガさん。今日は私たちが先約だから。アリウスお兄ちゃんを取らないでね」
「そうだよ。ゲイルさんもヘルガさんも、アリウス兄さんとお酒を飲み始めると、際限がないからね。今日はゲイルさんたちだけで飲んでよ」
アリシアとシリウスが、ゲイルとヘルガを牽制する。まあ、そんなことを言わなくても、今日はアリシアたちを優先するつもりだけど。
俺とシリウス、アリシア、ミーシャ、グレイスの5人は、テーブルを囲んで。それぞれ好きなものを注文する。
とりあえず、乾杯して。メシを食べ始めたタイミングで、ジェシカたち『白銀の翼』のメンバーが到着する。
「アリウス君がいるんだから、今日は当然アリウス君の奢りだよね?」
マルシアが開口一番、こんなことを言うと。
「アルシアは、また何を言っているの! あんたは毎回、アリウスに集らないでよ!」
「そうですよ、マルシア姉さん。今日はアリウスさんに散々お世話になりましたので。本当は私の方が、奢らないといけないんですよ」
ジェシカとミーシャが文句を言うけど。マルシアが聞く筈がないからな。
「ジェシカもミーシャも堅いよね。アリウス君は太っ腹だから、細かいことなんて気にしないよ。ねえ、マスター! 一番高いお酒をボトルで! 料理も高い方からジャンジャン持って来てよ!」
まあ、メシを奢るくらいは構わないけど。ミーシャやグレイスの気持ちを無下に、無視する訳つもりはないからな。
「マルシア、今日は奢らないからな。ミーシャたちと、割り勘にする約束なんだよ」
マルシアは一瞬目を丸くすると。ニニヤリと笑って。
「じゃあ、仕方ないな。ミーシャがアリウス君に、お世話になったみたいだし。今日はあたしがアリウス君に奢るよ。ミーシャもそれなら問題ないよね?」
マルシアの言葉に、冒険者ギルド中が騒然となる。
「マルシア……熱があるんじゃない?」
「そうだぜ、マルシア。今日は帰って寝た方が良いんじゃねえのか?」
ジェシカとアランが本気で心配している。
「ジェシカもアランも、失礼だよね。いやー、いつもアリウス君には奢って貰っているから。たまには、あたしも奢らないとって思っていたところだからね」
マルシアのことだから、何か企んでそうだけど。別に断る理由はないからな。
マルシアもSS級冒険者だし。メシを奢る金くらいは余裕で出せるだろう。
「じゃあ、マルシア。遠慮なく奢って貰うよ」
「アリウス君、ジャンジャン注文して良いからね。みんなにも奢るところだけど。ミーシャたちは自分で払いたいんだよね?」
「ええ、マルシア姉さん。気持ちは嬉しいですけど。奢って貰う理由がありませんので」
ミーシャの言葉に、マルシアはアッサリ引き下がると。
「じゃあ、アリウス君。あたしは、うちのパーティーのみんなと食べているから。勝手に注文してよ」
ジェシカたち『白銀の翼』のメンバーと、俺たちの隣のテーブルを囲む。
マルシアは自分が払うことになったから、注文した高級酒と高い料理をキャンセルしている。
マスターが空気を読んで、注文を止めていたから。キャンセルして問題にならなかった。
それでもマルシアが大食いだから。改めて普通の料理を大量に注文する。
俺の方はというと。マルシアに奢って貰うからと、ここぞとばかりに高い酒や料理を注文するなんてことはなくて。
シリウスたちと話をしながら、いつものように肉中心の料理を、次々と平らげていく。
「マルシア姉さんもたくさん食べますけど。アリウスさんも、本当に良く食べますよね」
ミーシャの言葉に、グレイスが頷く。
「俺も毎日ダンジョンを攻略しているから、腹が減るんだよ。それと冒険者は身体が資本だからな。無理する必要はないけど、おまえたちもたくさん食べた方が良いぞ」
俺はずっとダンジョンに挑んで来たし。今も毎日
「マルシアも普段どんな風に、ダンジョンを攻略しているかまでは知らないけど。いつもふざけているように見えて、やることはやる奴だからな。
他の冒険者に対しても、マルシアはウザ絡みしているようで、実は面倒見が良いし。あれだけ食べるのも、滅茶苦茶腹が減るほど真剣に、冒険者をやっているってことだろう」
俺の言葉にミーシャが目を丸くする。
「アリウスさんは、マルシア姉さんのことを良く解っているんですね」
ミーシャとマルシアは全然似ていないけど。こういう仕草を見ると、やっぱり姉妹なんだなって思うよ。
「まあ、俺とマルシアも5年以上の付き合いだからな。マルシアのことは、それなりに解っていると思うよ」
奢らされることも含めて、俺はマルシアが嫌いじゃない。マルシアが俺に奢らせるときは、自分の分だけじゃなくて。周りの冒険者たちの分も奢らせるし。
「そうなんですよ。マルシア姉さんは、ああいう性格ですけど。実は凄く優しいんですよ。アリウスさんのことだって、マルシア姉さんはいつも――」
「アリウス君とミーシャは、何を喋っているのかな? 隣のテーブルにいるあたしを弄るなんて。アリウス君もミーシャも、良い度胸しているよね」
ミーシャの言葉を遮って、マルシアが乱入する。
「マルシア姉さん……」
「ミーシャ。勝手なことを言うと、あたしだって怒るからね」
マルシアがミーシャに口止めする。まあ、ミーシャが何を言おうとしたのか、何となく想像がつくけど。
「どうせマルシアは、ミーシャに俺の悪口を言っているんだろう」
本当は、そんなことは思っていないけどな。
「あ、バレちゃった? アリウス君は相変わらず、鋭いよね」
マルシアはニヤリと笑う。
複雑な顔をするミーシャの頭をポンと叩くと、マルシアは自分たちのテーブルに戻っていく。
俺は話題を変えて、それ以上マルシアの話はしなかった。ミーシャもマルシアに口止めされたから、話を蒸し返したりはしない。
ミーシャは俺がマルシアのことを誤解していると思っているみたいで、ちょっと不満そうだったけど。
俺とマルシアにとっては、これくらいの距離感が、ちょうど良いんだよ。
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