第284話:王女たち
「ここにいる私の娘。第3王女のエルザは我が娘ながら、マバール王国でも屈指の美姫と言われている。アリウス殿には何人もの妻がいることは聞いているが。ならばエルザを新たな妻の1人としても、何の問題もないだろう?」
ロドニー国王は俺が女好きだと思っているらしく。娘であるエルザを、妻として差し出そうとする。
当のエルザ本人は、王族の務めを果たす覚悟を決めた顔で、じっと俺を見つめている。
「エルザ。先に言っておくけど、俺はおまえが気に入らない訳じゃないからな。まあ、初めて会ったのに、気に入るも何もないけど」
「え……アリウス陛下、それはどういう意味でしょうか?」
戸惑うエルザを残して、俺はロドニー国王に向き直る。
「ロドニー、おまえは勘違いしているよ。俺は結婚したみんなを、何よりも大切に想っているんだ。だから相手が誰だろうと、他の奴と結婚するつもりなんてないからな」
ロドニー国王は穏やかな笑みを浮かべる。
「なるほど。アリウス殿は愛妻家のようだな。ならば親である私としては、尚更アリウス殿にはエリザを妻として娶って欲しいものだ。無論、持参金については、できる限り用意するつもりだ。他にも何か望むモノがあれば、是非とも聞かせて欲しい」
ロドニー国王は調子を合わせているけど。俺が条件を吊り上げるために、形だけ断ったと思っているようだな。
「ロドニー、おまえには話が通じないな。俺はエリザと結婚する気はないって言っているだろう。話がそれだけなら、俺は帰るからな」
俺が本当に帰ろうとすると、ロドニー国王が慌てて止める。
「アリウス殿、待ってくれないか。何か気に障ったのであれば詫びよう。アリウス殿には、わざわざマバール王国まで来て貰ったのだ。このまま歓待もせずに、帰らせる訳にはいかないだろう」
「だったら、もっと真面な話をしろよ。俺は話をしに来ただけで、おまえたちに何か要求するつもりはないんだよ。それに本当に魔族と共存したいなら、まずは俺に頼る前に、自分たちで行動を起こせよ」
まあ、ロドニー国王は俺の後ろ盾が欲しいだけで。本気で魔族と共存しようだなんて、考えていないからな。
マバール王国は魔族の領域に面していないから。魔族と直接関わらない安全な場所で親魔族派を謳うことで、俺に擦り寄って。他の国とトラブルになったら、俺の名前と力を利用する魂胆だな。あわよくば、魔族との取引に一枚噛んで、利益を得ることも考えているだろう。
「とりあず、おまえたちが行動を起こした後に話を持って来いよ。そのときは、俺も考えるからさ」
形だけでも魔族との共存を謳う奴が増えることで、人間と魔族の共存が少しは進むかも知れないけど。俺を利用しようとする奴に力を貸したら、同じようなこと考える奴が増えるからな。
俺がそのまま立ち去ろうとすると。広間の扉が大きな音を立てて開く。
「アリウス陛下、待ってください!」
現われたのは20代前半の女子。髪と瞳の色はロドニーと同じで、顔立ちはエリザに良く似ている。
こいつはキシリア・マバール。マバール王国の第2王女だ。
「キシリア! 誰も入れるなと命じたのに、何故おまえが入って来るのだ!」
キシリアは父親であるロドニー国王の咎めを無視して。
「お父様もオーランド侯爵も、
まずは自分たちの判断が誤りだったことを詫びて、アリウス陛下に誠心誠意お礼を伝えることが為政者として……いいえ、人としての最低限の礼儀でしょう!」
キシリアは一気に捲し立てる。まあ、キシリアが
だけどキシリアは俺がアンデッドを倒したと断定しているけど。そんな証拠はないからな。
「キシリア、憶測で物を言うな。仮にアリウス殿がアンデッドを倒したとしても、本人が口にしていないのだから、詮索すべきではない。それに話を聞いていただと……おまえは、また勝手なことを!」
ロドニー国王も本音を言えば、俺がアンデッドを倒した可能性が高いと思っているだろう。だけど俺がしたことは立派な内政干渉だからな。
だからロドニー国王は俺が口にしないと踏んで。交渉を有利に進めるために、俺がアンデッドを倒した可能性については一切触れなかった。
まあ、ロドニー国王が俺を舐めているってのもあるだろう。ロドニー国王は俺が1人で1万を超えるアンデッドを殲滅したとは、たぶん思っていないからな。
俺が
その後も、俺は魔界や
別にロドニー国王を擁護するつもりはないけど。俺に関する噂はそこまで暴力的なモノじゃないし。魔王アラニスやロナウディア王国を後ろ盾にして、好き勝手にやっているSSS級冒険者くらいにしか思っていないだろう。
「アリウス殿、立場を弁えぬ娘が無礼なことをして申し訳ない。おい、誰か! キシリアを連れていけ!」
「お父様、止めてください! 私はまだアリウス陛下に話したいことが!」
ロドニー国王の指示に騎士たちが広間に入って来て、キシリア王女を連れ出そうとするけど。俺は騎士たちとキシリアの間に入る。
「おい、待てよ。俺はキシリアと話しているんだ。キシリアを連れて行くなら、俺は帰るからな」
「アリウス陛下……」
キシリアが驚いたような、期待するような目で俺を見る。
「アリウス殿。我が娘ながら恥ずかしいことだが、キシリアは王族の務めを放棄するような愚か者だ。キシリアの言葉に耳を貸す必要などない」
ロドニー国王は諸外国との間で上手く立ち回るために、政略結婚を常套手段にしている。まあ、良くある話だけど。
俺に差し出そうとした第3王女のエルザも、すでに他の国の王族と婚約していて。ロドニー国王はそいつと俺を天秤に掛けて、婚約を破棄してエルザ王女を俺に差し出すつもりだったんだろう。
第1王女は、すでに政略結婚をしているし。エルザの下にいる3人の王女も、1番下の5歳の第6王女まで、全員政略結婚する相手が決まっている。
だけど第2王女のキシリアは政略結婚などしたくないと、マバール王国を飛び出した。最近になってマバール王国に戻って来たことまでは知っているけど。キシリアが戻って来た理由までは知らない。
「ロドニー、おまえたちの事情に口を挟むつもりはないけど。俺は王族の務めとか、興味ないんだよ。まあ、俺もロナウディア王国の宰相の息子だけど、冒険者になったから。貴族としての務めを放棄したことになるよな?」
ロドニー国王は言葉を詰まらせる。否定したら、キシリアの行為を認めることになるし。肯定したら、俺を批判することになるからだ。
「アリウス殿は独立して『
「ロドニー、論点をすり替えるなよ。まあ、おまえと話していても埒が明かないからな」
俺はキシリア王女の方に向き直る。
「じゃあ、キシリア。おまえの話を聞かせてくれよ」
少なくとも、キシリアの方がロドニー国王のよりも、真面なことを言っているし。話くらいは聞いても構わないだろう。
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