第287話:商談


 次の日は、ガルシアとミランダと魔族と取引について打ち合わせをした。


 魔族の領域にしかいない魔物のめずらしい素材とか、天然の魔石とか。魔族が提供できるものと、魔族が欲しがるもの。

 魔族との取引全般を管理しているエリスが中心になって。『自由の国フリーランド』に移住した魔族の意見も聞く。


 ガルシアも当然準備していて。新たに取引に使えそうな商品のサンプルを、マジックバッグに入れて大量に持って来ていた。


「これは実際に、魔族の氏族に持って行って意見を聞いた方が良さそうね」


 ガルシアとミランダを魔族の氏族に連れて行くことも考えたけど。知らない奴が行くと、向こうも警戒するからな。

 とりあえず俺たちが品物を預かって、魔族の氏族に持って行って。ガルシアたちに意見をフィールドバックすることになった。


「皆さん、ありがとうございました。今回は本当に有意義でしたよ。魔族のことを少しでも知ることがで、新しい取引の話も進みそうですし」


「こっちとしても、ガルシアは魔族が欲しがるような品を直ぐに集めてくれるから、助かるよ。俺としては商売のことだけじゃなくて、互いのことを知るために、魔族との取引を広げたいからな」


 相手の好みを知ることは、相手を理解することに繋がるし。取引のために話をすることで、さらに理解が深まるだろう。


「私もアリウスと同じ意見ですよ。それにしてもエリスさんは若いのに本当にやり手ですね。わずか数年で魔族との取引を完全に取り纏めて、魔族の領域で安全な公益を確立したんですから」


 エリスのマリアーノの商会は、腕利きの冒険者や傭兵を雇っているのもあるけど。エリスは魔王アラニスと交渉して、魔族の国ガーディアルの魔族に護衛を依頼したり。魔族の氏族とも明確なルールを決めることで、安全を確保している。


「安全に取引ができるのは、アリウスのおかげよ。アリウスがアラニス陛下と良い関係を築いているから、陛下も協力してくれるのよ。それに商売に関しては、ガルシアさんやミランダさんに比べたら、私なんてまだまだだわ」


「いや、俺はアラニスを紹介しただけで。エリスがいるから、魔族の取引が上手く行っていると思うよ。俺はエリスを頼りにしているからな」


「アリウス……ありがとう」


 ガルシアとミランダが、俺たちを微笑ましそうに見ている。こうなることは解っていたけど。気持ちを言葉にすることは大事だから、俺は素直に言うことにしている。


 2日目の夜は『自由の国』の城塞で、ガルシアとミランダと一緒に食事をした。

 港市国家モルガンに旅行に行ったときに、ガルシアたちに散々世話になったから。みんなで手料理を振る舞うことにしたんだよ。俺は料理をしないから、配膳を手伝っただけだけど。


 食事にはアリサも参加して。抜け目なく自分の実力をアピールして、ガルシアとのパイプを築いていた。

 まあ、情報収集に長けたアリサと協力関係を築くことは、ガルシアにもメリットがあるだろう。


※ ※ ※ ※


「始祖級ヴァンパイアなんて化物を、簡単に生み出せるのか。『神』って奴は 相当ヤバイな」


 ガルシアとミランダが『自由の国』を訪れた数日後。

 俺はカーネルの街の冒険者ギルトで、ゲイルたちと飲んでいる。

 ちなみにジェシカたちのパーティーは『竜の王宮』を攻略中で、別の街を拠点にしているから、今日は来ていない。

 ジェシカ本人は『自由の国』から毎日『転移魔法』で通っているけど。今夜はみんなで女子会をしている。


 マバール王国で始祖級ヴァンパイアとアンデッドの大群を殲滅した後。とりあえず、知り合い全員に『伝言メッセージ』で、同じような化物が出現する可能性があることは伝えたけど。


 俺と『RPGの神』の関係を知らないゲイルたちが、どこまで信じるか解らないから。直接話をしに来たんだよ。


 だけどゲイルたちは、俺の話をアッサリ信じた。


「ゲイル。『神』なんて荒唐無稽な話を、なんで簡単に信じるんだよ?」


「アリウス。俺たちが何年、おまえと付き合っていると思っているんだ? アリウスが嘘をつかないこと解っているし。こんな嘘をついたって、おまえに得はねえだろう?」


 ゲイルの仲間たちが大きく頷く。


「私はむしろアリウスさんなら、『神』くらい殺せると思うぜ」


 ツインテール女子のヘルガが、ニヤリと笑って。琥珀色の蒸留酒を一気に飲み干す。


「おい、ヘルガ。またそんな飲み方をしやがって。酒が勿体ねえだろう」


「ゲイル。そんなことを言うから、あんたはモテないんだよ。ああ、そう言えば、あんたにもイロがいるんだったな」


 実はゲイルに長く付き合っている恋人がいることは、すっかりバレていて。ヘルガに揶揄からかわれている。


「まあ、信じてくれるのは有難いけど。俺が戦った始祖級ヴァンパイアは2,000レベル超えだったからな。ヤバそうな奴と遭遇したら、下手に戦うなよ」


「2,000レベル超えって……マジかよ?」


 ゲイルの言葉に俺が頷くと、ヘルガが口笛を吹く。


「アリウスさん。面白えことになっているみたいじゃないか。もっと詳しく話を聞かせてくれよ」


「いや、これ以上詳しいことを話すつもりはないよ。下手なことを話して、おまえたちを巻き込みたくないし。俺は自慢話をするのは好きじゃないんだよ」


 本当のことを言えば、話すことで巻き込むと言うよりも。『神たち』の話は実際に体験した奴じゃないと、詳しく話せば話すほど、荒唐無稽に感じるからな。


 ゲイルたちが、せっかく信じてくれたのに。俺が大袈裟に言っているだけだと思われたら。油断して『RPGの神』の刺客に、殺されることも考えられる。


「アリウスさんにそう言われたら、仕方ねえな。なあ、アリウスさん。今夜はとことん飲もうぜ。マスター、ボトルを追加だ!」


 ヘルガが注文しようとカウンターの方を向くと。俺の弟と妹のシリウスとアリシアが、目の前にいた。


「ヘルガさん、ゲイルさん。そろそろ僕たちも、アリウス兄さんと話がしたいんだけど」


「そうよ。いつまでもアリウスお兄ちゃんを独占しないで」

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