第283話:マバール王国


 俺は『自由の国フリーランド』の国王として、マバール王国から正式に招待された。

 俺はマバール王国で始祖級ヴァンパイアと、アンデッドの軍勢を殲滅したけど。姿を隠して戦ったから、マバール王国に行ったことは、バレていない筈だけど。


 まあ、スタンピード規模のアンデッドの大群を、一夜で殲滅できる奴なんて限られるし。報酬もないのに、そんなことをする奴は、さらに限定されるからな。


 俺のことをそれなりに知っている奴なら、俺がやった可能性を想定しているだろう。まあ、証拠なんてないから、シラを切れば良いんだけど。


 俺は1人でマバール王国の王宮に向かう。みんなを連れて来ることも考えたけど。相手の出方を探るために、敢えて1人で来た。


「アリウス・ジルベルト殿。ようこそ、我がマバール王国へ」


 マバール王国の国王ロドニー・マバールは、明るい色の髪と口髭の40代の男で。温厚そうな顔をしているけど。まあ、見た目だけだな。


 小国であるマバール王国は、上手く立ち回ることで、周辺諸国との関係を築いて来た国で。国王のロドニーはしたたかな政治家として知られている。

 だけど東方教会の圧力に屈して、ローアン地方を放棄するとか。ロドニーは国王として完全に失格だろう。


 王宮の広間にいるのは、ロドニー国王の他に2人。1人はロドニーの腹心であるブレン・オーランド侯爵だ。

 ブレン侯爵はマバール王国の闇の部分を担っていて。反国王派の貴族からは『国王の猟犬』と呼ばれている。今回、ローアン地方を放棄した件にも、当然絡んでいるだろう。


 もう1人はロドニー国王と同じ色の髪と瞳の10代後半の女子。マバール王国第3王女のエルザ・マバールだ。


「アリウス陛下、お飲み物をどうぞ」


 エルザ王女は客観的に見て、結構な美少女で。胸元を強調するような水色のドレスを着ている。まあ、それはどうでも良いんだけど。

 まだ10代のエルザが、マバール王国の政治に絡んでいる訳じゃないし。この場にいるような面子じゃないよな。


 俺は『索敵サーチ』で、王宮周辺の戦力と配置は確認済みだ。

 広間の周囲の部屋に、騎士と使用人たちが待機しているけど。人数は最低限だから。ロドニー国王は人払いをして、密談をするつもりみたいだな。


 だったら、なおさらエルザ王女がいることに違和感を感じる。まあ、エルザを同席させた理由は、想像がついているけど。


「それで、ロドニー。おまえは俺に何の用があるんだよ? まさか『自由の国』と友好関係を築くために、俺を呼んだとでも言うのか?」


「アリウス陛下! いきなりロドニー陛下を呼び捨てにするなど、どういうつもりですか?」


 ブレン侯爵が怒りを顕にする。


「ロドニー陛下はアリウス陛下を同じ国王という立場で招待したのです。いささか無礼が過ぎませんか?」


「俺は自分の国の人間を切り捨てるような奴に、敬意を払うつもりはないんだよ」


 俺は正面からロドニー国王を見る。ブレン侯爵がまだ何か言おうとすると。


「ブレン、止さないか……アリウス殿、確かにその通りだ。我々がどのような理由で苦渋の選択をしたとしても、事実は事実だ。アリウス殿に何と言われても仕方ないだろう」


 ロドニー国王は素直に認めるフリをしているけど、結局言い訳しているだけだな。


「苦渋の選択ね。おまえは東方教会の連中の言いなりになっただけだろう。ローアン地方を治めていたのは、親魔族派のトーリ伯爵だからな」


 ロドニー国王とブレン侯爵の顔色が変わる。エリザ王女は雰囲気に怯えているとけど、完全に蚊帳の外だな。


「アリウス殿が、どのような噂を聞いたかは知らないが。決してそのようなことはない。そもそも私が東方教会の言いなりであれば、『自由の国』の国王であるアリウス殿を招く筈がないだろう?」


 まあ、確かにその通りだけど。ロドニー国王が俺を招く前に、東方教会の教皇ルードに、俺を招いても問題ないかと打診したことは知っているからな。


 教皇ルードはマバール王国内の東方教会の連中に、王国に圧力を掛けるのを止めさせようとした。まあ、教皇ルードが動いたのは、俺が文句を言ったからだけど。

 教皇ルードが動いたことで、ロドニー国王が東方教会の風向きが変わったと感じていた矢先。何者かがヴァンパイアとアンデッドの軍勢を殲滅した。


 ロドニー国王は、アンデッドたちを殲滅したのが俺だと確証していた訳じゃないだろう。確証するだけの材料はなかったからな。

 だけど東方教会の風向きが変わったことで、今回の事件に俺が関わっている可能性を考えたんだろう。


 だから教皇ルードに俺を招くことを話したのは、ルードの反応から、俺が関わっているかどうか確証を得るためだ。

 結果、教皇ルードから返事がなかったから。東方教会が黙認するしかない・・・・・・・・状況だと、判断したってところだろう。


「アリウス殿を招いたのは他でもない。人間と魔族が共存する『自由の国』の国王であるアリウス殿に、私は強く感銘を受けた。

 我々も可能であれば、魔族と共存することを望んでいる。突然のアンデッドの襲撃によって、親魔族派のトーリ伯爵が犠牲になったことは、大変遺憾ではあるが」


 ロドニー国王は悲痛な表情を浮かべる。だけど俺には芝居掛かって見える。


「マバール王国には東方教会の信者が多い。だからこれまでは、反魔族の姿勢を取らざるを得なかった。だが我々はトーリ伯爵の遺志を継いで、親魔族の姿勢に改めようと考えている。

 そのためにアリウス殿、貴殿に助力して貰えないだろうか? 無論、アリウス殿が助力してくれるのであれば、我々も最大限の誠意を見せるつもりだ」


 白々しいことを言っているけど。つまりロドニー国王は、俺と東方教会を天秤に掛けているってことだな。俺が助力をするなら、魔族派になってやる・・・・・と。


「ここにいる私の娘。第3王女のエルザは我が娘ながら、マバール王国でも屈指の美姫と言われている。アリウス殿には何人もの妻がいることは聞いているが。ならばエルザを新たな妻の1人としても、何の問題もないだろう?」


 まあ、エルザ王女がいる時点で、予想していたけど。俺がみんなと結婚したことで、ロドニー国王は俺を相当な女好きだと思っているんだろう。

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