第290話:やり方は違うけど


 シリウスとアリシアが、俺が戦うところを見たいと言うので。


「別に良いけど。おまえたちの参考にはならないと思うよ」


「それでも構わないわ。私はアリウスお兄ちゃんが本気で・・・で戦うところを見てみたいの」


「僕もそうだよ。アリウス兄さん、お願い!」


 結局、俺が戦うところを、シリウスたち4人に見せることにした。俺も弟と妹には甘いってことだな。


 シリウスたちが戦ったことがある魔物の方が、多少は参考になるだろうと。俺はシリウスたちが攻略中の55階層で戦うことにする。


 玄室の扉の前に立つと、シリウスとアリシアは期待に満ちた目で。ミーシャとグレイスは興味津々と言う感じで、俺を見ている。


「じゃあ、始めるからな」


 玄室の扉を開けると、6体のベヒモスが出現する。

 ベヒモスは金属の鎧を纏った巨大な雄牛のような姿の魔物で、レベルは130。この階層に出現する魔物の中では、強さはトップクラスだ。

 だけど出現した次の瞬間に、6体のベヒモスは魔石だけを残して消滅した。


「「え……」」


 ミーシャとグレイスは唖然としている。

 シリウスとアリシアは俺が何をしたのか、真剣な顔で考えている。


「あの……アリウスさん。今、何をしたんですか?」


「普通に剣で切っただけだよ。今のおまえたちじゃ、俺の動きが見えないのは仕方ないけどな」


「ヒュウガさんと戦ったときも、アリウスさんの動きは全く見えなかったが……相手はヘビモス6体だぞ……」


 グレイスはカーネルの街の冒険者ギルドで、俺とヒュウガが模擬戦をしたところを見ている。

 だからグレイスは俺の戦いぶりを、ある程度は予想していたようだな。


 だけどグレイスには悪いけど。俺はグレイスたちが想像できるようなレベルじゃないからな。

 俺もグレイとセレナが本気で戦うところを初めて見たときは、何をしたか解らなかったからな。


 俺は同じように、玄室の扉を開けた瞬間に魔物たちを殲滅することを繰り返す。

 ミーシャとグレイスは、俺の動きを何とか捉えようと、必死に目を凝らして見ていたけど。こいつらのレベルで、見える筈がないからな。


「うーん……悔しいけど、アリウスお兄ちゃんの動きが全然解らないわ」


「僕もだよ。少しは感知できる・・・・・と思ったのに」


 シリウスとアリシアは、俺と何度も模擬戦をしているからな。俺の動きが見えないことは解っている。だから『索敵サーチ』を発動して、魔力で俺の動きを捉えようとした。


 やり方は間違ってないけど。今のシリウスとアリシアには、俺の魔力の動きを捉えることはできないだろう。2人はセンスがあるけど、実戦経験が足りないからな。


「シリウスもアリシアも、もっと『索敵』のレベルを上げないとな。日常生活でも常に意識して、魔力を感知する癖をつけた方が良いよ」


 ギリギリの戦いの中で感覚を磨く方が、手っ取り早いけど。常に意識することで『索敵』のレベルは上がるからな。


「じゃあ、一応解説と言うか。今度はスピードを落して、俺が戦うところを見せるよ」


 さすがに、このままだと何の参考にもならないからな。

 だけど俺だったら、種明かしなんか聞かないけど。

 自分の頭で考えて、できることを全部試して。鍛練することで、自分の答え・・・・・を見つける。


 答えなんか聞いても、せいぜいイメージが湧くくらいだろう。

 どうしたら、自分に同じことができるようになるのか。それが解らないと、意味がないからな。


 次の玄室の扉を開けると、5体の魂喰らいソウルイーターが出現する。

 俺は一瞬で距離を詰めて、1番左側の魂喰らいの目の前で動きを止める。

 これでシリウスたちも、俺の姿を捉えられた筈だ。


 俺は魂喰らいたちが反応する前に、再び動き出すと。剣を横に一閃して5体の魂喰らいを両断したところで、再び動きを止める。

 そして5体の魂喰らいが魔石に変わる瞬間。俺は玄室の扉を開けた位置に戻る。


「まあ、こんな感じだよ」


 俺がやったことは、速いだけでシンプルだ。

 ミーシャとグレイスは唖然としているけど。シリウスとアリシアは目を輝かせる。


「アリウスお兄ちゃん。私も鍛えれば、今みたいなことができるようになれるの?」


「ああ、絶対にできるとは言えないけど。これくらい・・・・・の動きなら、アリシアとシリウスが目的意識を持ってキッチリ鍛えれば、できるようになると思うよ」


 今回は速度を落として動いたからな。アリシアとシリウスが鍛錬を続けて、魔法を併用すれば、決して不可能な動きじゃない。


「アリウス兄さん。僕もアリウス兄さんみたいになれるように頑張るよ」


「シリウス。頑張るのは良いけど、速さだけに拘るなよ。速ければ良いって訳じゃないし。速さに拘ると動きが雑になるからな」


「うん。アリウス兄さん、解ったよ」


 アリシアとシリウスは、どうすれば俺のような動きができるか。ミーシャとグレイスに相談して、一緒に考えている。


 それから、またしばらく4人が戦うところを見ながら。魔力の捉え方とか、効率的な動き方とか、魔法の選択の仕方とか。俺は4人の質問にそれぞれ応えることになった。


 シリウスたちは、ただ俺に訊くだけじゃなくて。意見を出し合って、直ぐに実戦で試している。

 実戦で試すことで、シリウスたちの動きは少しずつだけど、確実に良くなっていく。


 俺の感覚だと強くなるためには、自分の頭で考えて、自分で答えを出すけど。

 シリウスたちは4人で一緒に考えることで、自分たち・・・・の答えを出している。

 どっちが正解とか、そんなことじゃなくて。これも1つの方法だと思うよ。


 この4人は強くなるな。シリウスとアリシアが、いつまで冒険者を続けるのか解らないけど。この4人が本気で上を目指したら、数年後にはS級冒険者になれるだろう。


 まあ、父親のダリウスと母親のレイアは当分現役だろうし。シリウスとアリシアが冒険者を続けるか、王国宰相の地位を継ぐか。それとも将来別の道に進むにしても、まだ考える時間は十分あるからな。


「そろそろ、帰るか。今日は俺もおまえたちに教えて貰ったからな。メシくらい奢るよ。一緒にダンジョンを攻略したんだし、それくらいは構わないだろう?」


「アリウスさん。私たちが何か教えたとか、意味が解りませんよ。アリウスさんには色々と教え貰いましたので。むしろ、私たちは授業料を払わないといけないくらいです」


「そうだぜ、アリウスさん。さすがに、そこまでして貰う訳には……」


「だったら割り勘で、みんなで一緒に御飯を食べようよ」


「そうだよ。ミーシャとグレイスも、アリウス兄さんともっと色々訊きたいよね?」


 アリシアとシリウスの言葉に、ミーシャとグレイスが頷く。


「それは勿論ですよ。アリウスさんが迷惑でないのでしたら」


「俺だって。アリウスさんに教えて貰える機会なんて、滅多にないからな」


 まあ、ミーシャとグレイスはA級冒険者だし。シリウスとアリシアも、A級冒険者になる功績を上げていないだけで。実力はA級冒険者クラスだから。対等な冒険者として扱うべきだな。


「じゃあ、みんな。同じ冒険者として、一緒にメシを食べに行くか」


 今度はミーシャとグレイスも、嬉しそうに頷いた。


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